青龍

 キン!キン!!



 青柳による青龍刀の斬撃を、硬化したモップの柄で防いでいく京極。しかし、その一撃一撃は強力でジリジリと押されていく。



「懐かしいなぁ、京極!結局、お前は練習試合で、一度も俺に勝てたことはなかったな。それを、思い出したか!?」



 彼のユニーク【青龍】は強力なスキルだったが、実戦で使うことは少なかった。なぜならば、使わなくても、十分に強いからである。

 こと剣術に関しては、ギルド内で“赤井シン”ぐらいしか、対等に渡り合える相手がいなかったほどだ。




「玄武流薙刀術……薔薇舞!!」



 ギイン!!




 わずかな隙を突いて、京極が横薙ぎの大技を繰り出すも、あっさりと青龍刀で防がれると、彼女のモップを真上に弾いて、返しの回し蹴りを放つ。



 ズドッ!



「ぐっ!?」



 バランスを崩す京極に、追撃の一刀が振り下ろされるが、ギリギリのタイミングで、彼女は持っていたモップを盾にした。



 ズバアッ!!



 しかし、硬化させたモップは、勢いをつけた彼の振り下ろしによって、真っ二つに分断されてしまう。彼の太刀もまた、凍結されて斬れ味が増していたのだ。




「だんだん、武器が小さくなっていくなぁ?いい加減に、負けを認めらたらどうだ!?」



「そんなん、まっぴらごめんや。アンタを倒すことぐらい、コレで十分」




 二つに割れて、もはや警棒ぐらいの大きさになってしまったモップの柄を一つ捨てると、残った一本を構えて、虚勢を張った。




「もっと、利口な奴だと思ってたんだがな。馬鹿な連中に囲まれてるうちに、感化されたか?それじゃ、お前の得意な薙刀術も意味をなさないだろ」



「アンタらといた頃よりは、楽しくやっとる。ウチの仲間を、悪く言わんといてもらおか」



「馬鹿め……楽しいだけじゃ、強くはならん。お前は、成長を放棄した。俺に勝てないまま、三流冒険者として一生を終えるんだ!」




 今度は身体を回転させて、更に勢いをつけた“唐竹割からたけわり”を振りかぶってくる青柳。


 すると、何を思ったのか京極は持っていたモップの棒をポーンと、彼の目の前で空高く投げ飛ばす。




(やぶれかぶれに、自ら得物えものを放棄するとは……もはや、武人としての矜持きょうじすら無くしたか!京極セイラ!!)




 怒りに任せ、青柳が愛刀を振り下ろそうとするが、彼が一瞬だけ宙に飛ばされた棒に視線誘導された隙に、京極は間合いを詰めて超至近距離にまで近迫っていた。



 ガッ!



「……なた落とし!!」



 ずどんっ



 京極は、青柳が刀を持つ腕を掴み取ると、そのまま捨て身で自らの体重と共に、足を掛けながら敵を思いっきり床に叩きつけた。


 それは、“組み打ち”と呼ばれる古流柔術の技だった。戦国時代では、甲冑を着た武士を無手で制圧する為に使われた投げ技である。




「ぐはっ!?……こ、小癪こしゃくな真似を!」




 ビキビキビキッ




「……っ!?」




 しかし、相手もただの冒険者ではない。倒された時、咄嗟に京極の肩を掴み、【青龍】の力で凍結させていく。




「ぬ……ぬかったな、京極。この俺にはまだ、団長から貰った【青龍このちから】が残ってる」



「いいや。それも、織り込み済みや」




 彼女は、まだ凍結していない片方の腕を天に伸ばすと、先ほどのモップの棒が落下してくるのをキャッチして。




「硬化!!」



 ズドッ!!!



 硬化されたを、青柳の鳩尾みぞおちに打ちつけると、彼を悶絶させた。




「が……はっ!げほっ、げほっ!!」



「……勝負アリやな。しばらく、まともに動けんやろ?」




 京極は、モップの棒をカランと投げ捨て、青柳を一瞥いちべつすると、宝物庫から出ようとする。




「ま、待て……いつの間に、こんな技を……げほっ!」



「考えが古いんよ。楽しくても、互いに高め合える仲間がおれば、人は成長できる。自分の強さに胡座あぐらをかいて、努力を怠ってたんはアンタなんとちゃうか?」



「俺が……慢心まんしんしていたというのか……自分でも、気付かぬうちに……」




 少し哀れみのある表情で、再び青柳を見つめて、彼女は静かに部屋を去って行った。
















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