灰猫亭・1
島の市街地は、学園すぐ下の噴水広場を起点にして、大まかに商業施設、食事処、服飾、雑貨などなど似たジャンルの店が建ち並ぶ道が四本と、入口に続くメインストリートに分岐されており、細かい裏道や路地はあるものの、初めてでも分かりやすい構造となっていた。
「うっわ。並んでるよ」
考えることは皆同じか、食事処の集まる道に入ると、既にチラホラと並んでいる店が何軒かあった。
利用者としては便利だが、出店する生徒としては、周り全てがライバル店だらけで大変だろう。
「さて、どうする?とりあえず、並んでる店ならハズレは無さそうだが。せっかくだから、穴場を見つけておきたい気持ちもある」
「うーん。俺は、まともに食えれば何でも良いけど。上泉くんは、何か食べたいものとかある?」
前世から、あまり俺は食事に
なので、ここは今日のゲストでもある上泉くんの意見を尊重しよう。
「ぼ……僕も、何でもいいかな。少食だし」
痩せの大食いもいるが、上泉くんは見たまんま、あんまり食べないタイプのようだ。と、なると……。
「俺ら二人とも特に希望はないから、三浦の要望通り穴場コースで行こう。どこに、する?」
「穴場といえば、路地裏だ!そう、昔から相場が決まっている。ついてこい!!」
「え?ちょ、待てよ!」
三浦は目に止まった脇道に、ずんずんと入って行く。コイツも初見のはずなのに、なんなんだろう?この謎の自信は。ある意味、尊敬する。
「ほーれ!案の定、あったぞ。穴場そうな飯屋が」
彼が立ち止まって見つけた店は、看板に「大衆食堂・灰猫亭」と書かれていた。ご飯屋さんであることは、間違い無いらしい。
しかし、人は全く並んでおらず、中の様子も窓とかないために確認できない。立地条件の悪さで並んでないだけなのか、他に理由があるのか。
穴場を見つけるというのは、そういうギャンブル性も多分に含んでいる。
「は……入るか?」
「入る!学生が経営しとるんだ。最悪、変なボッタクリとかは無いだろう。多分な」
「多分かよ!」
俺と三浦がギャーギャーと
ガラガラガラッ
「キミたち、お客さん?入るなら、入って」
中から出てきたのは、おおよそ和の雰囲気である食堂に似付かわしくない、灰色のメイド風ウェイトレス姿の女子だった。短めの黒髪ボブで、首には派手なヘッドホンをかけている。
色々と、ツッコミどころが満載だ。
俺たちは顔を見合わせ、素直に中に入ることにする。こうなったら、断るわけにはいかない。
「てんちょー。お客様、三名様れんこ……ご案内でーす」
今、“連行しました”って言おうとしたよな?絶対に。
「あ、いらっしゃい!ゆっくりしていってね〜」
カウンターにいた
「んじゃ、そこ座って。メニュー表は、それね」
中はカウンター席に、テーブル席が三つと広さ的にはまあまあだったが、俺ら以外は全く客がいなかった。従業員さんは、どっちも可愛いし、もっと人気になっても良さそうなものだけど。
ウェイトレスさんに指示された席に三人で座り、そこにあった手作り感満載のメニュー表をテーブルに広げて、今夜の夕食を
ハンバーグやカレーライスなどなど、馴染み深い家庭料理が並ぶラインナップは、大衆食堂の名に偽りなしの布陣であった。さすがに、メニューの数は見開き2ページに収まるぐらいの少数精鋭だったが、それは仕方ないだろう。
「キミら、新一年生?そういや、寮生は今日からだっけ」
水の入ったコップを、それぞれに配ってくれて、ウェイトレスのお姉さんが気さくに話しかけてくる。メイド喫茶並みのフレンドリーさだ。行ったことないけど。
「あ、はい!そうです。よく、分かりましたね」
「ははっ、そりゃねー。だって、うちらと同じ二年だったら、この店に入ってくるわけないもん」
ちなみにだが、ここの学園は昨年創設したばかりで、三年生はおらず二年生が現状の最上級生となっている。“うちら”と言っていたので、二人は先輩なのだろう。まあ、すでに店を開けてる時点で、新入生ではないことは確定しているのだが。
「ちょっと、イブキちゃん?自ら、ネガティブキャンペーンしないでくれる!?せっかく、久しぶりのご新規さんなのに!」
「いいじゃん、別に。遅かれ早かれ、分かることなんだしさ?むしろ、自分たちから言った方が
この二人は元々、友達なんだろうか?どうでもいいけど、割烹着とメイド服ってコンセプトがバラバラな気がする。
そんな二人に、空気を読まないでお馴染みの
「もしかして……この店、人気が無いのか?メシが、不味いとかか?」
コイツ、マジで……よく今まで、五体無事に生きてこられたな。
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