入寮・4
取り残されてしまった俺は、月森さんと一緒のロープウェイに乗り込むことになった。考えようによっては、ラッキーだったのかもしれない。
中に入ると、すでに先客の生徒が一人、席に座っていた。それは、俺のよく知る男だった。
「よう、奇遇だな。心の友よ」
おでこに閉じたチョキをつけて離す、軍隊式の挨拶を決めてきたナルシスト男は、俺の悪友・三浦レイジであった。
かくして、昔馴染みの三人を乗せてロープウェイは発車を始める。
「いや、待て。なぜ、お前がここにいる?」
「そんなのは、決まっている。俺も、合格したからだ。
「お前も、受けてたのかよ!てか、冒険者になりたいとか、一言も聞いてなかったんだが!?」
「ふっふっふ。驚くだろうと思って、黙ってたんだ。軽いサプライズというヤツだ」
軽くねーよ、重いよ。彼女とかにやるレベルのサプライズだろ、男友達にやってくるなよ。
そんな変わり者の友人にも、月森さんは分け隔てなく平等に接してくれる優しさを持っていた。
「三浦くん、久しぶり。凄い偶然だよね!小学校の同級生が、三人も冒険者を目指してるなんて」
「誰かと思えば、月森ヒカルか。お前ら、ひっそりと遠距離恋愛でも続けてたのか?」
「えっ!?ちちち……違うよ!植村くんとは、本当にさっき偶然、再会しただけで。ね?」
分かりやすく挙動不審になりながら、こちらに同意を求めてくる彼女。俺は無言で何度か
「そうなのか。しかし、月森まで冒険者の道に参入してくるとはな。さすが、子供がなりたい職業トップ5にランクインしただけのことはあるな」
へー、そうなんだ。まぁ、冒険者関連のニュースとか、しょっちゅう放送されてるのを見るし、それだけ一般に浸透してきている職業ということなのかもしれない。
「三浦くんは、なんで冒険者になろうと思ったの?」
「ん?楽しそうだったからだ。たった一度の人生だ、せっかくだから他の人間が味わえないようなことに、挑戦してみたくなってな」
「へ〜、凄い。なんか、かっこいいね」
騙されちゃいけませんぜ、月森さん。そいつは、本当に俺を驚かせたいだけで、冒険者になろうとしてくるような何も考えとらん奴なんですから。
とはいえ、同じ転生者同志、言わんとしてることは、何となく理解できた。せっかく、生まれ変われたなら、この時代でしか出来ないようなことはしてみたいよな。
「あ、見えてきた。あれが、
ロープウェイの進む先には、まるで城のような立派な校舎が島の頂上に座しており、その眼下にロールプレイングゲームに出てくるような城下町を思わせる中世的な建築物が建ち並んでいた。
「うん!やっぱり、生で見ると迫力があるね。テーマパークみたい」
一緒に窓を覗き込んでくる月森さんの顔の近さに、動揺を隠し切れない俺。間近で見る顔面が、お強いのなんの。
そんな彼女に
「見た目は中世だが、中にはコンビニやファミレスも出店されてるらしい。この島にいるだけで、最低限の衣食住は確保されるとのことだ」
「そりゃ、寮生にとっては便利だな。わざわざ、本土に戻らなくても済むってわけだ」
「そうなんだが、公的な商業施設を利用するのは最初のうちは控えておいた方が良いかもな」
「え、なんで?」
その疑問には、月森さんが答えてくれた。二人とも、事前に色々と学園について調べてきているらしい。俺が、無知すぎるのかもしれないが。
「島内で使用できるのは、生徒にのみ配布される特殊な電子マネーだけらしいよ。だから、上手くやりくりしていかないといけないんだけど。公共の商業施設は、安心・安全の代わりに高価みたいで」
「そんな制度が、あるんだ?知らなかった」
「一応、電子マネーは毎月支給されるみたいだけど、他の通貨とは交換できないみたい。増やすには、授業や部活で良い成績を収めるか、学生同士で
「お店?最初の二つは、何となく理解できたけど」
キョトンとする俺に、やれやれといったジェスチャーを見せながら、こちらに学園のパンフレットを開いてくる三浦。
「貴様。学園案内くらい、ちゃんと目を通しておけ!ここにも、書いてあるだろう。学生店舗システム」
ざっと見しただけで、ちゃんと目を通してなかったかもしれない。言われた通り、開かれていたページを見ると、ちゃんとパンフにも説明書きが記されていた。
「えっと、なになに……学生店舗とは、島内にあるテナントを借りて、自由な商売を行うことです。法に触れなければ、基本的にどんなことをしても構いません。柔軟な発想で、副業体験をしてみよう!……か」
冒険者というのは、収入が不安定な職業だ。今のうちから、副業の技術も磨いておけ……と、いうことだろうか。そういうことまで、育ててくれるとは。
「島内で入手した電子マネーは貯めると、協賛ギルドから提供された下位の
「
レベル1でも「変身マント」のような凄まじい効果を持つものだってあるかもしれない。その交換制度は魅力的だ。
「学生店舗では、給与を支払うことで同じ生徒を従業員として雇えることも可能だそうだ。無難に“めぼしい店でバイトする”というのも、特筆したスキルを持たない者の選択の一つかもしれんな」
まさか、第二の人生でもバイトしなきゃならんとは。全く
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