LV1「獅子女の大壺」・2

「えっ、なんで!?スフィンクスのなぞなぞちゃうかったってこと?」



 勢いが強まる水流に、焦りを隠せない周防さんが取り乱している。他に、何か見落としているものがあったのかもしれない。



【虚飾】が、【目星】rank100に代わりました



【目星】のスキルを発動させて、壺の中を目を凝らして見てみると、先程の天候マークが金色に光っている。

 このスキルの応用力は凄まじかった。こういう場面においては、俺自身が求めてる情報を感知しているのか、ヒントとなるものが光って見えるようになるらしい。さながら、推理ゲームのお助けシステムのようだ。頼もしい。




「あれ!天井にも、何か模様が!!」




 天井にも光が映し出されていて、俺はそれを指差して、みんなに伝えた。




「え?よく分かるね……全然、見えないんだけど」




 天井の蓋までは、結構な高さがあった上に、中は薄暗く、よほどの視力がないと何かが描かれていることさえ気付かないほどであった。




「今度こそ、ホノカちゃんの便利アプリの出番やで〜!望遠アプリ!!」




 何やらアプリを起動させて、天井をまじまじと見つめ始める周防さん。さっきの翻訳アプリの件が、よっぽど悔しかったのだろう。


 その様子を横目で見て、京極さんが感心している。




「望遠鏡のアプリか……準備ええね、ホノカちゃん。あらかじめ、入れとったん?」



「先週、好きなアーティストのライブ行っとって、そん時にダウンロードしてた。えへへ」



「あ〜……ある意味、凄い運やねぇ。ホノカちゃんらしいわぁ」




 ダンジョンの為じゃないんかい!一番、普通の女の子っぽいんだよなぁ、周防さん。そこが、良かったりするんだけど。



「それで、何か見えた?」



「なんか……輪っかの中に、星の印がある!」



「星の印?まさか、それも触れなきゃいけなかった天候マーク!?」




 周防さんから詳細を聞いて、考え込む七海さん。気になるのは、【目星】で確認してみても人型の模様は描かれていないということだ。どういうことなのだろうか?


 そんなことを考えてる間にも、水かさは膝あたりまで増えていた。このトラップが焦りを生み、思考能力を低下させていく。



「はよせんと!みんな、おぼれ死んでまうで!?数打ちゃ当たれで、押してかんか?」



「ダメよ。さっきの失敗を見たでしょ?おそらく、間違えると水の勢いが増していく。闇雲に押しても、溺れるのが早まるだけ」



「そんなこと言っとったって、このままやと……」




 何かしら行動しないと落ち着かない様子の西郷くんを、ミナミ先生が強めの口調で制した。



 ぺたぺたと壁を触って、とりあえず何か手掛かりを探すのは西郷くんと周防さん。ミナミ先生と七海さん、京極さんは静かに頭の中で思考を張り巡らせている感じだ。これだけで、何となくメンバーの性格というのが分かってきた気がする。




「やっぱり……あの星マークも、順番に加えないといけないんでしょうか?」



「これがスフィンクスの謎をアレンジしたオリジナルの問題だとしたら、ありえるかもしれないわ。でも、肝心の人の模様が描かれてない。それは、どういうことなのかしら?」



 先生と七海さんの話を聞きながら、俺も頭をフル回転させる。とはいえ、ここはレベル1のダンジョンだ、そこまで難しい問題ではないはず。考えろ、考えるんだ!




「単純に考えれば、星は夜を表してるんだと思います。そうなると、順番に入るとしたら月の前後なんじゃ?」




 西郷くんが壁とにらめっこしている間に、意見を出してみた。彼に聞かれると、またケチをつけられそうだからな。


 それに引き換え、七海さんはちゃんと真剣に俺の案を聞き入れてくれた。




「そうだね。朝から夜になるにつれて、人が進化していく様子とリンクしているから、その考えは合ってると思う。だとしたら、老人期の前か後ろってことになるけど……」



「もしかして……!」



「なに?何か、分かった!?」



「あの輪っかって、天使の輪を表してるとか?」




 安易な考えかもしれないが、黙っているよりかは何か意見を出していかないと、状況は変わらない。

 すると、京極さんも賛同してくれたようで。




「天使の輪……死後の世界を、表してるってわけやね。つまり、この四つで輪廻転生を描いとるんか」



「推理としては、面白いね。試してみる価値は、あるかも。さっき、月の印を押した時に水流が強くなるまでに長めのがあったんだよね。あれも、もしかしたら、四番目の印が押されるのを待っていたからなんじゃないかな?」



 そんな小さな異変にまで気付いていたとは、さすが七海さんだ。期待されるホープなだけはある。


 だが、良かった。京極さんも七海さんも、自分の案を採用してくれたようだ。これで、少しは役に立てたのだろうか?いや、喜ぶのは成功してからだ。



「ほんなら、今度は四番目に星マークに触れるとして……次の問題は、どうやってあの高い天井に手を届かせられるか?やな」




 京極さんは再び高い天井を仰ぎ見ると、頭を抱えた。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る