決闘・1

 近くに立っていたポールハンガーに、上着のジャケットを掛けると、ワイシャツの腕をまくっていく団長。




「んで……そっちの、求めるものは何だ?」



「私たちが、勝った場合……『漆黒の鎌』の所有権を、譲渡してもらいます」



「ほう。大きく出たな、このギルドごと奪い取るつもりかよ」




 軽いストレッチを始め、臨戦態勢を整えていく団長は、まるで負けるつもりは無いのか、こちら側の要求にも余裕の表情は崩さない。




「そちらの要求は、レベル6の大秘宝アーティファクトでよろしいですか?」



「おう。それと……副団長派おまえらが、俺に絶対服従すること。死ぬまでな」



「……っ!?」



「こっちは、自分テメーが立ち上げたギルドを譲ろうっつってんだ。大秘宝アーティファクトぐらいじゃ、釣り合わねぇ。それぐらいのモンは、賭けてもらわねーと」




 少し逡巡しゅんじゅんした様子だったが、俺の方をチラッと見て、七海さんは答えた。




「分かりました。その条件で、構いません」



「七海さん!?」



「大丈夫。これぐらいのことは、言ってくるんじゃないかと思ってた。想定内よ」




 想定内と言われても……俺が負けたら、みんなが団長に永遠服従しなくちゃいけなくなるということだ。最悪、自分の秘宝ぐらいなら失ってもいいと思っていたが、これで負けられる理由も無くなった。




「よーし!その生意気なツラを、じわじわ屈服させられると思うと、今から楽しみだぜ。くっくっく」




 そうだ。服従ということは、何でも言うことを聞くということ。冒険者として扱うだけじゃなく、として扱うこともあるかもしれない。


 しかし、そんな恐怖を感じさせることなく、七海さんは凛とした態度で返す。





「それで、肝心の勝負内容は?」



「んなモン、決まってるだろ。素手でのタイマンだ!男同士なら、尚更な」



「そうだろうと、思ってました。それじゃ、二人とも……互いに、“決闘アプリ”を開いて下さい」





 彼女にうながされ、俺は先ほどダウンロードした“決闘アプリ”を起動させながら、団長の前に対峙した。


 このアプリは、決闘する一人が協会公認の冒険者であれば、見習い中の俺が使っても問題は無いらしい。その点は、助かった。




 決闘者は、互いに自分の氏名と賭けるものを宣言して下さい




 宙にメッセージが表示されると、団長から先に名乗りを上げた。なにぶん、決闘は初めてなので、ありがたい。





「決闘者・黒岩ムサシ!賭けるものは、『漆黒の鎌』の所有権。決闘内容は、互いに素手による喧嘩タイマンだ!!」



「決闘者・植村ユウト。賭けるものは、レベル6の秘宝アーティファクトと……七海さんたちの、永久服従権」





 七海さんの顔をうかがい見ると、静かに首を縦に振ってくれた。




 宣言が受理されました。契約を破った決闘者には、当アプリにて危害が加えられます




 さらっと、恐ろしいテキストメッセージが表示された。改めて、体内に機械が埋め込まれてることの怖さを実感する。





 それでは、「決闘」を開始して下さい




 3・2・1……と、数字がカウントダウンされていく。こんなすぐに始まるのなら、こっちも少しは体を動かしておけばよかった。




 fight!!




 タイマーが「0」になって、勝負が始まるゴングが鳴ったが、意外にも団長は攻撃を仕掛けて来なかった。真っ先に、殴りかかってきそうなタイプかと思っていたが、意外と慎重派なのかもしれない。




(チラッと【目星】で見てみたが、スキルも身体能力も平凡なガキだ。だが、何もない野郎に、アスカが大事な決闘者を任せるわけねぇ。よほど、強力なユニーク持ちってことか)




 ノーガードで突っ立ったまま、こちらを凝視してくる団長。警戒されてるのか、なめられてるのか、うかがい知れない。自分から、先手を取るべきか?





(俺の喧嘩勝負を受けたということは、強化系のユニークであることは、ほぼ間違いねえ。俺と同じ“神シリーズ”だとしたら、厄介だが……まあ、いいや。もう、めんどくせー)




 彼は、いつもこうだった。強敵と相対した時、セオリー通りに相手のスキルの分析や、戦術の組み立てに頭を使うのだが、それは1分も保たなかった。



 ドンッ



「相手の力量なんざ、拳を交わしゃ……全部、分かる!そうだよなぁ!?小僧ッ!!」




 突然、強烈な蹴り足で地面を踏み込むと、一瞬にして植村との間合いを詰めていく黒岩ムサシ。





「くっ!グランドマスター・モード!!」



【虚飾】が、【近接戦闘(格闘)】rank100に代わりました





 これは、絶対に負けられない闘い。しかも、相手は五大ギルドの団長だ。こちらも、出し惜しみはしてられない。全力で行く!




「……絶対防御陣イージス!」








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