入寮・2

「ちょっと、待ちぃ。なんや、二人……急に、仲良うなってへんか?前は、名前でなんか呼んどらんかったやろ!?」




 ずっと黙っていたと思ったら、俺ら二人の関係性に目ざとく気付いた様子の西郷くん。




「そりゃあ、毎日のように連絡は取り合ってたし?多少は、仲は深まってると思うけど。てか、ユウト!いい加減、そっちも“七海さん”じゃなくて、“アスカ”って呼んでって言ってるじゃん!!」



「え、ああ、うん。実際に呼ぶとなると、勇気がいるというか、なんというか」





 また二人で話し始めてしまった俺たちに、更にヒートアップした西郷くんが食ってかかってきた。




「待て待て待て!ま……毎日、連絡しとったやと!?ほんまにか?」




 事実は、事実だ。正確に言えば、毎日のように「一緒にギルド始めよう!」という勧誘が来ては、こっちが別の話に誘導して、雑談して終わるということを繰り返していただけなのだが。確かに、それで打ち解けた部分はあった。




「ほんま」



「な、何の話しとんねん!?二人で!」



「マサキには、関係ないでしょ。人のプライベートに、口出ししないでくれる?」



「はうあっ!?」




 あーあ、久しぶりに見た。西郷くんへの氷の一撃。彼からの好意に気づいていないのか知らないけど、もう少し優しくしてあげてもいいのに。まぁ、半分は俺のせいでもあるから、偉そうに言えないけど。


 とはいえ、俺とギルドを立ち上げようという話は本決まりするまで、みんなには内緒という約束はしていた。それを知ったら、今以上に西郷くんなんかショックを受けそうだし、そう考えれば七海さんなりの優しさなのかもしれないな。




「あ!見て見て!!海や、海!!!」




 重苦しい空気を変えてくれたのは、周防さんの一言だった。彼女の言う通り、車窓から青く澄んだ海が見えてきた。


 目的地である冒険者養成校ゲーティアは、海の上の人工島に創設されており、到着するにはフェリーか、海上ロープウェイを利用しなくてはならない。これだけ聞けば不便にも思えるが、両方とも時代の変化と共に劇的な進化を遂げている為、そこまで移動時間はかからないようだ。





「私が送ってあげられるのは、ここまで。あとは、若い者同士で仲良くどうぞ」




 ロープウェイ乗り場で停車して、俺たちは先生に礼を言いながら、車を降りて行く。仲良くどうぞしたいところだが、若干一名は精神的ダメージを負ったままである。


 周りを見ると、同じ制服を着た生徒たちがチラホラとロープウェイへと向かって行く様子が見えた。彼らも、俺らと同じ入寮組なのだろう。




「「ありがとうございましたー!!」」




 頭を下げて再び礼を言うと、ミナミ先生は窓から手を振りながら、颯爽と車を走らせて行ってしまった。新ギルドの代表になって色々と忙しいだろうに、優しい人である。




「おい、マサキ!いつまで、落ち込んどんねん!!シャキシャキ歩かんと置いてくで!?」



「お前なんかに、ワイのハートブレイクが分かってたまるかー!」



「分かりたくもないわ!なんやねん、ハートブレイクて」




 なんだかんだ、周防さんは西郷くんの面倒見が良いんだよなぁ。あの二人で付き合えば、良い感じのカップルになりそうなんだけど、恋愛感情は全く見受けられないのが残念だ。


 そんなやり取りを眺めてると、隣にいた七海さんに肩を叩かれて、俺は振り向いた。




「じゃん!どう?私の制服姿!!」




 すぐ、車に乗ったから全身は見れてなかった俺に、くるっと回ってプリーツスカートをなびかせながら、アピールしてくる彼女。




「か……かわいい」



「えっ!今、なんて言った!?え?え?」



「いや!何も、言ってない!!」




 不覚にも心の声が漏れてしまった俺に、ニヤニヤしながら迫ってくる七海さん。聞こえてたくせに。




「そうか、そうかー。そんなに、アスカちゃんは可愛いかぁ」



「やっぱり、聞こえてたんやないかい。てか、可愛いと思ったのはのことなんで!七海さんのことじゃ、ありませーん」



「はいはい、そういうことにしといてあげよう。あと、七海さんじゃなくて!?何ですか?」



「え?あ、あ……アスカ」



「ん、よろしい。今後も、その調子で精進するように」




 くっそ、悔しいけど最近の七海さん……じゃなくてアスカは、いちいち人をドキドキさせてくる。ギルドの為に狙っているのか、それとも俺が女子に免疫が無さすぎるのか。多分、後者だろうな。


 そこに割り込んできたのは、周防さんだった。




「二人とも!イチャイチャするんは、そのへんで!!これ以上、やったら……」




 周防さんの視線に釣られて、同じ方向を見ると、そこにはまるで殺人現場でも目撃したかのような表情を浮かべていた西郷くんが立っていた。




「うおおおおおん!ワイの恋は、終わったんや!!」




 泣きわめきながら一人、ロープウェイに向かってダッシュして行く西郷くんに、周囲の生徒たちの視線が集まる。


 その姿を見て、アスカはハァと溜め息を吐いた。




「大袈裟な。ただ、制服を見せてただけでしょうに」



「“だけ”では、無かったような気もするけど……どうする?ななみん」



「あんなん一人にさせるわけには、いかないでしょ。仕方ないから、行くか」




 呆れながら、二人は笑い合うと西郷くんの後を追って走り出した。俺も、ついていこうと足を踏み出すと、誰かに呼び止められて。




「植村くん……だよ、ね?」



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