漆黒の鎌・5

「……くん!……植村くん!!起きて、着いたよ!?」




 バンの後部座席で、すっかり眠りに落ちていた俺は、七海さんに揺り起こされて、目を覚ました。


 確か、あれからすぐにミナミ先生の車で移動することになって、つい道中で睡魔に負けてしまったのだ。ホバークラフトで動いているせいか、騒音や振動などはなく乗り心地は最高だった。




「無理して起こさんでもええて、アスカちゃん。ゲートの場所さえ分かりゃ、用は無いやろ。そいつ」



「さっきから、何で植村くんには当たりが強いわけ?彼が弱者だと思ってるなら、もう少し優しくしてあげたら!?男のくせに、うつわちっさ!」



「はうっ!?」




 七海さんの強烈な一言に、かなりの心の痛手を受けたのか、あからさまに落ち込んだ様子でフラフラと去っていく西郷氏。


 その様子を見ながら、先に車を降りていた周防さんと京極さんが呆れた顔で話している。





「マサキも、マサキやと思うけど……ななみんも大概たいがい、鈍感やねんな〜。さすがに、同情してまうわー」



「ほんまになぁ。普段は鋭いくせに、恋愛事れんあいごととなると、途端に無頓着むとんちゃくになるから。アスカちゃん」




 そんな生徒たちの人間関係などは気にもせず、周囲を見回っていたミナミ先生が、何かを発見したようで、こちらに声を掛ける。




「みんな、集合!あったよ、ゲート!!」




 寝ぼけまなこのまま外に出ると、そこは人気ひとけのないトンネルの入口で、外壁には緑のつたが生い茂っていた。この道自体が、あまり今では使われていないのか、管理は行き届いてないようだ。




「ほんまに、あったんですか!?凄い!やっぱり、本物やったんや。植村くんのアプリ!!」




 人一倍、はしゃいでる周防さんの後を追って、最後に先生のいるトンネルの中へと足を踏み入れると、確かに壁の一部にゲートの入口が出現しているようだった。




「透明のゲート……レベル1のダンジョンですね。アプリの情報とも、合致がっちしてます」



「これじゃ、車の中でトンネルを通ったとしても、気付かないかもね。未発見なはずだわ」




 見つけたゲートを確認しながら、先生と七海さんが話している。トンネル内は照明も切れていて薄暗く確かに一瞬、通りかかったぐらいでは壁に描かれた落書きと見間違ってしまっても、不思議じゃなかった。




「それじゃ、入りましょう。情報では、エスケープミッションってことだけど、確証は無いわ。念の為に、各自の武器は持参して行くように!」




 先生の指示に、各々がバンに戻って身支度を開始する。俺は、特に何も持ってきてなかったので、目の前のゲートをまじまじと見つめた。


 これが、本来の“透明”か……なるほど、ちゃんと透けてる。




「なにをそんなに、ジロジロと見てんの?」




 同じく大した準備はいらないのか、一緒に此処ここに残っていた七海さんに尋ねられた。




「いや、透明の色を覚えとかないとと思って。また、白色のゲートと間違えないように」



「ぷっ!大丈夫よ。レベル6のゲートなんて、早々お目に掛かれるもんじゃないから。普通は」



「あ……やっぱ、そうなんだ。団長さんは、たまたま発見したのかな?白のゲート」



「そうみたいだよ。偵察部隊を送り込んだら、一人しか入れないレベル6のゲートだと分かったみたいで、それで私に白羽の矢が立ったってわけ」




 自分では、攻略しなかったのか……レベル6だと情報が無さすぎて、警戒したのかもしれないな。実際に、倒されても元の世界には戻れなかったわけだし。


 しかし、それで選ばれるってことは、七海さんがギルド内でも相当な実力者だと認められてるってことだよな。やっぱり、決闘デュエルするのはミナミ先生か、七海さんのどちらかなのだろうか?




「先生!全員、準備が出来ました」




 何か袋に入った長物を肩に掛けながら、京極さんが報告する。アレが彼女の武器なのかもしれない。




「よし。ここから先は、何が起こるか分からないわ。みんな、細心の注意を払って行動するように。報告・連絡・相談は忘れず、迅速に!」




「「「はい!!」」」




 みんなの揃った返事に、自然と気が引き締まる。俺にとっては、複数人で挑戦するのは初めてとなるダンジョンだ。徐々に、緊張感が増していく。




「それと、マサキ」



「ん?なんでっか、センセー」



「ここから先は、みんなが目的を共にする仲間となるわ。変な私情は捨てて、協力すること!それが、プロの冒険者ってものよ……わかった?」



「う……うっす。わかりやした」




 チラッと、こちらに視線を向けて、渋々と先生の指摘を受け入れる西郷くん。間接的に、俺と仲良くやれよということを、理解したらしい。


 こっちも、心から信頼してもらえるように、少しは役に立たないとな。今のところ、持ってたアプリしか活躍してない。ついてきたからには、結果を残さなければ……とはいえ、謎解きは苦手な部類なのだが。




 こうして、『漆黒の鎌』メンバーに余所者よそものである俺を加えた6人の即席パーティーで、レベル1のゲートに挑むこととなった……。

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