LV1「獅子女の大壺」・5

「ふぉんまに入ってたんふぁ、ひゃったやないふぁ」



 顔面が腫れまくって、もはや原型をとどめてない西郷くんが何かを言っているが、さっぱり聞き取れない。



「自業自得といっても……さすがに、やりすぎなんじゃない?」



「平気、平気。ダンジョンから出れば、ミッション中の怪我とかも元通りになるから。これぐらい、おきゅうえてやらんと」



 俺の問いに対して七海さんが、やってやったとばかりに手のほこりをパンパンと払っている。絶対に、彼女の透けシャツには視線を向けてはいけないと心に誓った。


 そもそも、俺の私物のTシャツなのだけど。



 手に入れた『強制挑戦状チャレンジャー』を大事に保管しているミナミ先生に、周防さんが尋ねる。




「それにしても、ニッチな秘宝アーティファクトですよねぇ。今回の件があるから良かったものの、普通に手に入れとったら使い道に困るとゆーか」



「そうねぇ。格闘技の選手が、どうしても負けた相手にダイレクト・リマッチしたい時に使うとか?それもそれで、状況は限られるか」



「ですね……でもまぁ、レベル1の秘宝やったら、そんなもんなんですかね〜。普通は」




 確かに、使い道の難しい秘宝ではある。普通に生きてて、誰かに何かの勝負を挑む機会など、そうそうないからだ。あるとしたら、友達にゲーム勝負を持ちかけるくらいだが、別に断られても問題ない。




「とにかく、目的の物は手に入ったんやし、帰りましょ。出口も、現れたみたいやで?」




 来た時と同じような透明のゲートが出現した場所を指差し、京極さんが言う。




「そうね。みんな、帰還しましょう!各自、忘れ物のないように!!」




 まるで遠足の引率ばりに、ミナミ先生が号令をかけると、各々が手放していた武器などを回収して回る。俺も、ビート板としてお世話になった大きなまな板を拾い上げて、礼と共に西郷くんへと返却した。



 そして、俺たちは無事にダンジョンをクリアして元の世界へと帰還した……のだったが。





「そろそろ、戻ってくる頃だと思ってましたよ。石火矢副団長」




 白色の長髪を一本の下げ髪おさげでまとめた独特な髪型が印象的な、中華服を着た若い青年が現れると、それと同時に剣や槍など様々な近接武器を持った男たちが、出てきたばかりの俺たちを取り囲む。




「白浜ロウキ……待ち伏せしていたの!?」




 先生の口調からすると、知ってる人物のようだが、敵対していることは明らかだった。

 誰なのか聞く状況でもないので、自らのスキルを使って調べてみることにする。



【虚飾】が、【鑑定】rank100に代わりました



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 白浜しらはまロウキ

 18歳(男)日本出身

「漆黒の鎌」所属 C級冒険者

 身体能力 B+


 スキル

【近接戦闘(少林拳)】rank72

【回避】rank66

【目星】rank55

【跳躍】rank52

【手さばき】rank48

【近接戦闘(槍)】rank46


 ユニークスキル【白虎】rank ー


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『漆黒の鎌』!?そうか、団長派の冒険者たちか。

 どうりで、今まで襲ってきた連中と何か毛色が違うなと思っていたら、これで合点がてんがいった。


 一歩でも、おかしな動きをすれば、攻撃されるような状況に、七海さんが先生へと謝罪する。




「すみません……多分、私のせいです。レベル6に挑まされた際に、GPSを付けられていたんです。この事態は、想定できたはずなのに」



「いいえ、私のせいよ。もっと、慎重に段取りを踏むべきだった……副団長として、情けないわ」




 落ち込む二人を見て、ニヤニヤと笑みを浮かべながら白浜が話し始めた。




「反省会は、あとでゆっくりとどうぞ。七海アスカ、団長が会いたがっている。本部まで、来てもらおうか?」



「ふん。行かないと言っても、無理矢理にでも連れて行くつもりなんでしょ?」



「その通り。あとは、京極セイラ」




 不意に名前を呼ばれた京極さんは、珍しく動揺した素振りを見せる。




「ウチにも、何か……用が、あるん?」



団長派こちらがわへ戻って来い。ユニークスキルに恵まれなかった俺たちに、強力な改造カスタムスキルを与えてくれた恩を、もう忘れたのか?」



「それは……今でも、感謝しとる。せやけど、感謝しとるのは、や。今の団長は、ウチの尊敬していた団長やない。アンタも、薄々気付いとるやろ?」




 改造カスタムスキル……そういえば昔、三浦がスキルは売買できるみたいなことを言ってたような気がする。京極さんたちのユニークスキルは、後付けのスキルということなのだろうか?




「俺が、惚れ込んでいるのは団長の圧倒的な“力”だ!性格なんて、どうでもいいんだよ。どうやら、価値観が違うらしい。四天王は決裂か……残念だよ。京極」



「……っ!!」



「知らん顔もいるが、残りの面子メンツに用はない。さっさと、拘束こうそくしろ。七海アスカ以外は、な」




 白浜の命令に応じて、部下と思われる冒険者たちが一斉に武器を構えた。









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