ロークラス・2

 指定されたロークラスAの教室は、全面がガラス張りの壁になっており、外から中が可視化されていた。中に並んでいる個人の机や椅子などは白で統一されており、想像していたよりスタイリッシュな空間だった。


 中に入ろうとすると、扉に立体的な文字が映し出され「新入生各位、座席は自由」と表示された。



 まさかの、早い者勝ちか。最前列は避けたいところだが、それより大事なのは誰と近くに座るか?か……。



 既に何人かに席を確保されていたのを眺めていると、後ろの扉からドスの聞いた声で呼びかけられる。



「久しぶりだなぁ、植村ユウト!」



 また、誰かと再会パターンか?と思って振り向くと、そこに立っていたのはオレンジ髪のリーゼントで、ざっと2メートルはあろうかという巨躯きょく大男おおおとこだった。



「あ、あの〜……失礼ですが、どちら様?」



 こんなクセツヨ人間、知り合いにはいない。

 てか、近付かないだろう。そもそも。怖いもん。



「あぁん?テメー、この俺様に赤っ恥をかかせておいて、忘れたとは言わせねぇぞ!コラ!!」



 なんだよ、赤っ恥って!この人も、冒険者を目指してるのか?学校、間違えてるんじゃないか!?


 いや、待てよ。一人だけ、いたな……会うなり、こんだけ血の気が多い人間。



「……山田ジュウゾウ!?」



「はん!ようやく、思い出したみてーだな」



 小学校の時に、俺が初喧嘩でとっちめた、ちびっ子大相撲のチャンピオンだ。そういや、小学生にしては、あの頃から大きかったけども!何があったら、そう育つんだよ。



「いや〜、久しぶり。まるで雰囲気が変わってたから、すぐに分からなかったよ。あはは……冒険者を、目指してたんだね」



「テメーに負けてから、俺様は鍛えに鍛えた。そのおかげで、あれ以来、喧嘩は無敗!関東のテッペンも、取ってやった!!」




 見た目通り、そっち系の人になってたのね。この時代でも、まだいたんだな。そういう人たちって。




「それが、どうして冒険者に?」



「この学校の先公に、スカウトされてな。冒険者には、つえー奴がウジャウジャいるって聞いたからよ。今度は、この世界でテッペンを取ってやろうと来てみたら……まさかの、憎っくきテメーがいたってわけだ」




 スカウトなんて、あるんだ。本当に資質があったのか、ただの更生目的か……何にせよ、厄介な奴と同じクラスになってしまった。




「まぁまぁ、お互い小学生の頃の話だしさ。過去のことは、水に流そうよ」



「流すわけねーだろ!ここでテメーに勝てば、俺様の唯一の敗戦がチャラになる。植村ユウト、俺様と“決闘デュエル”しろ!!今、ここでッ」



「するか!こんなところで!!」




 これが、因果応報というやつか……と、過去の自分の過ちを悔いていると、彼の後ろから思わぬ横槍が入る。




「ちょっと、あなた!こんな入口で、突っ立ってられると迷惑なのですけれど。早急に、どいてくださるかしら?」



「あぁん?今、大事な話をしてんだよ!部外者は、黙っとけや!!」




 山田くんがガンを飛ばしながら振り向くと、そこには巻き髪ロールの女の子が仁王立ちしていて。




「あなた、誰に対して暴言を吐いてるのか、理解してらして?わたくしは、冒険者協会会長の孫娘、綾小路あやのこうじレイカですのよ。それが、どういう意味か……その足りない脳みそで、考えてごらんなさいな!」





 また、キャラが濃い人きたー!絵に描いたような、お嬢様。しかも、冒険者協会会長の孫娘だと!?




「ハッ!それが、どうした?俺様はな、テメーみたいに権力を振りかざすような奴が、一番ムカつくんだ。会長の孫娘だか何だか知らねぇが、女でも手加減しねーからな!?ゴラァ!!」



「やれやれですわ。見た目通りの、脳筋でしたか。お話に、なりませんわね」



「テメッ!誰が、ノー筋肉だ!?ぶっ殺す!!」




 なんか、間違えてるし。怪獣大戦争が始まったよ……とか、考えてる場合じゃない!さすがに、止めないと!!




 しかし、俺が躊躇ちゅうちょしてる間に山田くんは振り上げた拳を、綾小路さんへ向けて振り下ろしてしまう。

 本当に、女子相手でも手をあげるとは。




「ふっ!」



 ズドンッ



 ところが、綾小路さんは素早く彼の腕を掴むと、そのまま相手の勢いを利用して、華麗な一本背負いを決めた。あの体格の山田くんを、いとも簡単に投げ飛ばすなんて、それだけ卓越した技術なのか、それとも単なる馬鹿力なのか。どちらにせよ、凄い。




「なん……だと?」



「権力を盾にしたのは、あなたに余計な危害を加えない為の配慮でしたのよ。これで、生涯二度目の敗戦ですわね。おめでとう」




 このお嬢様……あおり性能もお高くていらっしゃる!おっと、口調がうつってしまった。




「こ、このアマ!まだだ!!」




 思いっきり、床に背中を打ちつけられながら、すくっと立ち上がる山田くん。でかい図体は伊達では無いようだ。




「やめておきなさい。勇気と無謀は、違いましてよ?まだやるというのなら、次は完膚なきまでに叩き潰します。その覚悟がおありなら、かかっていらっしゃい!」



「上等だ、コラ!次は、本気で行かせてもらうぜ!!」


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