サイズ・ビル 19F

「ここが、最上階?」


「ううん。この一個上にあるのが、団長のいる最上階。ただし、そこまでエレベーターは開通してないの。ここからは、階段で行くしかない」



 それも、セキュリティーを考えての構造になってるからなのだろうか?とにかく、俺と七海さんはエレベーターで来れる最上階でもある19階まで、無事に到着していた。黙って、彼女の後ろをついて行っているが、どうやら階段を探していたみたいである。


 しかし、無事でいられたのもここまでのようだった。


 ぞろぞろと取り巻きである冒険者たちを引き連れて、赤い長髪の男がこちらへと歩み寄ってくる。


 さすがに、このパターンはもう慣れた。どうせ、彼も“四天王”の一人かなんかなのだろう。




「ご苦労だった、白浜ロウキ……と、言いたいところだが。先ほど、本物と思われる“白浜ロウキ”から、連絡があった。では、キミは何者かな?」




 もう、あの拘束から抜け出したのか。もっと厳重に縛りつけておかなかった俺たちの失敗ミスなのか、こんな短時間で脱出エスケープしてみせた白浜くんの強さをたたえるべきか。




「お、俺は……」



「彼は、私が連れてきた助っ人よ。そりゃもう、めちゃくちゃ強いんだから!」




 俺が答えに迷っていると、あっさりと偽物であることをバラしてしまう七海さん。おまけに、変なハードルまで上げてきた。




「ちょ……七海さん!?」



「今更、取り繕っても遅いって。ここから先は、強行突破で行っちゃおう」




 確かに、本物が現れてしまった以上、下手な芝居に意味はないか。強行突破するには、なかなかに高い壁と思われる連中だけど。




「大人しく、団長のもとへと連行されろ……七海アスカ。そうすれば、その助っ人とやらに手荒な真似はしないでやろう」



「言われなくても、団長のところへは行くつもりですけど?ただし、あなたの引率はいらないけどね……赤井シン」




 赤井シン?それが、長髪の彼の名前なのだろう。




「気の強い貴女キミなら、そう言うと思ってた。ならば、まず冒険者かれらを撃退できるよう、頑張ってみたまえ。私は、団長ボスの部屋へと続く、最後の階段で待っているとしよう。幸運を、祈っている」




 ふっと妖しい笑みを浮かべながら、団員たちに後を任せて立ち去ってしまう赤井くん。口調こそ温和な感じがするものの、それが返って彼の不気味さを演出していた。


 とはいえ、彼も一緒になって戦うとか言い出してこなかったのは、不幸中の幸いだ。


 あとは、少し数こそ多いものの、配下と思われる冒険者たちだけに集中すればよくなる。




「誰が、気の強い女だっつーの!植村くん、いける?てにして良いんだよね!?」




 それはつまり、“数が多いから、一緒に戦ってくれるよね?”と、いうことだろう。




「いや!当てにしちゃダメっす!!」



「はぁ!?なんでよ?そこ、断るとこじゃないでしょ!フツー」



「えっと……簡単に言うと、俺の強くなれる時間ってかぎりがありまして。なるべくなら、強敵との戦い用に取っておきたいといいますか。非常に、心苦しいんですけども。ハイ」




 これが、今の俺の弱点の一つだった。


 短いスパンでの連戦となると、【近接戦闘(格闘)】の持続時間がもたないのだ。この弱点を克服するには、もうひとつ何かメインの戦闘スキルを用意する必要があったが、まだ見つけられていなかった。


 一応、【回避】の自動パッシブ効果があるので、攻撃を受けないことは出来るのだが、俺の通常戦闘力では一般人を相手にするのが関の山だろう。

 冒険者相手となると、打倒する一撃までは放てない。敵が一人とかなら、【こぶし】や【キック】で何とかなったかもしれないが……。




「キミのユニーク、時間制限あんの!?そういうの、早く言ってよ!この人数、私一人に相手させるつもり?」



「いや!えっと、デコイ役ぐらいなら、出来ます!!」



「……あぁ、そう?じゃあ、よろしくー」



「へ?」



 ドンッ!



 悪魔のような笑みを浮かべて、いきなり俺を敵陣に突き飛ばす七海さん。こと戦闘になると、ドSだ……この人。



「とらえろ!!」



 飛んで火に入る夏の虫とばかりに、一斉に俺を捕らえようと襲いかかってくる冒険者軍団。これじゃ、おとりというより生贄いけにえだ。


 しかし、ここで黙って捕まってやるわけにはいかない。いくら【回避】でも、全方位を囲まれては逃げ場がない。俺が出来ることは、なるべくスペースを確保しながら、敵の攻撃をけていくことしかなかった。




「なんだ、こいつ!?攻撃が、当たらん!」




 全ての攻撃を回避しまくる俺に、冒険者軍団が気を取られていると、背後から“あのささやき声”が聞こえる。




「シルエット・シックス……“隠者ハーミット”。ドレスアップ」



「七海さん!」



「良い時間稼ぎだったよ、植村くん。あとは、下がってて」








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