入寮・6

 入退館も機械で管理されているヘリオス寮には、寮母のような存在はいない。一応、門限はあるらしいが、破ったら罰金があるぐらいで、きつい説教とかは無いようだ。嬉しいような、寂しいような。




 ここだな……「123号室」。




 内装もオシャレだったヘリオス寮。三階建ての二階にある自室の前まで辿り着いたわけだが、もう中に同居人は来ているのだろうか?緊張してきた。



 ピピッ



 ドアノブに触れると、勝手に指紋認証してくれて、ロックが外れる。便利だが最初に開ける時は、いつも不安な気持ちになる。


 ガチャリと扉を開くと、既に脱いだ靴が一足、玄関に置かれていて、同居人の存在を察知した。



 中を見ると、思っていた以上に広い。ちゃんと二人分、別々の小部屋が用意されてるのはありがたい。プライベートは、守られているようだ。風呂やトイレもあるし、とりあえず環境面は問題ナシだ。




 すると、そろ〜っと右の部屋の扉が開いて、ひょっこりと顔を出してくる人物が。




「えっ!?女の子?」




 その端正な顔立ちに驚いて、うっかり声が出てしまう。髪型はショートの黒髪だったが、それだけでは性別が判断しにくいほどに中性的だ。すると、向こうも驚いたようで。




「ち、違います!い……一応、男子です。これでも」




 ぶんぶんと頭を振って、否定してくる彼女……じゃなくて、。一向に、全身は見せてくれない。




「あ、あぁ!そうだったんだ、ごめんね。あまりにも、綺麗な顔立ちだったもんで。つい」




 まぁ、美少年は女装すると美少女になるっていうし、紙一重なのかもしれない。ただ、初対面で言うのは失礼だったな。反省しなければ。




「いえ……よく、間違われるので大丈夫です。あの、ルームメイトの方ですか?」



「あぁ、うん!そう。自己紹介が、遅れちゃったけど……俺は、植村ユウト。これから、よろしく」




 こっちが名乗ると、ようやく向こうも全身を見せてくれて、深々と頭を下げてきた。ラフな部屋着に着替えていた彼は、華奢な身体で身長的には俺より少し低いくらいの感じだった。




「こちらこそ、よろしくお願いします。上泉かみいずみマコトといいます」



「上泉くんね。あ、あと……別に、敬語じゃなくていいよ。同い年だもんね?」



「あ、はい!そうです……じゃない!!そう、だね」




 ぎこちないタメ語を一生懸命に話す彼に、人柄の良さを感じた。どうやら、同居人ガチャは当たりだったようだ。まだ、本性は分からないけど、少なくとも現時点では嫌な気は全くしない。




「まぁまぁ、リラックスして。仲良くなっていけば、自然に話せるようになるっしょ」



「……うん、ありがとう。そうだ!今は勝手に、右の部屋を使っちゃってるんだけど、植村くんはどっちの部屋がいいとかある?」



「ん〜。別に無いから、このまま俺が左の部屋を使うよ。それで、良い?」



「はい!わかった」




 まだ、ちょっと敬語が残ってるし。俺も人見知りな方だけど、こっちからアプローチしていったほうが仲を深めやすいタイプかもしれないな。前世の俺だったら無理だったかもだけど、今の俺なら出来そうな気がする。




「んじゃ……荷物整理するから、また後で」



「はい!また」




 返事は早くて良いんだよな。何か武道でも、経験していたのかもしれない。歳の割に礼儀作法が、ちゃんとしている。いかん、またオッサンぽいこと言ってるかも。




 バタン




 扉を閉めると、上泉マコトは一気に緊張感から解放されて、ずるずると背中を扉に預けながら、その場に座り込んだ。




「ハァ……緊張した」




 すると、驚いたことに壁に立て掛けられていた禍々まがまがしい紫色の刀が、友達のように話し出した。




『そんなことで、いちいち緊張などしとったら、いつまで経っても、一流の冒険者にゃなれんぞ。マコトや』



「人付き合いと、冒険者は関係ないでしょ。エペたんは剣だから良いよね、人間関係とかに悩まなくて」



『ワシも、お主との人間関係には悩まされておるわい。あと、“エペたん”とは呼ぶなと言うておるじゃろ』




 インテリジェンスソードのエペタム……レベル4の秘宝アーティファクトであり、マコトが亡き父から貰い受けた形見の武器。それが、通称・の正体だった。


 インテリジェンスソードとは、知性を持ち人語を話す魔剣・妖刀を指す武器の総称のことである。

 忠誠を誓った持ち主には従順だが、マコトの場合は正式な持ち主とは認められていないのか、まるで“お爺ちゃんと孫”のような関係になっていた。





「でも……優しそうな人で、良かった。これなら、何とかやっていけるかもしれない。ぼく



『ふん。当たり前じゃ!こんなことで辞められてしまったら、天国の父君ちちぎみにも申し訳が立たぬというもの』



「父さん……う、ううっ」



『あっ、こら!父君の話を出しただけで、泣きだすのはめぬか!!卑怯じゃぞ!?』




 この時の植村ユウトは、まだ知らなかった。同居人は、凄くクセの強いであったということに……。






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