サイズ・ビル B3F

「このビルに地下なんて、あったんやな。初めて、知ったわ。センセー、来たことあるんでっか?」



「そりゃまあ、副団長だからね。今は、出禁を食らってるけど」



 地下へと降りて行くエレベーター内で、呑気に会話を交わす捕虜たちに、たまらず青柳が注意を促す。



「私語はつつしめ。お前ら、自分たちの立場が分かってるのか?」



「雑談ぐらい、ええやんけ。派閥が違うとはいえ、同じギルドの仲間ちゃうんか?器のちっさい奴やのう」



 西郷の挑発的な言葉に、一瞬だけ感情的になる青柳だったが、チーンと扉が開く音で理性を取り戻す。タイミングよく地下のフロアに到着したようだ。



「……着いたぞ。出ろ」



 チラリと、後ろにいた捕虜たちの方へ青柳が振り向くと、石火矢が服の袖口から、何かを落とすところを目撃した。



 ゴトッ



 モクモクモクモク




 床に落下した衝撃で、彼女が落とした玉から大量の煙が放出される。そう、それは石火矢が落とした煙玉だったのだ。



「くっ!?これは……!」



 青柳が煙玉に気を取られた、その一瞬の隙を見逃さず、石火矢はその長く美しい脚で、彼の股間部こかんぶを蹴り上げた。



 ドッ!!



「今よ!みんな、ついてきて!!」



 ダダダッ




 生徒たちも、何も聞かされてなかったのだろう。石火矢の奇襲に、少しだけ戸惑ったが、すぐに彼女の後を追ってエレベーターの中から飛び出る。大量の煙で、視界は悪くなっていたが、長身の先生の影は分かりやすく視界にとらえることが出来た。




「があぁ……くそ、が!!」




 怒りより、急所をジャストミートされた痛みが勝って、うずくまったまま動けない青柳に、煙を感知して作動したスプリンクラーの水が降り注いだ。


 警報と共に、フロア内が赤く点滅し始める中で、石火矢は目当ての部屋に到着すると、自身の指紋を認証させて、その扉のロックを解除する。



「良かった。私の指紋、まだ登録されてたみたいね。さぁ、入って!」



 言われるがまま、他の三人が中に入ると、最後に石火矢が入り、中から扉を閉める。その部屋には、統一性のない様々な物が、展示品のように並べられていた。



「先生、ここは?」



 周防の質問に、何かを探しながら石火矢が答えた。



「ここは、『漆黒の鎌』の宝物庫よ。レベル4までのダンジョンで手に入れた秘宝アーティファクトは、全て此処ここで保管されてるわ」



「えっ!?じゃあ、ここにあるん……全部、秘宝アーティファクトってことですか?」



「そういうこと。まぁ、中には何の役にも立たないようなハズレもあるけど」




 それを聞いて、周防がキラキラとした瞳で、中の物を物色していると、そんなものには興味なさげな西郷は先生に尋ねた。




「んなことより、センセー。なんで、あのまま青柳をやってまわなかったんですか?わざわざ、こんな袋小路の場所に逃げ込んでからに」



「青柳くんを、甘く見ない方がいいわよ。たまたま、奇襲で一撃を与えることは出来たけど、戦いが長引けば、スキルを封印されている今の私たちでは分が悪い。例え、この人数でもね」



「ふーん。そんなに、強いんか?セイラ」




 同期だと言っていた京極に、話の流れのまま質問する西郷。





「ウチら、四天王のスキルは、団長が中国の科学者から買い取ってきた改造カスタムスキルなんよ。それを、才能はあるけど生まれ持ってのユニークに恵まれなかった四人の訓練生に分け与えた」



「その四人が、今の四天王ってわけやな」



「そう、ウチも含めてな。その改造カスタムスキルは中国の神話に出てくる“四神ししん”っちゅう四体の霊獣になぞらえて、造られとってな」



「うーん……小難しい歴史の話は、ええわ。とりあえず、青柳のスキルだけ教えてくれんか?」




 京極と西郷の話を遮るように、何か目的の物を発見したらしい石火矢が声をあげた。




「あった!『自由の鳥像ちょうぞう』!!」




 先生が手にしたのは、白い鳩のような鳥の小さな彫像だった。




「もしかして……それを探す為に、この部屋に?」



「ええ、そうよ。まだ、保管してあって良かったわ」



「それも、秘宝アーティファクトなんですよね。どんな効果を、持っとるんです?」




 疑問を投げかける周防のもとへ、その像を持ったまま近付いていくと、石火矢は鳩のくちばしの部分を彼女の封印錠にコツンと当てた。すると……。



 ガチャリ



 封印錠のロックが解除され、ゴトンと床に落ちる。ついでに、自作自演で着けていた普通の手錠まで、鳩のくちばしが手品のように解錠してしまう。



「これが、『自由の鳥像』の能力よ」



「すごい、すごい!どんな鍵でも、開けちゃうちからですか!?」



「ま、そんなところ。正確には、“どんな拘束こうそくも破ってしまう能力”だけど」




 すると、扉の向こうから青柳と思われる声が響く。




「奴らは、この中に逃げ込んだ!一斉に突入し、全員を確保しろ!!少々、手荒でも構わん!!!」




 どうやら、復帰した青柳が仲間を連れて、宝物庫を包囲してるらしい。さっきのこともあってか、口調には怒気が含まれている。



「センセー!はよ、ワイらの手錠も!!」



 事態は一刻を争う。石火矢は急ぎ、秘宝の力を使って全員の拘束を解いていった。

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