白銀の刃
サイズ・ビルの激闘から、一週間。
『黒岩ムサシ氏による一連の報道を受けて先程、元「漆黒の鎌」副団長である石火矢ミナミ氏が会見を開き、ギルド名を「
病院のロビーで、大画面の立体映像に映されているのは昼のワイドショー番組だった。
あの後、黒岩団長は裏社会と繋がっていたことや、秘宝の違法売買など、自らの罪を洗いざらい告白し、警察に勾留された。
自分が何者かに操られていたことなどは、一切と話すことはなく、世間からのヘイトは買ったものの、全てのネガティブイメージを一身に背負ってくれたことで、残された石火矢副団長らのやり直しをスムーズにさせたのだった。
今度はクリーンなイメージのギルドに再建する為に改名を決定し、ギルドホームである『サイズ・ビル』も『ソード・ビル』に名を変え、外装も黒から白へと塗り替える予定だとか。
黒岩団長の説得で四天王たちは残留することになったが、今回の事件を受けて三分の一の団員たちが離脱してしまい、界隈では五大ギルドの一角がついに崩れ、四大ギルド時代に突入したと騒いでいる。
「植村くん!受付、終わったー。行くよ」
受付を終えた七海さんが、ロビーのソファでニュースを観ていた俺を呼び込む。
今日は、彼女のお母さんが入院している病院まで、二人でお見舞いにやって来ていた。話の流れで、一緒に来ることになったのだが、お見舞いって何を持っていけばいいのか分からず、迷った挙句にベタなフルーツ盛り合わせを選んでしまった。
七海さんに出会いざま、学生のくせにチョイスが渋すぎ!と言われたのは、ここだけの話だ。
お母さんの病室は個室であり、俺は彼女に案内されて、中へと入って行く。
七海ママの病気は原因不明で、この時代でも治療法が見つかっていないのだという。詳しいことはプライベートなので、深くは聞けてないが、父親も七海さんが幼い頃に亡くなっていたらしく、なかなかの苦労人であることだけは理解していた。
ガチャ
「お母さん!来たよん」
中に入ると、七海さんのお姉さんと言われても信じてしまうぐらいの若々しく綺麗な黒髪の女性がベッドで上体を起こし、にこっと我々を迎え入れてくれた。
見た感じ、寝たきりの重体というわけではなさそうで、少し安心する。
「ありがとう、アスカ。そちらの方は、お友達?」
「まぁ、そんなとこ。冒険者仲間の植村ユウトくん。お母さんの話をしたら、一緒に来たいって言ってくれて」
「そうだったの。わざわざ、ありがとうございます。植村くん」
だいぶ年下であろう俺に対しても、深々と頭を下げてくれる七海ママ。不遜な娘とは大違いな優しそうな性格だった。あ、いや、娘さんも優しいところはあるんだけども。
「いえいえ!これ、つまらないものですが。ここに、置いておきますね」
「あら、美味しそうな果物ね。ありがとう」
俺がベッド横のテーブルに果物カゴを置くと、そこからヒョイッと七海さんがリンゴを取り出す。
「りんご、好きだったでしょ。今、食べる?
「そうね、いただこうかしら。一人じゃ食べ切れないと思うから、二人も一緒に」
「おっけー、任せて」
どこからともなく取り出したペティナイフで、リンゴの皮を剥き始める七海さん。護身用で持っとったんか!?まあ、いいけど。
「アスカ、大丈夫?リンゴの皮、剥いたことある?」
「ないけど、大丈夫!リンゴの皮ぐらい、誰でも剥けるから……ふぬぬっ」
危なっかしい手つきでリンゴと格闘し始めた娘を心配の眼差しで見つめる母親。微笑ましい光景ではあるが、見舞いに来て新たな入院患者をふやすわけにはいかない。
「いやいやいや!貸して、俺が剥くから」
「あ、ちょ!?」
半ば強引に、彼女からリンゴとナイフを奪い取ると、慣れた手つきでリンゴの皮に刃を滑らせて、途切れなく剥いていく。
「上手、上手!植村くんは、もしかして料理とかするの?」
「まぁ、たまーにですけど。簡単な
「ううん。それでも、十分すごいわ。将来、良い旦那さんになりそうね」
転生ボーナスで、前世での飲食バイト経験が引き継がれてることが、こんなことに活きるとは。この時代では、主夫が料理を作る家庭も珍しくないようだし、良い旦那を目指しちゃおうかな。
相手、いないけど。今のところ。
「それぐらい、私にも出来たし!なんで、邪魔したわけ!?」
「出来てなかったから、奪い取ったの!あのままじゃ、リンゴが破壊されるか、七海さんの指が切断されるか、どっちかのバッドエンドしか待ってなかったでしょーに」
「おいおいおい。なめてもらっちゃ、困るんですけど?あそこから、挽回していくつもりだったんだから!こっちは!!」
「挽回と言ってる時点で、失敗してたって認めてることなのでは?」
「だー!うるさい、うるさい!!あれか?ディベートで詰めてくるタイプの人間か、お前は!?」
たかがリンゴの皮剥きでヒートアップしていく俺たちを見て、一部始終を見守っていた七海ママが、クスクスと笑い始める。
「ふふっ。こんなに元気なアスカ、久しぶりに見た気がする。二人とも、本当に仲が良いのね」
その言葉に、ふと顔を見合わす俺らは、なぜだか照れ臭くなって、
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