決闘・3

 一撃一撃がフルスイングにも関わらず、とてつもないハンドスピードで連発してくる。さすが、【闘神】スキルといったところか。



 けど……



 王級ザガンとの闘いに比べれば、余裕を持って回避・反撃が出来ている。

 俺が気を付けるのは、組みつかれて密着されること。そうなってしまえば、自動回避は機能しなくなる。逆に言えば、それさえ防ぐことが出来れば、このまま押し切れるだろう。




「うおおおおっ!」




 これまでより、更にを長くして、大きく振りかぶった一撃を放ってくる団長。

 確かに、威力は出るだろうが、俺からしたら隙だらけのご馳走だった。


 敵のオーバーハンドライトに合わせるように、こちらも左フックをかぶせる。いわゆる、クロスカウンターというやつだ。




 ズドン!




 俺のクロスは、完璧にテンプルをとらえた。そして、その衝撃で団長はバタリと崩れ落ちる。


 あまりにも、あっさりとしたダウン。


 手応えはあったが、何かおかしい。

 当たる直前、団長が自ら人体の急所たるテンプルを、まるで打って来いと言わんばかりに差し出してきたような気がする。


 だが、何の為に?


 何の為に、進んで甚大なダメージを受けたのだろうか?




「植村くん!勝利メッセージが表示されるまで、まだ勝負は決まってない……油断しちゃ、ダメ!!」




 倒れた団長を、静かに見守ってた俺の耳に七海さんの声が響く。


 すると、倒れていた団長のまぶたがカッと開き、ユラユラと立ちあがろうとしている。

 追撃する絶好のチャンスのはずだが、本能が危険を察知したのか、気付くと俺は彼から距離を取っていた。


 テンプルへの一撃は、的確に入っていた。


 普通なら、脳震盪のうしんとうを起こしても、おかしくないぐらいのダメージは負っているはずだ。そんなすぐに、立ち上がることなんて……。




 フシュウウウ……



 団長の歯の隙間から、蒸気のような息が放出される。よく見ると、黒かった瞳の色も、朱色しゅいろに変わっていた。


 確実に、彼の身体には何か異変が起きている。




 ドンッ!




 こちらと目が合うと、まるで獲物を見つけた獣のように脅威的な突進力で迫ってくる団長。


 大丈夫だ。落ち着いて、見極めれば避けられる!




 ドクンッ




 なんだ?身体が動かない!?


 まさか、これは……!




「くっ……おおおっ!!」




 ボキボキボキッ!!




 寸前で何とか動かすことのできた右腕で、何とか団長の一撃を防ぐことに成功したが、その代償は大きかった。

 嫌な音と共に痛みが訪れ、すぐに右腕の感覚が無くなった。初めての感覚だったが、これが“骨が折れた”というやつなのだろう。

 気付くと、俺の右腕はブランと空に向かって伸ばされていた。正確には、敵の拳によって吹き飛ばされたと言うべきか。




 黒岩ムサシは、完全に意識を失っていた。


 いや、植村の一撃を急所に受けることで、わざと意識を失ったのだ。


 それは、なぜか?


 それが、彼のユニークスキル【闘神】の真の効力を発揮させる条件だったからである。


【闘神】の真の効力とは、戦闘中に意識を失った際、闘争本能のみで動けるようになるというもの。その“闘神モード”に入ると、身体能力が更に向上するのだ。


 植村の右腕を破壊したのは、“闘神モード”によって強化された【威圧】によって、自動回避を封じられてしまったから。土壇場になって、ようやくを発動してみせたのである。





 そして、闘争本能のみに突き動かされている黒岩は、攻撃の手を緩めない。


 次の一撃を振りかぶると、植村もその動作モーションに気付いて。





 また、さっきの一撃が来たら終わる!今は、態勢を立て直せ!!




【虚飾】が、【跳躍】rank100に代わりました




 後方に向かって、ジャンプしようとした俺に、団長の口から何かの飛沫しぶきが吐き出される。




「ぐっ!?」




 しかし、ジャンプに支障はなく、中央付近から部屋の壁に背中を激突させるほど、距離を置くことには成功した。


 緊急避難することはできたが、目が開かない。


 おそらく、ジャンプ寸前に浴びた、あの飛沫しぶき。察するに、敵の口に溜まっていた血を浴びせられてのだろう。プロレスでいう毒霧のように、完璧に俺の視界は奪われていた。


 卑怯な戦法だったが、決闘方法は“喧嘩”である以上、このような戦い方こそ逆に正攻法なのかもしれない。




 だが、困った。




 体勢は立て直せたものの、右腕は使い物にならず、視界も封じられている。しかも、相手は何やら第二段階らしき状態に入っている。状況は、悪化していくばかりだ。



 完全に、なめていた。



 王級ザガンより格下といえど、相手はレジェンド級の冒険者であり、五大ギルドの長なのだ。

 もっと慎重に、闘いを運ぶべきだった。



 このままでは……負ける。



 そう、意識した瞬間、急に足が震え出した。



【虚飾】に目覚めてからは、しばらく感じてこなかった感覚。真っ暗闇の視界、腕から感じる痛み、負けた場合に待つ未来……その全てが相まって、明らかな“恐怖”を、俺は今、感じていた。









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