サイズ・ビル 団長室

 中に入ると、そこは学校の教室がゆうに二つ分は入るほどの広さの奥に、ポツンと立派なデスクが一つだけ設置してあった。全て黒を基調とした色で統一されており、ギルドのトレードマークなのだろうか髑髏が鎌を持っているイラストの描かれた旗が、壁には立て掛けられている。


 そして、デスクに座る貫禄ある中年男性が、勝手に入ってきた俺たちに対して、特に驚くこともなく迎え入れてきた。




「随分と、派手に暴れ回ってくれてたようだな。俺の庭で」



「そちらが先に仕掛けてきたので、迎え撃ったまでです。少々、派手にはやってしまったかもしれませんけど」



「ガハハッ!ご挨拶あいさつだな、アスカ。なぜ、連絡を寄越よこさなかった?」




 椅子の肘掛けに肘を乗せ頬杖ほおづえをつきながら、『漆黒の鎌』団長・黒岩ムサシは、彼女を問いただした。




「ずっと、ダンジョンの中に幽閉されてたんです。だから、連絡を取ろうにも、取る手段が無かった」



「ふむ、おかしいな。俺が、レベル6に部下を偵察へ行かせた際には、クリアできなくても元の世界へ戻ってこれてたんだが?」



「それは、おそらく最深部に到達する前に、脱落したからでしょう。私は、最後の番人たる王級クリーチャーとの戦いで敗北して、とらわれていたので」



「クリーチャーが、倒した人間を捕獲したってのか?それが、本当なら興味深い話だがなぁ……」




 団長はデスクの引き出しから、極太の葉巻を取り出すと、慣れた手つきで吸い口をカットしつつ、専用のライターで火を着けていく。




「本当です。王級のクリーチャーは、人の言葉も操る知的生命体でした。とはいえ、他の例は知らないので、あの個体が特別なだけだったのかもしれませんが」



「じゃあ……なぜ、お前は今、ここにいる?本当はクリアして、大秘宝アーティファクトを手に入れたんじゃないのか?それを独占したくて、逃げ回ってた。違うか?」



「そんなことは、しません」



「ならば、なぜ、こっちに戻ってすぐに、俺のところへ来なかった?母親の治療費が、欲しいんじゃなかったのか?おかしいだろう」



「もちろん、母の治療も大事ですが……それ以上に、あの大秘宝アーティファクト貴方あなたに渡すわけにはいかないと思ったんです」




 ブハァと葉巻シガーの煙を宙へと吐き出し、団長はニヤリと笑った。




「ようやく、を出したな。やはり、持ってたんじゃねえか、レベル6の大秘宝。しかも、渡したくないほどの性能ってわけだ」



「そんなに、欲しいのなら……勝負を、しませんか?レベル6の大秘宝アーティファクトを賭けて」



「“決闘デュエル”か。わざわざ、ここまで乗り込んできたのは、それが目的だったわけだ。ちなみに聞いといてやろう、お前が俺とやるのか?アスカ」



「いえ……こちらの代表は、ここにいる彼です。彼が、団長あなたと闘います」




 さすがに、それは驚いたのか、葉巻を吸うのを中断して、彼のいぶかしげな視線が、俺に突き刺さってくる。




「お前が、報告にあった謎の男か。どこの馬の骨かは知らねぇが、さすがに部外者とは闘えんな」




 団長の異様なオーラに気圧けおされつつあったが、何とか【精神分析】で平常心を取り戻し、俺は勇気を持って答えた。




「部外者なんかじゃありません。あなたの欲しがってるレベル6の大秘宝アーティファクトは、現在は俺の所有物となってます。つまり、俺こそ“決闘デュエル”すべき当事者なんじゃないでしょうか?」



「なん……だと?」




 まだ疑わしいといった表情を浮かべる団長に対して、七海さんも後押しをしてくれる。




「彼の言ってることは、本当です。実際に、レベル6を攻略したのは“彼”なんです。私は、その時に救助されただけ」



「仮に、それが本当の話だとする。だとすれば、闘う理由が分からん。この勝負にあるのは、秘宝を失うというリスクだけ。お前には、何のメリットもないだろ?」




 確かに、その通りだ。正直、損得勘定で考えれば、俺にこの勝負を受けるメリットなどはない。


 しいて言うなら、七海さんたちがハッピーエンドを迎えられることぐらい。だが、それで俺の闘う理由としては十分だったのだ。





「みんなのちからになりたいと思ったから、名乗り出た。ただ、それだけです」



「ハッ!ちからにねぇ……アスカにでも、れたか?小僧」



「まぁ、そんなとこです。女の子の前で、カッコつけたい……そんなもんでしょ、男なんて」




「ちょ……!?」っという動揺した声が、後ろから聞こえたが、恥ずかしいので振り向けなかった。

 売り言葉に買い言葉で、つい変なことを口走ってしまったかもしれない。




「ガハハハッ!嫌いじゃねえぜ、お前みたいな素直な奴ぁ。だがな、“決闘デュエル”なんざリスクのあることをしなくても、お前らから奪い取る手段はいくらでも……」




決闘デュエル”を断りかけた団長が一瞬、ビクンと身体を跳ねらせると、次にはさせられていた。




「……いや、気が変わったぞ。やってやろう、その“決闘デュエル”!!」




 俺は、心の中でガッツポーズを決めた。


 きっと、『強制挑戦状チャレンジャー』の効果が発動したのだ。しかし、ここまで僅かな時間で思考を反転させてしまうとは、ある意味ではも恐ろしい秘宝アーティファクトである。

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