漆黒の鎌・1

「あ……先生!」



 目的地と思われる高層マンションに到着すると、その入口に、まるでモデルのようにスラリと伸びた美脚が印象的な、綺麗なお姉さんがギャップのある褞袍どてらを一枚、上から羽織って立っていた。



「アスカ!良かった、無事で」



 ヘルメットを取りバイクから降りた七海さんに、真っ先に駆け寄って、熱い抱擁を交わす先生と呼ばれた人物。


 テンやナギたちにとっての、ライアン先生みたいな関係性なのだろうか?大手のギルドだと若い冒険者たちには、指導者がセットで付けられるシステムなのかもしれない。



「ちょっと、道中でトラブルには遭いましたけど……何とか。その節は連絡もできずに、すみませんでした」



「仕方ないわ。まさか、レベル6は失敗しても、元の世界に戻れない仕様だったなんて……誰も、想像つかないもの」




 ここに来る前に通話をして、大まかな経緯いきさつは説明してあるとのことだった。歴戦の冒険者からしても、レベル6のダンジョンというのは、まだまだ未知な存在らしい。


 感動の再会を邪魔しないよう、そろそろと後部座席から降りて、ヘルメットを外すと、先生と呼ばれた美女と目が合ってしまう。




「彼は?」



「彼が、私を助けてくれた恩人です。植村ユウトくん。ちょっと事情があって、一緒に来てもらいました。このまま、同行してもらっても良いでしょうか?」



「なるべくなら、部外者は入れたくないところだけど……アスカが連れてきたのなら、よほどの理由があるんでしょ。いいわ、同行を許可します」



「ありがとうございます!」



 ペコリと先生にお辞儀をした後、俺に顔の表情だけで「挨拶しろ」と催促を送ってくる彼女。



「あ、えと……植村ユウトです。初めまして」



「初めまして。『漆黒の鎌』副団長の石火矢いしびやミナミよ。アスカを助けてくれて、ありがとう。礼を言うわ」



「い、いえいえ!大したことは、してませんので!!」




 副団長!?めちゃくちゃ、偉い人やんけ!


 会わせる前に一言くらい声をかけて欲しかったよ、七海さん。少しは、心の準備が出来ただろうに。




「とにかく……二人とも、中へ。みんなも、待ってるわ」




 そう言って、生体認証で自動ドアを開けると、俺たちを呼び込むミナミ先生。バイクは勝手に、無人走行で何処どこかへと消えていってしまった。多分、元の格納庫か何かに戻ったのだろう。


 てか、みんなって……まだ、他にもいるってことか。段々と部外者が、肩身の狭い感じになってきたなぁ。ただでさえ、社交性は低い方なのに。




 エレベーターで12階まで上がると、ある部屋の一室に案内される。ここは、ギルドのアジトというよりは、ミナミ先生の個人住宅のようだった。




「みんな!アスカが、戻ったわよ!!」



 玄関口で先生が呼びかけると、待ってましたとばかりに三人の男女が、ぞろぞろとやって来て、七海さんとの再会を喜び始める。

 年齢は見た感じ、全員が俺と同学年っぽい感じがした。



「ななみん〜!良かったぁ、ケガとかしてへん?」



「ははっ、大丈夫だよ。ありがと、ホノカ」



 真っ先に七海さんに抱きついた少女が、心配そうに七海さんの全身を見回して、安否を確認する。



「元気そうで、何よりや。おかえり、アスカちゃん」



「へへっ、ただいま。セイラ」



 そんな二人の様子を、少し離れて見守っていた大人の雰囲気漂う少女が簡潔に声を掛けると、七海さんも嬉しそうに反応した。



「アスカちゅわ〜ん!心配しとったんやでー!!」



 そして黒一点こくいってん、唯一の男子がチャラさ全開で七海さんに抱きつこうとすると、綺麗なカウンターで鳩尾みぞおちに前蹴りを決められた。



「じゃかましい!!」



 ゴスッ!



「ぐふぉ!?」



 前蹴りの痛みか、再会の感動でか分からないが、床にうずくまりながら、男は叫んだ。



「久しぶりの、この威力……これでこそ、ワイのアスカちゃんや!帰ってきたんやなぁ」



「誰が、お前のアスカちゃんだ!……ったく、マサキも相変わらずそうで、何より」




 うわぁ、入りづれぇ……このまま、帰っちゃおうかな。いや、さすがにダメか?



 一人、玄関前で入るのを躊躇ちゅうちょしていると、ホノカと呼ばれていた女の子にドアの隙間から、見つかってしまった。



「ん……誰?もう一人、おんねんけど」



 バレてしまっては、仕方ない。俺は、恐る恐る最後に部屋の中へと入り、初対面の方々に軽く頭を下げた。



「私を助けてくれた命の恩人だよ。一応、私たちとは同業者……に、なる予定?受けるんだよね、冒険者養成校ゲーティアの入学試験」



「あぁ、うん。植村ユウトです、はじめまして」



 七海さんのアシストを受けて、自己紹介をすると、女子二人は気持ちよく挨拶を返してくれた。




「はじめまして!私、周防すおうホノカ。ホノカで、ええよ」



「ウチは、京極きょうごくセイラ。アスカが、お世話になったみたいで、おおきに」




 残された男一人は、俺に思いっきり無言でガンを飛ばしてから、部屋の奥へと立ち去ってしまった。




「……???」



「アイツは、西郷さいごうマサキ。悪い奴じゃないんだけどねぇ……まぁ、気にしないで」




 七海さんに肩をポンと叩かれ、彼の他己紹介が終わった。前途多難である。

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