白虎・2

(何だ……何が起きた?まさか、俺のカウンターにカウンターを合わせてきたのか!?)



 一瞬、意識を失いかけるも、すぐさま立て直し、状況を整理する白浜。しかし、彼はすぐに気付く。


 自分をぐらつかせた相手が、目の前から消え去っていることに。



(どこだ?どこに、消えた!?)



 シュルッ



 その相手は、背後にいた。


 それは、まるで優しくマフラーを掛けるかのように、殺気を感じさせず自身の首へと絡みついてきた。



「がっ……!?」




【組み付き】は、その名の通り相手の身体に組み付く能力。【こぶし】や【キック】よりも、更に接近した戦闘に向いている。



 しかし、上手く組み付けたところで、俺の出来る選択肢は少ない。絞め技や関節技などは、見る分には簡単に見えるかもしれないが、実際には繊細な技術が必要とされるものばかりだからだ。

 だからこそ、俺は幻影相手れんしゅうでも、あまり【組み付き】は使ってこなかった。



 だが、相手は人間。しかも、ここはダンジョンではなく、現実世界だ。下手に致命傷を与えるような攻撃は出来ない、確実に安全に大人しくさせるような手段が必要だった。




 腕を相手の首横にある頸動脈に当たる部分にしっかりと当て、隙間が生まれないよう、自分の頭も利用しながら敵の頭の位置を調整し、スリーパーの体勢に入る。


 不器用な俺が唯一、出来そうだったバックチョーク。これだけは、プロの解説動画を繰り返し見て要領を頭に叩き込んでおいた。




 グググッ……



「う……ぐ!!」



 絞める力を強めると、相手も危機感を感じたのか、暴れ回ってエスケープしようとする。


 そのパワーはケモノのように強く、この状態からでも俺の体を浮き上がらせてくるほどだ。次に、肘を打とうとしてくる動作モーションを始めた。


 その一撃は、もらってはいけない。


 すぐに、俺は敵の膝裏を蹴って、バランスを崩すと、そのまま後ろへと引き込んでグラウンドの態勢へと移行した。



 徐々に、相手の抵抗が少なくなっていく。




【虚飾】が、【精神分析】rank100に代わりました


 白浜ロウキ(状態:気絶)




 なにぶん、実際の人間相手にめるのは初めてだ。しっかりと、対象が気を失ったことをスキルで確認して、迅速に腕をほどく。


 スリーパーも、やり過ぎれば命に関わる。審判レフェリーでもいれば止めてくれるのだろうが、ここは路上だ。こちらが、さじ加減を見極めるしかない。そういった意味では、相手の精神状態を調べられる【精神分析】のスキルが役に立ってくれた。




 戦いが一段落いちだんらくして、ふと周りを見回すと、残りの敵たちは全て地面に横たわっていた。




「まったく……無茶するわね。いきなり、敵に飛び掛かっていった時は、気でも狂ったのかと思ったわ」




 倒れた白浜の首筋に手を当てて、脈があるのを確認しながら、ミナミ先生が呆れたように話しかけてきた。




「すみません、急な思いつきで……。でも、皆さんも流石さすがの手際でした」



「ほとんどの相手が、硬直しててくれたからね。アレも、キミの仕業なんでしょ。何を、したの?」



「【威圧】のスキルで、動きを止めたんです。上手うまく、効いてくれたみたいで助かりました」




(【威圧】スキルで、動きを止める?【威圧】なんて、せいぜい相手を萎縮させて運動性能を下げることぐらいしか出来ないと思っていた。それを、あの数……しかも、手練てだれな冒険者たち相手に)



 いぶかしげな表情で、こちらを見てくる先生。何か、変なことを言ってしまったのだろうか?


 そんな空気など、お構いなしに近付いてきたのは周防さんだ。




「植村くん、めっちゃ強いやん!白浜くんって、ギルド内でも、結構な実力者やねんで?自分でも言っとったけど“四天王”って、呼ばれとるくらい。それを……あんなに、あっさり」



「そ、そうなんだ?でも、西郷くんが先に攻撃して、隙を作ってくれたからだよ。きっと」




 あながち、間違いでもない。彼の特攻があったおかげで、あらかじめ敵の戦闘スタイルを予測することが出来たのだ。


 言われた本人も、まんざらでもなさそうだ。




「やっぱりなー!そうなってくると、実質はワイの一人勝ちと言っても過言では無いやんな!!」



「過言やろ。私が、障壁を張っとらんかったら、のびてたやん、自分。今頃」



「ぐぬぬ……!!」




 周防さんに正論で返されて、地団駄じだんだを踏む西郷くん。


 そんな二人のいつものやり取りを横目に、京極さんも会話に加わってきた。




「それにしたって、大した腕前や。近接格闘のみに絞れば、アスカちゃんとタメはれるんとちゃう?」




 悪戯いたずらっぽく、彼女が七海さんに向かって言うと、予想外の答えが返ってきた。




「いや……植村くんのが、上でしょ。だって、彼はレベル6を単独踏破したんだから。これで、少しは信憑性が出てきたんじゃない?セイラ」



「せやなぁ。ほんまに、クリアしたんかもしれんね。まだまだ、本気も見せてへんようやし?」




 俺からしたら、お二人も十分すぎるほどに強かったんですけど。何にせよ、少しばかり目立ち過ぎてしまったかもしれない。


 女性陣から褒められまくる俺のことが気に食わないのか、西郷くんが話を変えた。




「そんなことより、センセー。こいつら、どうしますのん?」



「連れて帰るわけにもいかないし、ここでびててもらうわ。しばらくね。見たところ、ひどい怪我人も見当たらなかったし、大丈夫でしょう。それに……」



「それに?」



「これは、逆にチャンスかもしれない。利用しない手は、ないわ」













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