灰猫亭・3
「ありがとうございましたー!」
外に出ると、すっかり辺りは暗くなっていた。夕食をいただくだけのつもりが、すっかり話し込んでしまった。他に客が来ないというのもあるだろうが、店長まで混ざってきた時には、どんな店だよ!と、つっこみたくなったが、アットホームな店ってことで、良しとしよう。
「すっかり、長居してしまったな。街の探索は、また後日に回すか」
「そうだな。明日は入学式だし、寮に帰ろう」
ふと、上泉くんを見ると、さっき貰ったチラシを街灯の下で、まじまじと見つめていた。
気になったので、声をかけてみる。
「もしかして、興味ある?その剣術」
「え!?あ、うん。僕……一応、剣士だからさ」
「おぉ、そうだったんだ!何か、習ってたりしたの?今まで」
「ん、えっと……父が
おぉ、新陰流は俺でも聞いたことがあるぞ。その師範の息子さんなんて、
でも、待てよ。構えてた?過去形なのか。
「今も、その道場には……?」
「ううん。父が病気で他界してから、他の師範が道場を受け継いだ。その時……弱い僕も、同時に破門を言い渡されて」
「あ……そうだったのか。なんか、ごめん」
「全然、気にしないで!誰だって、そうするよ。僕が弱かったのに剣を教えて貰えてたのは、実の父が師範だったからっていう理由でしかないもん。普通の道場だったら、受け入れてすら貰えなかったと思う」
弱い人を強くする為に、道場ってあるもんじゃないのか?素質の無い人は追い出すなんて、俺には理解できないな。
すると、三浦が上泉くんからヒョイっとチラシを奪い取って、内容を確認する。
「七星剣術、師範・北斗ユウセイ……か、知らん名前だな。専属講師は、慎重に選べよ?お前ら」
「専属講師?」
「午前中はクラス全員が決まった座学や武術を学ぶが、午後のカリキュラムは生徒に一任されてるんだよ。島に点在している元冒険者に
そういえば、学園案内のパンフにも載ってたような気がする。つまりは、この午後のカリキュラムをどう有意義に取り組むかで、他の生徒との差が出来てくるということか。だとすると、講師選びは重要になってくる。
矢継ぎ早に、三浦は熱弁を続けた。
「講師の中には、現役中はトップギルドで前線を張ってたような有名人もいるようだぞ。こんなチラシを生徒に配らせてるような無名冒険者より、そっちに行く方が無難だと思うがな」
「う〜ん。でも、そういう先生って人気ありそうじゃないか?生徒の数が多いと、細かな指導が受けられないかもしれないぞ」
「ふむ。確かに、そういうデメリットもあるか……と、ゆーか。お前も、剣術専攻なのか?」
「うん。入学したら、本格的に学んでみようかと思ってて」
それは、本当だった。俺はサイズ・ビルでの戦いを経て、【近接戦闘(格闘)】に代わる、新たな戦闘法を模索していた。
【近接戦闘】にも細かいカテゴリーがあって、試しに色々と試してみたところ、(ボクシング)や(柔道)など(格闘)ジャンルに含まれるようなものは全て同一とみなされてしまい、連続使用は出来なかった。
しかし、(刀剣)や(槍術)など武器系のカテゴリーだと別ジャンルに分類されるようで、【近接戦闘(格闘)】の後に、【近接戦闘(刀剣)】が即時使用可能になったのだ。
この理屈なら、様々な武器を使い分ければ、永遠に戦闘力が維持されるような気もしたが、実際に何本も武器を所持するとなると動きが阻害されるし、やはり浅い知識しかないとrank100で発動させたとしても、良いとこrank60〜70ぐらいまでの効果しか得ることが出来ない。
なので一番、
集団戦を(刀剣)で、対人や強敵用に(格闘)を使い分けることが出来るようになれば、単身でも継戦能力が上がるはずだ。
「そうか……ま!試しに行くだけ行って、怪しそうなら止めればいい。一言で剣術と言っても、多種多様だからな。向き不向きもあるだろう」
「ああ、そうする。上泉くんも、一緒に行ってみる?明日の午後にでも」
俺からの問いかけに、一瞬ビクッと肩を上げてから、彼はコクコクと首を縦に振った。
「行く!行きます!!」
「よし、決まりだな……ん?」
ふと、彼の後ろを見ると、表通りにアスカが背の高い赤髪の美青年と二人で、楽しそうに会話しながら歩いてるのが目に止まった。
幸い、こちらは薄暗い路地裏だった為に、向こうからは気付かれてはいないようだ。やがて、道を横切って俺の視界からは消えてしまう。
俺の視線を追ったのか、上泉くんも先程の二人を目撃したようで。
「凄い!今の人、天馬先輩だよね!?」
「えっ、男の方?上泉くん、知ってるの!?」
「植村くんこそ、知らないの?
なんだ、その主人公属性もりもりの男は……!?
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