ロークラス・1

「新入生の諸君、ようこそ冒険者養成アカデミー・ゲーティアへ!私が、学園長の白鷺しらさぎマイアだ」



 全校生徒が集まる体育館の壇上に立つ学園長・白鷺マイアは、金色の髪を後ろで一つに結び左眼に眼帯を装着したスーツ姿の大人の色香漂う美女だった。


 一夜明け、いよいよ冒険者養成校ゲーティアでの入学式を迎えていたのだ。




「てっきり、ひげもじゃのご老体でも登場するのかと思ったら、随分と若い学園長だったな」




 隣に立っている三浦が、小声で俺に話しかけてくる。式の最中は私語厳禁だ。入学初日から、目を付けられたいのだろうか。




「いいから、黙ってろ」



「あれか。やっぱり、あの眼帯の下は“魔眼”だったりするのか?」




 ダメだ、こいつ。無視しよう。いつまでも厨二病をらせてるんじゃないよ!と、言いたいところだったが、この時代だったら有り得そうで怖い。




「日本に出現するゲートでは、なぜか出現するクリーチャーの名前が、旧約聖書に登場する古代イスラエルの王・ソロモンの使役する72の悪魔に由来しているのは、知っているだろうか?」




 そうだったのか。他の国では、また別のくくりが存在するのだろうか?そういえば、過去に倒したザガンが、72体どうたらこうたらと言ってたような気がする。




「君たちには、いずれその全てのクリーチャー達を打倒して欲しいという願いを込めて、その悪魔たちが記された魔導書『ゲーティア』という名を、我が校に冠したのだ」




 なるほど。そういう由来が、あったとは。

 やっぱり、若くて美人の話だと退屈そうな話でも、スッと耳に入ってくるな。ホント、男という生き物は浅はかな存在である。




「しかし、一言で冒険者と言っても、様々な形がある。キミたちには、この学園生活での三年間を通して、各々の“目指すべき冒険者像”を確立していって欲しい。我々が、その手助けをしていければ幸いだと思っている」




“目指すべき冒険者像”か……確かに、漠然と冒険者になりたいと思ってはいたが、具体的な冒険者像まで考えてなかったかもしれない。王道で五大ギルドのエースになるとかも良いが、気の合う仲間とスローライフな冒険生活なんかも捨てがたい。




「王級クリーチャーを倒して英雄となる者、それを支える者、秘宝集めを生業なりわいとする者……例え、どんな形の冒険者になろうと、キミたちの人生の主役は、キミたち自身だ。それだけは、忘れないで欲しい。以上だ!」




 パチパチパチパチパチパチ




 簡潔かつ心に残るスピーチを終え、颯爽と壇上から降りていく学園長に、生徒たちから拍手が送られる。素直に、かっこいい人だと思った。


 あの若さで、冒険者養成校ゲーティアの学園長に就任するくらいだ。きっと、彼女自身も凄腕の冒険者なのだろう。いつか、その実力をおがんでみたいものだ。




 その後、生徒会長や新入生代表の挨拶などを終えて、つつがなく入学式は幕を閉じた。


 体育館を出るところで、クラス分けのプリントが一年生に配られる。こういうところは、まだアナログなのか……とか考えつつ、用紙に目を通すと、自分の配属されたロークラスAには、月森さんや上泉くん。ついでに、悪友みうらの名前もあった。


 知り合いがいるのは、大きい。安心感が違う。

 上泉くんも、剣術こそ習っていたようだが、冒険者経験は無かったらしい。部屋もクラスも同じになるとは、どうやら縁があるみたいである。




 クラス分けの紙を見て、ニヤニヤしながら体育館を出て行く植村ユウトへ、密かに熱い視線を注いでいたのは学園長・白鷺マイアであった。



「彼が、例の……『植村ユウト』ですか」



 彼女が話し掛けたのは、隣に立っていた中年男。

 シャツにネクタイだけをめたラフなスタイルの男は、ハイクラスを受け持つ教官・朝倉シンイチであった。



「ですね……“冒険王”と“軍神”の間に生まれた、正真正銘のサラブレッド。噂じゃ、二人からは直接的な指導は何も受けてないようですが」



「おそらく、その情報は間違いではないでしょう。入学試験の体力テストでの成績は、中の下……非凡なところは、見受けられませんでした」



「両親とも、存命ですからねぇ……ユニークも引き継いでないとなると、期待外れのジュニアである可能性が高いかもしれませんぜ」



「朝倉先生、言い過ぎですよ。例え、どんな出生であれ、我々は彼が一人前の冒険者になれるよう後押しするだけです。やることは、他の生徒と変わりません」



「そうですな。ただでさえ、今年の新入生は曲者揃い。龍宝財団のご令嬢に、元『漆黒の鎌』のエース、剣聖・上泉ヨシツネの一人息子、オマケに冒険者協会・会長の孫娘と来たもんだ。全員に目を掛けてたら、目ん玉が幾つあっても足りないってもんですから」



 朝倉が並べ立てた新入生のラインナップを聞き、学園長は自然と頭を抱えて、小さく溜息を吐いた。


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