入寮・7

「よし……こんなもんか」




 とりあえず、キャリーケースに入れてきた必要最低限の荷物は部屋に設置し終えた。他の娯楽品などは後日、実家から送られてくる手筈てはずになっている。


 部屋の中はベッドに、小さめのソファとテーブル、学習机が置いてあり、広さとしては十分だった。



 室内インテリアに夢中になりすぎて気付くと、すっかり夕方になっていた。やっぱり、いくつになっても自分の新しい住居というのは興奮するものだ。



 そろそろ、三浦と学生店舗巡りに行く時間なのだが、せっかくだし上泉くんも誘ってみようと考えている。さっきまで、隣から話し声が聞こえていたが、誰かと通話中だったのだろうか?




 俺は、意を決して彼の扉の前に立つ。断られたら、断られたで良しとしよう。ここは、仲良くなる意思がありますよ〜と示すことが大切なのだ。これから、長い付き合いになるわけだし。




 コンコン




「上泉くん。今、大丈夫?」




 ドアを軽くノックして、中にいる彼に声を掛ける。




 ガチャ



「は、はい!どうしたの?植村くん」



「これから、知り合いと一緒に学生店舗で夕飯にしようと思ってるんだけど、良かったら上泉くんもどうかなって」



「えっ!?僕?お邪魔じゃない、の?」



「全然!せっかく、ルームメイトになれたんだし、親睦しんぼくを深めたいじゃん?あ、無理にとは言わないよ。他に、予定があるなら……」



「な、ないです!すぐに準備するから、待ってて!!」




 バタン!



 凄い勢いで、部屋の中へと戻っていく上泉くん。そんなに、慌てることないのに。もしかして、俺に怖がってるのかな?ちょっと、圧が強すぎたか。





 植村の予想に反して、上泉は部屋の中で分かりやすく浮かれていた。小中と友達がいなかった彼にとっては、誰かにご飯を誘われるというのは、それだけで一大事だったのだ。




「エペたん。僕、ちょっと誘われちゃったから……大人しく、一人でお留守番しててね?」



『ワシを、何だと思っとるんじゃ!まったく』



「へへ……ごめん、ごめん」




 久しぶりに嬉しそうな持ち主の姿を見て、妖刀エペタムも優しい口調になる。





『やれやれ。浮かれて、粗相そそうするでないぞ?マコト』



「わかってる!ありがとね、エペたん」



『だから、その名で呼ぶなと……まぁ、よいか』




 上泉マコトは剣士としては、まだまだ妖刀エペタムが持ち主と認めるまでの技量には達していなかったが、どこか憎めない彼の人間性は嫌いじゃなかった。だからこそ、愚痴をこぼしながらも、こうして行動を共にしているのだ。




「お待たせ!植村くん!!」



「おう。それじゃ、行こうか」




 部屋から出て行く二人を見送りながら、妖刀エペタムは静かに独り言を呟く。




『あの男が、良き理解者になってくれたらよいが……頑張れよ、マコトや』






 心配していたが、隣を歩いている上泉くんは鼻歌を口ずさんでいる。とりあえず、機嫌は良さそうだ。




「そういえば、上泉くんってポジションはどこ?」



「ポジション?あぁ!僕は、前衛職スイーパーだよ。一応……弱いけど」



「あ、スイーパーなんだ?意外」



「はは、そうだよね……僕、華奢だし。見るからに、弱そうだもんね」




 しまった。余計なことを、言ってしまった。こういうところは、まだまだ俺もコミュ力が低い。




「いやいや!見た目は、関係ないと思うぞ。これから、強くなる為に学園ここに来たんだし、そんなに悲観することないって」



「う……うん!ありがとう。植村くんは、ポジションどこなの?」



「俺も……メインは、スイーパーになるのかな。多分」



ってことは、もしかして他にもポジション適性があるってこと?まさか、万能職バーサトル!?」




 そうなるのかな?とりあえず、スキルによってはシューター、アンサーあたりも出来そうだから、バーサトルと言っても良いのかもしれない。




「まぁ、広く浅くって感じ。大したことないよ」



「ううん、凄いよ!僕、不器用だから……色んなことできる人、うらやましいなぁ」




 本当に、素直で良い子そうだな。上泉くんは。


 でも、今回の学園生活では、なるべく【虚飾】は使わずに、自分自身の基礎能力を向上させることに力を注ごうと思っていた。そうなれば、必然的に【虚飾】を使った時の効果も上がるんじゃないかと思ってるからだ。


 それに、俺のユニークスキルはチートすぎる。あまり、目立ち過ぎるのも良くない気がするからな。



 そんな雑談をしながら、寮の入口に到着すると、パーカーに付いたフードを被った三浦が、腕組みしながら待っていた。もう待ち方が厨二病に溢れてる。




「おい。連れて行きたい相手って、女か!?」



「違うよ。彼は、男!ルームメイトの上泉マコトくん」



「男だと!?下手な女子より、可愛いぞ?」




 こいつ、ほんま。デリカシーとか無いんか?まぁ、俺も間違えたけどさ……。




「ちなみに、そっちのルームメイトは?」



「……120キロの巨漢だった。着いたら、轟音のイビキをかきながら寝ていたぞ」




 俺は、心の中でガッツポーズを取った。いや、深い意味はない。決して。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る