サイズ・ビル エレベーター

 三叉路さんさろの真ん中の道から、エレベーターホールへと戻ってきた石火矢一行だったが、他の二つの道からも新手の冒険者たちが押し掛けて来ようとしていた。



「くっ、ぞろぞろと!こんなに、おったんかい。『漆黒の鎌』に所属しとる冒険者……ってか、副団長派が少なすぎやねん!!ワイらだけって」



「私が、人望無いみたいに言わないでくれる?他にもいるけど、今は違う任務を遂行中なだけ!」




 エレベーターの上ボタンを無駄に連打しながら、無意識にあおってくる西郷に、ムキになって反論する石火矢。それを横目に、周防は何やら術式を唱えていた。




「いでよ……光の防壁!!」




 キイイイイイン




 周防のユニークスキル【断絶】によって作られた障壁が、片一方の道を完全に塞ぎ、冒険者たちの進行を一時的に止めることに成功する。




「言い争いしとる場合やないですよ!私が、張れる防壁は一枚までです!!その間に、そっちから来る敵を何とかして下さいっ」



「ありがとう、ホノカ。あとは、私に任せて……二人は、先に上の階へ」




 エレベーターが降りてくるのを確認して、石火矢は向かってくる敵を、先陣に立って迎え討とうとしている。




「センセー、ワイも戦うで!人手は、多い方がええやろ!?」




 そう言って、近付いて来ようとする西郷を、片手で制しながら石火矢は言った。




「必要ないわ。私を、誰だと思っているの?さっさと終わらせて、すぐに追いつくから。いいから、早く行きなさい!」



「センセー……」




 ちょうど、到着したエレベーターに周防が颯爽と取り込むと、躊躇ちゅうちょしている西郷に呼びかける。




「マサキ!ぐずぐずせんと、はよ行くで!!先生の強さは、知っとるやろ!?」



「お、おう!わかっとるわ。ほな、センセー……あとで、また!!」




 ニコッと笑顔で応える石火矢の顔が、閉まるエレベーターの扉によって見えなくなる。中のボタンは、すでに周防によって最上階が押されていた。




「ななみんと植村くん。無事に、団長のところまで辿り着けたんかなぁ……?」



「植村は、どうでもええけど。アスカちゃんは、心配や」




 チーン




 すると、エレベーターは思ったよりも早く停止して、扉が開く。そこは、先ほど乗り込んだエントランスフロア、1Fだった。


 そこに立っていたのは、なんと……四天王の“白浜ロウキ”であった。





「あ、植村?お前、何でココにおんねん!アスカちゃんは!?」



「……やはり、お前らか。俺の偽物になりすまして、ここに侵入したのは」



「あん?なに、言っとんねん。ワイらの前でまで、芝居する必要あらへんぞ」




 どうやら、まだ気付いてないらしい西郷に、呆れ顔でツッコんだのは周防だった。




「あほ!目の前にいるんは、本物!!本物の白浜くんやねん!!!」



「え……んな、アホな!本物やったとしたら、どうやってこんなに早く戻ってこれたんや!?」




 ずかずかと二人のいるエレベーターの中に入ってくる白浜に、警戒しつつ距離を取る周防と西郷。




「……『ブックマーク・ドア』。出口の扉が描かれたシートを任意の壁に貼ることで、どの場所にいても入口の扉シートを貼った壁から戻って来れる。転移型の秘宝アーティファクトだ。持って行っておいて正解だったぜ」




 そう、彼は『ブックマーク・ドア』の一枚をサイズ・ビルの壁面に貼っておき、対となる一枚を常備していた。だからこそ、拘束を解いてすぐに、この本社へと戻って来れたのだ。


 不幸中の幸いなのは、取り巻きの冒険者はおらず、白浜一人だったことだ。もしかしたら、転移扉には人数制限があるのかもしれない。


 とはいえ、相手は明らかに格上の冒険者。西郷は、トンネルで殴られたことを思い出し、なおのこと緊張感は高まっていた。




「俺を、はどこだ?」




 しかし、彼にとって西郷らは眼中になかった。まずは、自分に対して屈辱を与えたに報復すること。それが、彼の最優先目標となっていた。


 三人を乗せて、再び動き出すエレベーター。白浜は押されていたボタンを見て、言った。




「最上階……そこに、奴もいるのか?」




 次の瞬間、西郷は勢いよく緊急停止ボタンを勢いよく押して、エレベーターは急停止する。



 ガコンッ!



「悪いが……植村アイツんとこに、行かせるわけにはいかへんな。お前が行くと、余計な手間が増えてまうねや」



「……馬鹿が。大人しくしてれば、お前らに危害を加えるつもりはなかったというのに。そんなに、死にたいのか?」



「リベンジしたいと思うとるんは、お前だけとちゃうぞ。良い機会や……こっちも、あの時の。返させてもらわんとな」




 二本の包丁を取り出して、白浜と対峙する西郷。




「ホノカ、下がっとれ。これは、男と男のタイマンや!手出しは、厳禁やからな?」



「下がろうにも、場所ないわ!かっこつけんな!!」



「おい!せっかく、人が高揚こうようしとるっちゅうのに。水差さんとってや〜?」




 二人のやり取りを聞きながら、白浜は天を仰ぎながら、ハァと溜め息を吐いた。そして、視線を西郷に戻すと、くいくいっと人差し指を動かして相手を呼び込む。




「まあ、いい。ちょうどいい準備運動だ……軽くひねってやるから、かかってこい」





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