闘神

 サイズ・ビル。都心に立つ20階建ての高層ビル。元々は関西にあった本社を移転させ造られた「漆黒の鎌」の新ギルドホームである。外壁が黒一色で塗装されており、異質な雰囲気を漂わせている。



 ギルドホームでは、新たなゲートの調査や探索はもちろんのこと、現実世界での所属冒険者への仕事クエスト斡旋あっせん、希望する者には部屋の一室を住居として貸し与えていたりと、大規模なギルドになればなるほど、その役割は多岐に渡る。



 ここは、そんなサイズ・ビル最上階の一室。


 社長室のような部屋で、一人だけ椅子に座る貫禄ある男。やや白髪混じりの髪をオールバックにして、無精髭を生やす様は、とても大手ギルドのトップとは思えない風貌だったが、着ているスーツは中の隆々とした筋肉のせいかパツパツで、ただの中年男性ではないことは一目瞭然であった。



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 黒岩くろいわムサシ

 45歳(男)日本出身

「漆黒の鎌」団長 S級冒険者

 身体能力 S


 スキル

【近接戦闘(喧嘩)】rank90

【こぶし】rank88

【威圧】rank86

【組み付き】rank78

【キック】rank76

【考古学】rank68


 ユニークスキル【闘神】rank ー


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「……で?何の用だ」



 豪華なデスク越しに、立たされている男へ向かって、「漆黒の鎌」団長・黒岩ムサシは低い声で問いただす。



「ほ……報酬を、受け取りに来た」



 立たされていた迷彩服を着た屈強そうな男が、目の前に座っている黒岩に対して、恐る恐る返答した。



「ハッ!俺の耳が腐ってなけりゃ、“報酬”って言ったか?今」



「そ、そうだ。約束通り、仕事はした!報酬を貰うのは、当然だ」



「あのなぁ……失敗続きの傭兵に報酬を支払うほど、俺のギルドは寛容じゃねえぞ」



 そう。彼らは既に、団長くろいわの任務を二回ほど失敗させていた。一度目は植村家の襲撃、二度目は公道での襲撃である。目標ターゲットは、もちろん“七海アスカ”だ。



「この任務は、成功報酬では無かったはずだ!約束通り、契約金は払ってもらう。例え、失敗に終わったとしても……だ」



 自身も、雇っている傭兵たちに給与は与えなければならない。後ろめたい気持ちもあったが、男は勇気を振り絞って、強い意志を示した。



「なるほどな。そちらの言い分は、分かった。ちなみに、今回の失敗は、なぜ起こったと思ってる?」



 ゆっくりと席を立ち、机を回り込みながら、男のもとへ歩いて行く黒岩。



「事前情報には無かったイレギュラーな存在を確認したと、報告が上がってきている。これは、そちらの伝達ミスとも言えるのではないか?」



「そうか、そうか。そりゃ、悪かった!それなら、報酬を与えよう」




 ゴキゴキッと指の骨を鳴らしながら、黒岩が男の前に立つと、おもむろに右腕のスーツの袖をまくり上げてく。あらわになった上腕部分には、髑髏に鎌があしらわれたタトゥーがほどこされていた。




「まさか、俺に手を出すつもりじゃないだろうな。うちの傭兵団を、敵に回したいのか?」



「冒険者ひとり、ろくに捕獲も出来ない連中など、敵にもなりゃしねえ。くだらん脅しをするぐらいなら、命乞いのちごいでもしたほうが、まだ利口りこうってもんだぜ?」



一冒険者風情いちぼうけんしゃふぜいが、あまり俺をなめるなよ?これでも、過去の大戦で……」



「あ〜、うるせーうるせー。なら、俺の一発を耐えてみせな?それが出来たら、お望み通り……ちゃんとした報酬のカネをくれてやるからよ」




 今から、殴りますよと言わんばかりに大きく拳骨げんこつを振りかぶる黒岩。その様を見て、傭兵団のリーダーは、反撃のシミュレーションを頭の中で組み立てる。


 これだけ分かりやすい動作モーション、しかも見るからにパワータイプの一撃。容易に避けて、隙あらば調子に乗っている団長の喉元へ隠しナイフでも寸止めしてやろうかと、傭兵おとこは考えていた。


 しかし……。



「オラァ!!!」



 グンッ



 襲ってくるパンチを避けようとするも、身体が硬直して動けない。


 元々、高い黒岩の【威圧】スキルは、彼のユニーク【闘神】効果によって、更に威力を増して敵の動きを阻害する。


 このスキルによって、、不可避の一撃が生まれるのだ。




 グシャアッ!!




 顔面にクリーンヒットした団長の拳骨げんこつによって、傭兵おとこの身体は車に衝突されたかのように、吹っ飛ばされた。




「……シン。お客様が、お帰りだ」




 黒岩の言葉に反応して、部屋の扉が開くと、ずっと外で待機していたのか、赤い長髪の精悍な顔立ちの男が入ってきて、ぐったりとした傭兵の体を軽々と持ち上げた。


 赤髪の男の名は、赤井シン。エース級冒険者を集めた四天王と呼ばれる側近集団の中で、リーダー格を務めている、実質「漆黒の鎌」No.3の実力者である。



先刻せんこく、白浜から副団長の動向をつかんだとの連絡がありました。もうじき、良い知らせが届くかと」



「そうか、そうか!ハナから、お前らに頼んでおくべきだったかもな。ガハハッ」




 ぺこりと無言で頭を下げると、赤井は傭兵を抱えたまま、部屋から出て行くのだった。


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