ロークラス・4

 ここで、後ろの悪友から豆知識が披露される。まるで、情報屋のような男である。



「身内に冒険者がいる奴は、武器系の秘宝アーティファクトを譲渡されてるケースも少なくないようだぞ。周りにも、チラホラとそれっぽいアイテムを持ち歩いてる生徒がいるからな」



 便利道具だけじゃなくて、武器の秘宝アーティファクトも存在するのか。上泉くんの剣も、そうなのだろうか?




「みんな、良いなぁ。かっこいい武器で……」




 そう、ボソッと呟いた隣の月森さんは自身の手首に視線を落とした。よく見ると、彼女は腕時計のようなものを装着していたのだが、それにはミニサイズのニワトリの貯金箱のようなものが付属されていて……。




「何それ!?おもちゃ?」



「……に、見えるよね。こう見えて、秘宝アーティファクトなんだ。パパから、譲ってもらったやつなんだけど」



「あっ、ごめん!変なこと、言っちゃって……」



「ううん、平気だよ。私も、同じこと思ったもん。最初に、渡された時」




 この時代に流行してる携帯ゲームか何かかと思ってしまった。月森さんが、優しい人で助かった。




「ちなみに、どんな秘宝アーティファクトなの?答えたくなければ、答えなくていいんだけど」



「全然、大丈夫だよ。ガチャガチャって知ってる?」



「もちろん!お金を入れて、小さな景品が出てくるやつだよね。あ、ソシャゲのほうかな?」



「ん〜……ちょうど、その両方を合わせた感じかな?この秘宝アーティファクトは」




 この時代でも、ガチャの文化はすたれていなかった。マイナーチェンジを繰り返しながら、多少の型は変わっていても、基本的なシステムは受け継がれている。




「それ、ガチャガチャなの?」



「そう。硬貨を投入すると、武器の入った卵を産み出すの。この、ニワトリくんが」



「マジ!?武器ガチャって、こと?」



「ほんと、全く仕組みは分からないんだけどね。希少な硬貨を投入すればするほど、レア度の高い武器を生成してくれる確率が上がる。もちろん、レア度が高ければ高いほど強力な武器ってことね」




 確かに、両方を合わせた感じのガチャだ。このサイズから、普通に人間が使えるサイズの武器が生み出されるって……いや、秘宝相手に理屈を考えても、時間の無駄だろう。

 しかし、運要素が大きく関わってきそうな秘宝アーティファクトではあるな。




「じゃあ、自分の得意な武器を引き当てられるかは運次第なんだ?」



「そうだね。もちろん、引き当てるまでガチャを続けることも出来るけど、戦場ダンジョンでそんな余裕は無いよね〜」




 すると、ちゃっかりと話を盗み聞きしていた三浦が会話に参戦してきた。




「しかも、この時代の硬貨は、全て希少だ。尚更、無駄回しは出来ないだろ」



「あ、そっか。今は、電子マネーが主流だもんな」




 俺たちの会話を聞いて、月森さんは可愛らしいヒヨコのがまぐち財布を取り出すと、ジャラジャラと音を鳴らす。




「そうなんだよねぇ。こうして、常に何枚かは持ち歩いてないといけないし、色々と大変で。おまけに引き当てた武器は、24時間が経過すると強制的に消えちゃうし……」




 そう言いながらも、ニワトリと合わせてヒヨコの財布をチョイスしているあたり、彼女の可愛らしい一面がうかがえる。


 一日限定の武器ガチャか……確かに、不確定要素は多いかもしれないな。とはいえ、最高レアの武器となると、どれほどの物が出てくるのかは気になった。




「……ヒカル!」



 そんな話をしていると、茶色い髪をポニーで結んだ健康的な美少女がスポーツバッグを肩に掛けて、こちらへ駆け寄ってきた。



「あ、良かった!まだ、空いてるよ。私の前後」



「ん〜。じゃあ……」



 彼女は、チラチラッと上泉くんと三浦の二人を見ると、迷わず前の席を選択した。賢明な判断だ、俺でも上泉くんの隣を選択するだろう。




「なんか、今……何かに、敗北したような気がするんだが。気のせいだよな?」



「気のせいだ」




 悪友を一言で治めてると、月森さんが先ほどの美少女を仲介してくれた。




「彼女、私のルームメイトなんだ。名前は、神坂かみさかナオ。中学の陸上大会で、全国2位になったこともあるんだって!凄いよね!!」



「こらこら、恥ずかしい紹介はやめてって。結構、ショックだったんだから。その2位」



「ストイックだなぁ……私だったら、全国2位ってだけで喜んじゃうけど。新体操じゃ、壇上にも上がれなかったからな〜」



「そっちは、色々と芸術点とかもあるんでしょ?こっちは、ただ走るだけだから。競技が違うよ、全然」




 いや、何の才も持たない俺からしたら二人とも凄いんだけど。まるで、天上人の会話を聞いてるかのようだ。


 キョトンとしていた俺に気付いたのか、神坂さんは改めて俺たちに自己紹介をしてくれる。




「えっと、初めまして。神坂ナオです。一応、陸上選手と冒険者の兼任ってことで。よろしく」




 凄い。つまり、ポジションは“ランナー”ってことになるのか。月森さんが、ほんわか清楚系だとしたら、神坂さんは、クールビューティーという言葉が良く似合う感じだ。対照的な、美少女二人がルームメイトか……うん、なんか良き。

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