ロークラス・7

「はいはい!私も、入れてー!!」



 名乗り出てきた五人目は、さきほどの朝日奈さんだ。帰国子女ということもあってか、積極性が凄い。


 そこへ、すかさず三浦が質問をぶっ込んできた。



「構わんが。植村とは、どういう関係なんだ?さっきまで、裏でコソコソとやってたようだが」



「初めて会ったよ、ユウトとは。お父さんのソウイチロウとは、仲良いけど」



 不躾ぶしつけな質問にも、あっけらかんと答える朝日奈さん。だが、その言葉にクールな神坂さんが引っ掛かったようで。



「ソウイチロウって……もしかして、植村ソウイチロウ?植村くんのお父さんって!?」



「え、あぁ……うん。一応、ね」



 俺からのカミングアウトに、朝日奈さん以外のメンバーが全員、「おおっ」といったリアクションを見せる。やっぱり、この界隈では相当な有名人らしい。一度も、会ったことないんだけど。


 隣の月森さんも、やや興奮気味に尋ねてくる。




「凄い!じゃあ、お父さんから色々と冒険者の技術とか教わってきたの?」



「それが、全く。生まれた頃から、海外赴任でさ。だから、あんまり期待はしないで」



「そうなんだ……でも、さっきは凄かったよ?山田くんと綾小路さんを、同時に組み伏せてて」



「あぁ、アレはね……最低限の体術くらいは、独学で学んできたから。はは」




 仲間にちからを隠すのは後ろめたい気持ちもあったが、あまり目立ちたくは無いからな。ただでさえ、両親がビッグネームで注目されやすいのだ。


 そんな俺を救うかのように、朝日奈さんが脱線した話を元に戻してくれる。




「えっ。それで、私は仲間に入って良いん……だよね?」



「あっ、うん!もちろん。よろしくね、えっと……」



「朝日奈レイだよ。よろしくー!」



「うん、よろしく!月森ヒカルです」




 その流れで、全員が互いの自己紹介を済ませる。そこで、神坂さんが一言。




「これで、五人。あと一人だけど、どうする?」



「あ!実は、誘いたい人がいるんだけど……」




 チラリと前の席を見ると、上泉くんは早々に席を外していた。この後は、一緒に例の剣術を習いに行く予定だったのだが……。




「もしかして、誘いたいのは上泉か?さっき、誰かに呼び出されて、教室を出て行ったぞ」



「あぁ、そうなのか。気付かなかった……友達かな?」



「さて、どうだろうな?上泉の奴、あまり嬉しそうな顔はしていなかったが」




 こういう時の、三浦の観察眼はアテにしていい。

 なぜか、嫌な予感がする。



「ごめん!俺、ちょっと……実力テストのミーティングは、また後日。六人目を、スカウトしてくる!!」



 そう言って、植村はカバンを持って教室を出て行ってしまう。それを、ポカンとした表情で見送る小隊クランメンバーたち。



「なにか、あったのかな?植村くん」



「どうやら、アイツは困ってる奴がいると放っておけない性格のようだ。月森も、よく知ってるだろ?」



「え?あ……!」




 月森ヒカルは、幼少期の記憶を思い出す。ガキ大将から、植村ユウトが自分を守ってくれたこと。

 思えば、それが彼女にとっての初恋の始まりでもあった。




「そして、俺は……そんなアイツが、放っておけない。あっ!言っておくが、変な意味ではないからな!?」




 誰も思ってないフォローを自分で入れつつ、三浦レイジも友人の後を追うようにして、教室を出て行ってしまった。


 その様子を見送って、神坂が口を開いた。




「……行っちゃったね。さて、私も部活に出なくちゃ」



「あっ、そっか。私もだ」



 それぞれ、陸上部と新体操部に向かう準備を始める二人に、朝日奈が驚きの表情をあらわに聞く。



「二人とも、入学初日から部活なの!?私、まだ入ってもいないよ?」



 その質問に、月森が支度したくを整えながら答えた。



「それが、普通だから安心して?私たちはスポーツ推薦で入った組だから、もう入る部活が決まっちゃってるんだよね」



「あぁ〜、そういうことか!二人とも、アスリートとの兼任なんだ。すごーい!!」



「ふふっ、全然だよ。そういえば……朝日奈さんは、ポジションとか決まってるの?」



「レイで、いいよ。私は、二人みたいな運動神経は無いから、サポーターかな?後方支援」




 そう言って、彼女はカバンの中から鋼色の球体を取り出した。本当に、色んなものが入っているカバンである。




「何、それ。朝日奈さ……レイちゃんの秘宝アーティファクト?」



「ううん、違うよ。これは、パパが作った最新鋭のマルチタスク型ドローンの試作機を、私が譲り受けたもの!その名も、『デルタ・ワスプ』!!」



「ドローン!?レイちゃんのパパって、科学者さんか何か……なの?」



「そう!『日本国調査団』アメリカ支部の技術開発担当。ウェイクアップ……アルファ・ベータ・ガンマ!!」




 朝日奈レイの音声に反応して、彼女が手にしていた鋼の球体に、まるで眼球のような赤いランプが点灯すると、スゥッと宙に浮かび静止した。更には、カバンの中からも残り二つの球体が起動して、三角形の陣形を空中に作り出す。




「三体のドローン……?」



「私は、ともかく……この子達は、優秀だよ。ね。これから、よろしく!二人とも」




 宙に三体の球体を従えて、机に頬杖をついた朝日奈レイは、自信満々の笑みを浮かべたのだった。




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