白虎・1

 このままでは、まずい。


 ここで、全員が捕まってしまえば、全ての作戦は水の泡。このダンジョンでの苦労も、無駄に終わってしまうだろう。危険だが、やるしかない。



【虚飾】が、【威圧】rank100に代わりました



「……!?」



 俺の【威圧】で、白浜くんを含めた団長派の冒険者たちが動きを止める。本人たちも、何が起こったか理解できていない様子だった。



「みんな、今だ!!」



【虚飾】が、【近接戦闘(格闘)】rank90に代わりました



 そう叫びながら、すぐ近くにいた敵の喉元を突き、戦闘不能にさせた。



 俺の【威圧】の効果は、もって10秒ほどしか硬直させることができない。こうして、急所を狙った最短の攻撃を繰り返したとしても、さすがに一人でこの人数全てを制圧することは不可能だ。



 だからこそ、


 七海さんたちが、敵の異変を察知して行動に移してくれることを信じて。



 そして、その思いは伝わっていた。


 さすがは、訓練された冒険者たちと言うべきか、俺の言葉と最初の敵を倒した様子を見て、脳で理解するより早く、弾けるように身体が動き出していたのだ。




「西郷流調理法・け……めッ!!」




 すっかり、女性陣からのダメージも回復していた西郷くんは、腰に仕込ませていた二本の包丁を瞬時に引き抜くと、しっかり柄の部分を敵の鳩尾みぞおちに打ち込んで、二人を沈める。


 敵対しているとはいえ、相手は同じギルドの仲間だ。やはり、なるべく傷つかないように配慮しているのだろう。




「玄武流薙刀術……薔薇舞ばらまい!!」




 京極さんは袋に包まれたままの薙刀で周囲の冒険者たち3〜4人を、一気に薙ぎ払った。とても、女子とは思えないパワーだ。いや、何かのスキルで武器を強化しているのかもしれない。




 どちらかといえば、パワーで押し切っていたのはミナミ先生の方だった。ズバリとハイキックを目の前の敵側頭部に決めると、次の敵を強烈な膝蹴りで仕留めた。ユニークスキルというよりは、純粋な格闘技術で決めてるあたり、強者感が漂っている。



 最後に、圧巻だったのは七海さんだ。



「シルエット・ツー……“怪盗ファントム”。ドレスアップ」



 目にも止まらぬ動きで、二人の冒険者が構えていた拳銃ハンドガン を盗み取ると、その二丁拳銃を両手に携え、次々と敵を撃ち抜いていったのだ。


 非殺傷銃ライオット弾だったのか、撃たれた相手も命に別状は無さそうだ。それすらも、瞬時に【鑑定】していたのだとしたら恐ろしい。


 おまけに放たれた弾丸は全て行動不能となる身体の位置へと着弾しており、相当な精密射撃を行なっている。


 バイクでの時もそうだったが、一つ一つの専門職が高次元すぎる。こんな変化へんげを、俺が知らないものでも、まだ四つも隠し持ってると思うと、彼女のエースたる所以ゆえんが分かった。



しかし、この時代の銃刀法はどうなっているんだろうか?冒険者なら、武器を所持していい法律でも出来ているのかもしれない。




「お前で、しまいや!!」




 あれだけいた敵を短時間で壊滅させ、残る一人となった敵の親玉に、西郷くんが襲いかかる。




「お前……ごときにッ!!」




 しかし、寸前で【威圧】の硬直から解放された白浜くんの一撃が、西郷くんの攻撃が届くより速く相手の顔面を捉える。



 ドンッ!!



「ぐふぉっ!?」



 その強烈な一撃は、西郷くんを体ごと吹っ飛ばす。

 そのままトンネルの壁に激突してしまうが、思ったより顔面にダメージは見られない。




「ちっ。障壁を張って、威力をやわらげたか……」




 すぐに西郷くんに駆け寄った周防さんが、白浜に強い意志を込めてにらみ返す。

 そう、彼女がユニークスキルを使って、彼のダメージを軽減させたのだ。優秀なサポーターである。




 その隙を突いて、次の刺客が白浜に向かって飛び掛かる……俺だ。




「うおおおおおおっ!!」




 走り込んで、思いっきり振りかぶったフックを当てようとする俺を見て、彼はふっと笑みを浮かべた。




「雑魚が。エキストラを倒したぐらいで、いきがりやがって……」



「植村くん!ダメッ!!」



 七海さんの忠告が聞こえたが、俺の拳は止まらない。そのフックをくぐるように、彼の最短距離のカウンターパンチが襲いかかってきた。



 後から聞いた話だが、白浜ロウキのユニークスキル【白虎】は、とらのような筋力・敏捷性・感覚を手に入れる強化系のたぐいだったらしい。


 だからこそ、西郷くんや俺に対しても、でもカウンターを合わせて反撃することが出来たのだろう。




 しかし、俺は出していたパンチをぐるんと引っ込めると、返すもう一方の手で逆に彼の攻撃にクロスカウンターを合わせた。


 最初の大振りの一撃は、わざと彼の反撃カウンターを引き出すためのえさだった。


 西郷くんの奇襲を跳ね返していたのを見て、相当な反射神経とハンドスピードを持っていることは予想できていた。そこに自信を持っているのだとしたら、絶対に隙だらけの一撃に反応しないはずはないと思った。



 ゴッ



 俺が放ったクロスは、彼の顎先あごさきとらえる。

 しかし、その一撃では倒れず、ぐらっと揺らいだものの意地で、その場に踏みとどまった。



 だが、チャンスなのは変わらない。


 ここで、一気に畳み掛ける!




【虚飾】が、【組み付き】rank100に代わりました





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