入寮・5

「生体認証ヲ確認。生徒データト照合デキマシタ。“植村ユウト”ニ、“生徒手帳アプリ”ト、入学祝イノ電子マネー“10000ハスタ”ヲ、インストールシマシタ。良キ学園生活ヲ!」




 島に到着すると、入場ゲートにいたヒューマノイドロボットが、通過する学生一人一人をチェックインしていく。このアンドロイドは、人間に近いと言うよりかはロボットロボットしているタイプだ。


 この時代なら、もっと人間と見紛うばかりのタイプもあるだろうけど、あえて、こういう型式にしてるのか、レトロな中古品を使い回しているのかは分からなかったが、これはこれでおもむきがある。




 先に入場を済ませて待ってくれていた月森さんが、少し残念そうに言う。




「じゃあ……ここから先は、お別れだね。男子寮と女子寮は真反対の位置にあるらしいから」



「あぁ、そっか。じゃあ、次は学園で。同じロークラスだから、一緒の組になれるといいね」



「そうなったら、嬉しいなぁ。確か、クラスごとに二つの組しかないって言ってたから、確率は高いと思う。知らない人ばっかりだと、不安だもん」




 地図によると、男子寮は島の真東まひがし、女子寮は真西まにしに建てられている。そこまで離さんでもと思ったが、男女間で行き来しやすいと色恋に浮かれてしまうとでも懸念してるのだろうか。




 手を振り、反対方向へと歩いて行く彼女を見送る。ここからは、いつもの悪友と二人きりになってしまう。





「まだ、気があるのか?もしかして」



「え、いや!再会するまでは、そんなこと思ってもなかったって。もう、会えないんじゃないかとまで思ってたぐらいだし」



「そうなのか。むこうは、まだ気があるような素振りだったぞ?お前に」



「やめろ、やめろ。変な期待を、持たせるな。それより、男子寮ってどう行けばいいんだ?こっから」





 本音を言えば、自分もそういう淡い期待は抱いていたが、調子に乗るのは早すぎる。あんな美人、普通に彼氏がいてもおかしくない。さすがに、聞き出す勇気は無かったが、今度それとなく尋ねてみようか。




「生徒手帳アプリに、島内のマップ機能もあったはずだ。それを、開いてみろ」



「あぁ、そうなんだ……そういや、入学祝いなんてあるんだな。1万ハスタだっけ?これが、どれぐらいの価値に相当するのか分からないけど。この島の通貨単位が、“ハスタ”か」



「どれぐらいの価値なのかは、今晩にでも学生店舗に寄ってみて、確かめてみればいい。寮の無料食堂も選べるが、せっかく着いた初日だ。贅沢してみるのも、良いだろう」





 寮の中には、寮生なら無料の食堂が平日の朝晩に開放されているらしい。最悪、ハスタが無くなっても、最低限の食事は保障されるというわけだ。ありがたい。


 開いたマップを見ながら、潮風を感じる街並みを進み出す俺たち。たまに散歩するだけでも、リフレッシュできそうな島である。




 目指すヘリオス寮へは市街地を通るルートと、海岸沿いを進むルート二つがあったが、市街地の景観は後のお楽しみに取っておくことにして、後者を選択することにした。

 街路樹に挟まれた道には、あまり他の生徒たちは見受けられない。みんな、真っ先に市街地の様子を見ておきたかったのかもしれない。


 ちなみに、男子寮はヘリオス寮、女子寮はセレネ寮という名前らしい。それぞれ、太陽の神、月の女神に由来しているとか。




 他愛もない雑談を交わしながら、しばし歩いていると、目の前に淡いオレンジ色の円形の建物が見えてきた。一個一個の部屋がパズルのように組み合わさって、周囲の円を形作っている。想像していたような寮とは違う、オシャレだ。




「これ、ホントに学生寮か?気合い、入りすぎだろ」



「有名な建築士がデザインしたらしいぞ。さすが、バックに天下の龍宝財団りゅうほうざいだんが出資してるだけのことはある。いちいち、金がかかってるな」



「まぁ、住む身分にとっては、ありがたいことだけど。そういや、部屋割りとかどうなってんだろ?」



「それも、生徒手帳アプリに記載されてるはずだ。困った時は、とりあえず開いておけ」




 言われるがまま、再びアプリを操作すると、自身の部屋番号が「123号室」だと判明した。覚えやすくて、良い。




「俺は、123号室らしい。お前は?」



「俺は、142号室だ。残念、ルームメイトには、なれなかったな」



「ルームメイト?ここ、一人部屋じゃないの!?」



「いいや、二人部屋だ。ここから先は、運命の同居人ガチャというわけだな。ハズレを引き当てれば、学園生活の三年間をストレスと共に生きていくことになるぞ?ふはははは」




 人をガチャの景品に例えるな。とはいえ、ガサツな人が同居人だったら、確かにイヤだな。環境より、人間関係の方が大事だったりするからなぁ。どうか、クセの強くない人に当たりますよーに!









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