七海アスカ・8
「今日は、ありがとね。植村くん」
「いえいえ。俺も、楽しかったよ……って言うと、不謹慎か」
「ううん、お母さんも喜んでた。良かったら、また一緒に付き合って」
面会時間が終わり、七海ママのいる大病院を後にして、俺たちは帰りの途を共にしていた。
「誘ってくれれば、いつでも。でも、忙しいんじゃない?ギルドの再建とか、色々と」
「全然。私、やめちゃったから。『漆黒の鎌』……あ、今は『白銀の刃』か」
「えっ、えっ!?やめちゃったの?」
「うん。ちょうど、契約も白紙に戻ったし。他に、やりたいこともあったから」
さらっと言われたが、驚いた。
少なくとも、副団長派の人たちは全員が残留する選択を取るものだと勝手に思っていた。
「お母さんの治療費とか……大丈夫なの?」
「それは、ミナミ先生が支援継続の約束をしてくれた。今回の功労賞みたいなもんだって。私も、これからも出来ることは協力していくつもりだし。
「そうなんだ。じゃあ……他に、やりたいことって?」
「まずは、芸能活動。今までは契約上、副業は禁じられてたけど、お金を稼ぐためにも、そういうのを始めてもいいかなって。ありがたいことに、何件かスカウトは貰ってるから」
マジかい。まぁ、これだけ可愛くて現役の若い上位冒険者なんて、芸能事務所が放っておくわけないか。配信者とかになったとしても、稼げそうだ。
「すごっ。でも、“まずは”ってことは、まだあるってこと?」
「私が、冒険者になった一番の理由……何だと思う?」
急なクイズ!?何だろう?目立ちたいとか、お金を稼ぎたいとかなら、他に最適な選択肢はあるだろうし。根っからの冒険好きって感じでも、なさそうだ。と、なると……。
「お母さんの病気を、治すため……?」
「さすがだね、その通り。今まで発見された秘宝の中には、回復系のアイテムも多く記録されている。上位のダンジョンには、どんな病も治すような霊薬が眠っているんじゃないか……って、私は信じてる。冒険者になったのは、そんな秘宝に巡り合うため」
「なるほど……でも、それなら尚更、今のギルドに残っていた方が良いんじゃないの?」
「私も、本来なら辞めるつもりはなかった。でも、出会ってしまった。それに」
彼女が立ち止まって指を差したのは、俺の頭。一瞬、何事か?と思ったが、すぐに理解した。
「……ダンジョン・サーチ?」
「そう。そのアプリを使えば、もし霊薬のあるダンジョンが出現しても、すぐに情報をキャッチして攻略に乗り出すことが出来る」
「ああ、いや。別に、それならギルドを辞めなくても、見つけたら教えてあげるよ?一番に」
「それじゃ、ダメ。レベル5の秘宝は、ギルド級アイテムと呼ばれててね。協会規定で、基本的には取得したギルド以外のメンバーが使用するのは禁じられているの」
そんな規約があったのか。レベル5の秘宝ともなると、それだけチートな効果を持つ物があるってことなのかもしれない。しかも、俺の持ってる秘宝はレベル6、それ以上だ。
「でも、俺……別に、ギルドとか協会とか所属してないし。適用されないんじゃない?」
「正確に、言えばね。だから、これはマナーの問題。やっぱり、その
確かに、この
「そ、そうだね。でも、それじゃ、フリーになった七海さんにも見せられないことになるけど」
「だから、私が植村くん……ううん、ユウトと同じギルドになれば、全て解決するってこと!」
「は?え、どういうこと!?」
「だーかーらー!キミと私で、新しくギルドを作るの!!そうすれば、その『ダンジョン・サーチ』も私の共有財産となるわけでしょ?」
なんか、どっかのイジメっ子みたいな考え方だな。謙虚なのか、大胆なのか、よく分からなくなってきた。
「いやいやいや!俺の意志は!?」
「ユウトが欲しいと思った秘宝があれば、そのダンジョン攻略に私も協力する!そうすれば、ギブ&テイクでしょ!?」
「それは……頼もしいけどさぁ」
悪くない話ではあるが、こっちはまだ冒険者養成校にすら入学してない身分だ。卒業するまでに、どんなギルドに入ろうか?などというワクワクする悩みも、なくなってしまうかもしれないのだ。
「で、返事は!?」
母親を救いたい気持ちは分かるが、こちらにも人生設計というものがある。ここは、一旦……。
「……保留で!」
「はぁ!?そこは、二つ返事で“うん、いいよ!”って、言うとこじゃない?フツー!!」
「とりあえず、正式な冒険者になってから、改めて返答させていただきます。それではっ!」
そう言い残し、その場から逃げるように立ち去ろうとする俺を、猛ダッシュで追いかけてくる彼女。
「待て、こらー!植村ユウト!!」
と、いうわけで……この事件は、一件落着した。
俺が、七海アスカとギルドを立ち上げるかどうかは、また別の機会にお話ししよう。
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