灰猫亭・2
「不味くはないかな。いや、むしろ美味しいまである!けど、ここの客層に合ってないんだよね〜」
三浦の失礼発言にも、怒ることなく答えてくるウェイトレス先輩。言われてみると、若者には渋いメニューな気もしてきた。そういえば、表通りはオシャレなイタリアンとかフレンチっぽい店舗が多かったような気がする。
「なるほどな。要するに人気が無いんじゃなく、他店に客を取られてるということか」
「そう!そういうこと。ウチで働いてた料理スキルの高かった子も、ヘッドハンティングされちゃってさー。なんか、良いアイデアない?」
なぜか三浦と意気投合を始めた従業員に、店長が喝を入れる。
「イブキちゃん。まずは、お客様に注文を伺って」
「おっと、そうでした。注文、決まった?」
そう聞かれて、俺たちは再びメニューと
「オムライスを頼もう」
「じゃあ、俺は“生姜焼き定食”で」
「僕は、えっと……ハンバーグと小ライス、お願いします」
三人の注文を聞き、ウェイトレス先輩は振り向きざま、後ろにいる店長へ言った。
「……だ、そうです!てんちょー」
「はいはい。かしこまりました〜」
いや、ウェイトレスさんの存在意義!確かに、そんなに広くないし、客は俺らだけだし、直接耳に入っただろうけども。
カウンター内は、そのままオープンキッチンになっているようで、見事な手さばきで料理を進めて行く店長さん。待てよ、もしかして……。
「厨房、一人で切り盛りしてるんですか?」
「うん。さっきも言ったけど、働いてたコックは根こそぎ持ってかれちゃって。私も、料理スキルがあれば、手伝うんだけどね〜。くぅー、残念」
全然、残念そうじゃない。さっきから、ノリの軽さが滲み出ている。でも、接客業には向いてそうだ。若干、距離が近すぎるけど。
「そういえば、植村は料理スキル持ってたよな。働いてみたら、どうだ?」
「えっ?持ってるけど、素人に毛が生えたレベルだし、役には立たないと思うけど」
三浦からのキラーパスに、俺が難色を示していると、ウェイトレス先輩も加勢してきて。
「全然、役立つ!調理補助でも、一人いてくれるだけで、だいぶラクになると思うんだよねぇ。てんちょーの負担も」
チラリと覗くと、店長さんが縦横無尽に厨房を走り回っている。無駄のない動きだが、確かに大勢の客が押し寄せた場合は、限界がありそうだ。
「とりあえず……持ち帰って、考えてみます」
「お、マジ?約束だかんね!?」
「うっす!」
どのみち、俺にはユニーク以外に特筆できるようなスキルは無い。
ここなら、従業員の雰囲気も良いし、可愛いし、いいかもしれない。ただ、すぐに閉店してしまいそうな危機感こそ漂っているけども。
そこからは四人で人となりを話して、時間が過ぎた。いや、しれっと店の人も混ざってるんですが。
ちなみに、ウェイトレス先輩の真名は「
そして、ついにやってくる注文の品々。
「「「いただきまーす」」」
ぱくっ
みんなが、それぞれ頼んだメニューを一口頬張ると、不安そうな顔が一転して安堵の笑顔に変わる。
「なんだ、普通に美味いじゃないか」
「うん、うまい!フツーに」
「ハンバーグもおいしいよ!ふつうに」
我々三人の感想に、複雑そうな笑顔を浮かべながらマユ店長が言った。
「ありがとう。褒めてくれるのは嬉しいんだけど、“普通”は余計かな〜?」
「うっ、すみません……」
「ふふっ、いいんだよ。そういう店だから。あっ!ご飯、おかわり自由だからね〜」
店長、高校生とは思えんぐらいの包容力があるな。
料理も家庭料理の最高峰といった感じで、親しみやすく、かつ美味い。そういう意味での“普通に”だったのだが、確かに他に言い方はあったかもしれない。
けど、よくよく考えれば寮には無料の食堂があるし、味は落ちるとしてもラインナップも
働いてる人たちは良い人だし、何とか繁盛してもらいたいところだ……と、
「ふ〜、食った食った。余は満足じゃ」
結局、おかわりしてしまった。目的の穴場探しとしては、大正解だったんじゃないだろうか。
腹一杯で、余韻に浸る俺たちに、さっきまでカウンターで退屈そうに座っていたイブキ先輩が、話しかけてくる。
「そういや、キミたちの中でスイーパーの子って、いたりする?」
その質問に、俺と上泉くんは目を合わせて、静かに挙手をした。三浦は、サポーターかアンサー希望らしい。
「おっ、いいね。剣術とかに興味あったら、ここへどうぞ」
彼女が渡してきたのは、島内マップ東の海側の小屋に印が付けられ、見出しには「現代剣術の最高峰・
なんか……うさんくさい。
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