ロークラス・3

 すぐさま、第二ラウンドが始まりそうな勢いだったので、俺は慌てて二人の間へ仲裁に入る。



「もう、やめよう!お互い、冒険者を目指す仲間同士なんだしさ?」



「邪魔すんな!このアマ潰したら、次はテメーの番だぞコラ!!」



「モブキャラは、引っ込んでなさいな。ケガしますわよ」



 ダメだ、話が通用しそうな人達じゃねえ。


 すると、俺がいることなどお構いなしに、山田くんが再びパンチを、それに反応するように綾小路さんが相手の襟を掴もうと手を、互いに伸ばしてきた。やれやれ、血気盛んなのにも程がある。




【虚飾】が、【組み付き】rank100に代わりました




 俺は、瞬時に二人の腕をキャッチすると、綾小路さんを合気道の要領でバランスを崩してひざまずかせると、山田くんを擒拿術きんなじゅつを使って急所となる点穴を指で押し込み、倒れさせた。



「きゃあっ!?」



「いででででで!痛えええッ!!」



「「こ、この……!!」」



 二人の鋭い眼光が、俺に集まる。大人しくさせるつもりでやったことが、逆にヘイトを買う行為になってしまったようだ。やはり、ちからだけでは物事は解決しない。考えが、浅はかだったか。


 いよいよ、どうしたものかと困惑していた俺を救ってくれたのは、すでに教室の中にいた幼馴染の女神であった。




「生徒規則・第3条!正式な“決闘デュエル”以外の、生徒間による戦闘行為は厳禁とする。破った場合、最低でも一週間の停学処分、最高で退学処分となる……二人とも、入学初日で処分を受けたら、しばらくはみんなの笑い者になっちゃうけど、それでも続けたい?」




 月森さんの言葉に、二人は苦虫を噛み潰したような顔になる。さすがに、笑い者にはされたくないらしい。プライドが高そうな両者にとっては、かなり効いた一言だったようだ。




「ふん!そうですわね。こんな、つまらないことで罰を受けたとあっては、お爺様に合わせる顔がありませんわ。このへんで、許してやるとしますか」



「ちっ。最後まで、気に食わねー女だぜ。この借りは、正式な場で必ず返す!覚えときやがれ!!」





 互いに一瞥いちべつを交わすと、山田くんは左の一番後ろの席へ、綾小路さんは右の一番前の席へと見事なまで真逆の位置に腰を落ち着けた。


 月森さんのおかげで、なんとか台風は過ぎ去ったようだ。俺は、礼を言いに彼女のもとへ駆け寄った。




「ありがとう、月森さん!助かったよ」



「はぁ……怖かった。実は、内心ドキドキだったんだ。上手くいって良かったぁ」




 力が抜けたように、ストンと椅子に座り込むと、安堵の息を吐きながら、彼女は机に突っ伏した。




「ははっ。でも、かっこよかったよ」



「植村くんこそ、あの二人の間に割って入るなんて、凄い勇気だよ。あそこまでは、私にも出来ないもん」



「いやぁ……でも、結局は止められなかったから」




 まぁ、そこまでの恐怖を感じなかったのは確かだ。俺も、そこそこの修羅場はくぐってきてるからな。今までの相手と比べれば、あの二人なんかは可愛いものだった。




「ううん!変わってなくて、安心した。そうだ!もう、どこにするか決めた?席」



「いや、まだなんだよね」



「よ……良かったら、隣に座る?空いてるけど」




 恥ずかしそうに、上目遣いで聞いてくる彼女。

 この誘いを断れる男子が、この世にいるのだろうか?いや、いない。




「じゃ……じゃあ、お言葉に甘えて。お隣、失礼します」



「うん!知ってる人が、近くにいると安心する。私も」




 知ってる人……か。喜んでいいのかどうかは微妙だが、とりあえず最高の席は確保できたといえる。


 その瞬間、すぐ後ろの席から聞き覚えのある声がした。




「俺も、同感だ。なので、ここに座る」




 振り向くと、悪友みうらがいた。全然、気付かなかった。【隠密】スキルでもあるんか?




「お前、いつの間に……」



「くっくっく。さっきは、災難だったな」



「くっ。見てたなら、助けに来いよな」



「俺が出て行ったところで、何も出来ん。過ぎた正義は、身を滅ぼすからな」




 コイツに、月森さんの爪の垢を煎じて飲ませてやりたいわ。いや、何か喜びそうだから、やめよう。


 ふと、教室の隅に目をやると、上泉くんが挙動不審に立ち尽くしていた。どこに座るか、決めかねているのかもしれない。




「上泉くん!俺の前、空いてるよ〜!!」



「あっ、うん!ありがとう!!」




 俺に気付くと、パッと不安な表情が晴れて、こちらに歩いてくる。声をかけて、正解だったようだ。

 なんか、彼は小動物感があって放っておけない。


 前の席に着いた上泉くんは、机のフックに持っていた紫色の刀袋を固定させる。




「それ、上泉くんの武器?」



「うん。戦闘の授業もあるから、武器持ちのスイーパーは常に常備するように……って。生徒手帳に、書いてなかった?」



「あぁ〜……書いてあったね。うん」




 正直、ちゃんと目を通してなかった。月森さんといい、上泉くんといい真面目だなぁ……見習わなくては。言うて、俺は基本的に無手むてなので、武器は必要ないのだけれど。

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