漆黒の鎌・3

「おい!大事な話しとんのに、何をイジっとんねん。ゲームでも、してるんちゃうやろな?」



 妙な動きをしていた俺を、目ざとく見つけて釘を刺してくる西郷くん。ちょうどいい、話を聞いてもらおう。



「ゲームじゃなくて、『ダンジョン・サーチ』のアプリを開いてたんだ。それで、便利そうな秘宝アーティファクトのあるダンジョンがあって……」



「ちょい待ち。皆さん、ご存知!みたいに言われたかて、知らんわ。そんなマイナーアプリ。しかも、うさんくさいのう」




 途中で割り込んできて、こちらの話に聞く耳すら持ってくれない彼に、七海さんがフォローを入れてくれる。




「そのアプリが、レベル6で手に入った秘宝アーティファクトなんだよ」



「な、なんやて!?アプリ型の秘宝なんて、聞いたことあらへんで?それに、何でそんな大事なモン、コイツの頭ん中に入ってんねん!」




 そうか、秘宝の詳細までは、まだ皆に伝えていなかったらしい。簡単に、口を滑らすべきではなかっただろうか?


 同じく疑問に感じたのか、周防さんも参戦してきた。



「命の恩人って、ななみんが自力でダンジョンから脱出したところを、植村くんが現実世界で偶然に通りかかって保護した……みたいな感じやと、勝手に思ってたんやけど。違うん?」



「残念ながら、違うんだよね。私が、ずっと捕まってたところに、新しく攻略を挑んできた彼が現れて、一緒に脱出してくれた……が、正確かな」




 七海さんから聞かされた事実に、全員が総じて信じられないといった表情を浮かべていた。

 その中でも、すぐに平静を取り戻した京極さんが、更に質問を続ける。




「ほんなら、レベル6のダンジョンをソロで踏破したん言うんは……アスカちゃんやなくて、植村くんってことでうてる?」



「そういうことになるね。私も、意識を失ってたから、その場を見てたわけではないけど」




 その含み方は、まだ俺が攻略したということを信じきれてないということだろう。それも、そうか。

 俺が、七海さんの立場でも信用しないだろう。


 そして、一番信用してなさそうな人間が突っかかってきた。




「ハッ!どうせ、アスカちゃんと戦い終わった時点で、クリーチャーは虫の息やったんやろ。そこに、たまたまやって来たコイツが、ごっつぁんゴールを決めたっちゅうわけやな。それしか、考えられへん」




 なるほど、そういう考え方も出来るか。脳筋そうに見えて、意外と頭の回転は早いんだな。絶対に、面と向かっては言えないけど。




「私が挑んだ日から、かなりの日数が経過してた。王級のクリーチャーなら、【自己再生】で完全な状態に戻っていたはずよ。それ以前に、私自身が大したダメージも与えることすら出来ずに、戦いに敗北してたはず。だから、その推理は違うんじゃないかな」




 すると、それまで傍観していたミナミ先生が、ジッと俺のことを凝視しながら、言葉を発する。




「身体能力は、中の中ぐらいで……基本スキルも、際立って高位のものは持ってない。アスカが完敗した敵を倒せたのだとしたら、よほど優秀なユニークスキルを保持しているとか?」



「そ、それは……」



「無理して、答えなくていいわ。ごめんね、勝手にステータスを読んじゃって。でも、そういうことなのよね。きっと」




 自分のユニークスキルを説明して、信用してもらうか?いや、チートすぎて、逆に嘘を重ねてると思われかねない。どうすれば……。


 しかし、西郷くんは引き下がらない。よほど、俺に対して敵対心を向けてるようだ。大体の理由は、察しがつくけど。




「先生まで、ダマされたらあかんで!冒険者を目指しとるとかいうて、そのヘナチョコステータス。なんも、努力しとらん証拠や!!どうせ、口先だけで世の中を渡ってきたタイプやろ!?」




 言われ放題で黙っていたけど、さすがにこれは少しカチンときた。俺だって、青春を捧げて自分のユニークスキルを磨いてきたつもりだ。確かに最初は、冒険者になる予定は無かったけど……今は、真剣に専門の勉強だって始めてる。




「人を、スキルや数字だけで判断しないでくれ!みんなが、どれだけ日頃の努力を重ねてるかは知らない……それに比べれば、俺の努力なんて大したことないだろう。それでも!今は真剣に、冒険者を目指してるんだ!!自分なりに、だけどさ」




 急に大人しかった俺が大声を張り上げたからか、周りに一瞬の静寂が訪れる。

 その静寂を切り裂いてくれたのは、さすがの年長者だった。




「マサキ。今のは、あなたが悪いわ。自分が言われて一番イヤなことを、他人に言ってはいけない」



「す……すんません。う、植村やったっけか?言い過ぎたわ。堪忍してーな」




 ミナミ先生の言葉を受けて、驚くほど素直に謝ってきた西郷くん。彼もスキルのことで、馬鹿にされるようなことがあったのだろうか?

 とにかく、こちらも初対面で険悪なムードになることだけは避けたい。




「いや、全然!気にしてないから。こっちこそ、急に大声を出しちゃって、ゴメン」




 男二人、目も合わせられずにモジモジとしていたところへ、京極さんが話を切り出す。



「とりあえず、その問題は置いとこか。話を戻して……植村くん、そのアプリで何を見つけたって?」



「あ、あぁ……ハイ!“強制挑戦状チャレンジャー”っていう秘宝のあるダンジョンが、出現中です。この秘宝の効果は、『ありとあらゆる勝負事に対して、強制的に相手を参加させることが出来る』。使えそうじゃないですか?」



「つ、使えそうだけど……それより、そのアプリ!まさか、ダンジョンを検知できるの!?」




 あぁ……まずは、そこからか。また、長くなりそうだ。


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