漆黒の鎌・4

『ダンジョン・サーチ』の詳細を説明すると案の定、みんなに驚かれた。改めて、このアプリの価値を再認識させられる。




「レベル6の大秘宝アーティファクト……やっぱり、規格外ね。団長が、欲しがるわけだわ」




 まじまじと、俺がオープンしたウィンドウを共有している先生に、七海さんが答えた。




「団長は、まだ秘宝の詳細は知りません。知ったら余計、血眼ちまなこになって、手に入れようとしてくると思います」



「そうね。そして、絶対に手渡すわけにはいかない。ん……これが、植村くんが言ってたダンジョン?」




 日本地図の各地に記された出現中のダンジョンのうち一つを、二つの指で拡大ピンチアウトさせるミナミ先生。




「そうです、そうです!“強制挑戦状チャレンジャー”のあるダンジョン。レベルは1、エスケープミッションらしいです。場所はサイタマなので、そう遠くはないです。今は、誰にも見つかってないみたいなので、早めに行ければ一番乗り出来るかもしれません」




 同じく一緒の画面を見ていた周防さんが、ちゃっかり唐揚げを頬張りながら、感心している。




「誰かに発見されてるかどうかも、分かるんや?すご〜。このアプリあったら、冒険者活動がサクサク進むやんな」




 呑気のんきな仲間はスルーして、京極さんは冷静に問題点を指摘した。




「エスケープミッションなんか。レベル1とはいえ、ウチにはアンサーがおらんからなぁ……そこだけが、懸念点けねんてんやね」




 エスケープミッションといえば、確か謎解き要素のある脱出系ミッションだったと思われる。クリーチャーなどの敵は滅多に出てこないぶん、戦闘力より頭の回転や柔らかさを持つ冒険者アンサーが重宝されるミッションである。





「それでも……このタイミングで、このアイテム。運が、神がかってるとも言える。挑戦しない手は、ないでしょう。みんなの意見は?」




 先生の問いかけに、黙ってチャーハンを食ってた西郷くんが、まだ何か不満そうに返事をした。




「挑戦すること自体は、別に賛成や。せやけど、ホンマにアテになるんでっか?そのアプリ」



「それは……直接、行って確かめるしかないわね。今は、これが一番の有効手段になるわけだから」




 渋々と納得したのか、黙って何回かうなずくと、再びチャーハンを静かに食べ始めた西郷くん。


 その様子を見て、周防さんが暗くなったムードをポジティブな言葉で明るくしてくれる。




「まぁまぁ、でも……サイタマやろ?先生の車で、すっ飛ばせば、ピュッて行って帰って来れるんちゃう?例えガセネタでも、そんなにタイムロスにはならへんと思うけどな〜」




 その言葉を聞いて、ふっと笑みを浮かべながら、京極さんも同意を示す。




「ホノカちゃんの、そういうとこ好きやで。ウチも、賛成」



「なら、決まりね。善は急げ、今から向かいましょう!」




 七海さんと目を合わせて、互いにうなずくと、食事の途中で、すくっと立ち上がるミナミ先生。かなりの行動派のようだ。




「い、今からですか!?まだ、食べ終わってへんのに〜!」




 名残惜なごりおしそうに、ギリギリまで食事を続ける周防さん。純粋に料理が美味しいのもあるだろうが、彼女の食欲も相当なものだと思った。




「タッパーにでも詰めて、車の中で食べればいいでしょ。真っ昼間から、そんなに食べてたら、すぐに太っちゃうわよ?」



「うっ!それは、イヤや〜」




 なくなく食べることをあきらめた周防さんを見計らって、各自が残った食事を迅速に撤収させていく。こんなことでも、チームワークって表れるものなんだな……っと、俺も手伝わないとか。


 一緒に片付けていると、七海さんがミナミ先生に疑問を投げかけた。




「でも、先生。仮に秘宝の力で、決闘デュエルに持ち込めたとして、誰が団長と戦うんです?」



「それが、問題その2。決闘デュエルルールは、対戦を申し込まれた相手が決闘方法を決められる。つまり、こちらは相手が得意とする勝負で、戦わなければならなくなるわけだけど…-」



「団長が選ぶ決闘方法は、大体の想像がつきます。おそらくは、素手同士による喧嘩タイマン勝負」




 なぜ、想像がつくんだろう?それだけ、腕っぷしに自信のある人物なのだろうか。ちょっと気になって、話に首を突っ込んでみた。




「団長さんって……そんなに、喧嘩タイマンが強いの?」



「……強い。持って生まれた身体能力が、そもそも優れてることもあるけど。その上で強力なユニークスキルも、持ち合わせてる」



「どんなユニークスキル?」



「【闘神】……闘う神と書いて、【闘神】よ」




 七海さんの言葉で、思い出す。“神”の文字の入ったユニークスキル……それって、母さんと同じだ。




「神シリーズ!?」



「そう。純粋に持ち主の戦闘力を増幅させるっていう、シンプルなユニークスキル。シンプルだけど、こと対人戦においては人類最強クラスといってもいいスキル」



「人類最強クラスって……そんな人に、勝てるの!?」



「勝つ見込みがあるとすれば、先生か……もしくは」







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