七海アスカ・6

 ちゅんちゅんちゅん……



 スズメの鳴き声が響く朝、母さんに見送られて、俺たちは家を出た。起きたら、傭兵軍団は綺麗に姿を消しており、改めて母親の人脈に恐怖を感じたおかげで、すっかり目は覚めている。



「あ〜、腰が痛い。なんで、自分の部屋で、俺が床で寝なきゃいけないんだ」



「うるさいなぁ。男のくせに、ぐちぐちと。レディーファーストって言葉、知らないわけ?」



 散々、ダサいダサいとき下ろしながら着た俺の私服を身に纏い、礼儀作法を説法してくる七海さん。助けるんじゃなかったと、少し後悔しはじめていたのは胸の内に閉まっておこう。




「母さんの部屋に、泊まればよかったじゃん。なんで、誘いを断ってまで、俺の部屋で寝るんだよ」



「お母さんと一緒じゃ、こっちが気をつかうでしょうが。しかも、それが名だたる冒険者だったら、尚更ね」



「そんなに、有名なの?“軍神”……だっけ」




 普通、男に付けそうな二つ名だよな。響きだけで、恐ろしいのは容易に想像は出来たが。




「本当、何も知らないんだ?【軍神】は、そのまま、あなたのお母さんの持ってるユニークスキルから命名された二つ名よ」



「ユニークスキル……みんなに、知られちゃってんの?」



「高名な冒険者クラスになると、隠しきれないから。例え、バレたとしても、支障が出ないくらい強力なスキルってこともあるけど」



「なるほど……確かに、強そうなスキルではあるけど」




 ちなみに今は、車の行き交う大通りを目指して歩いている。タクシーでも拾うのかと尋ねてみたものの、とりあえずついてこいとだけ言われた。

 あのアプリを所有していたことが分かったからか、とりあえず同行は許可された。何を協力したらいいかは分からないままだが、乗りかかった船だ。最後まで、乗ってやろうじゃないか。




「神シリーズ」



「え?」



「スキルに『神』の文字が入ってるユニークのことを、神シリーズっていうの。軒並のきなみ強力なスキルで、最高ランクに位置付けられてる。【軍神】は、確か……あらゆる軍事兵器や軍事武術を、完璧に使いこなす能力だったかな?ざっくりだけど」



「か……神シリーズ」




 めちゃくちゃ怖い能力やんけ。今後は、絶対に作ってくれた食事は褒めることにしよう。うん。




「この辺で、いいか」




 大通りまで出ると、何やらマイウィンドウを開いて、操作を始める七海さん。何かのアプリでも、起動してるのだろうか?




 ブロロロロロ……



 すると、何分かして黒塗りの大型バイクが無人の状態で走ってきて、俺たちの前で止まった。

 どうやら、この時代のバイクは呼び出すことで、勝手に迎えに来てくれるらしい。便利だ。




「ウチのギルドメンバーなら、誰でも乗れる共用バイク。こっちのが、タクシーより速いでしょ。お金も、かからないし」




 そのバイクには、丁寧に二つヘルメットが備え付けられており、七海さんは一つを自分の頭に、一つを俺へと手渡した。




「キミは、後ろね」



「七海さん、運転できるの?てか、免許とか取れる年齢だっけ?同い年だよね、俺と」



「フルオートだから、運転はAIが勝手にしてくれる。免許も持ってる。14歳から取れるの、知らない?今は、自動制御ブレーキも完備されてるし、ほぼ事故の心配は無いからね」




 そうだったのか。バイクとか、興味なかったから知らなかった。ホバークラフトもいいけど、確かに往年のタイヤ付きバイクは格好良いな。デザインも、心なしか前世より洗練されてる気がする。


 俺は言われた通り、ヘルメットを装着して彼女の後ろの席に乗り込んだ。普通だったら、こっちに女の子が相場だろう、何か情けなかった。




「ちょっと、飛ばすから。しっかり、掴まっててね」



「えっ!?スピード違反とか、気を付けてね?」



「いつの時代の罰則よ。言ったでしょ?今は、全ての乗り物に自動制御が付いてるから、大丈夫だって。ほら、行くよ」




 また変態扱いされないよう、申し訳程度に彼女の腰に軽く手を回す。すると、勢いよく二人を乗せたバイクは発車する。




 ブロオオオオオオオン!!




 ホバークラフトで走る未来の車を、高速でレトロなバイクが抜き去っていく。顔に当たる向かい風も相まって、その爽快感たるや格別だった。




「ところで、七海さん!どこに、向かってるの?」



「だから、仲間のところ!同じ『漆黒の鎌』のメンバーで、チームメイト!!」



「大丈夫なの?」



「大丈夫!その人達も、今の団長には疑問を抱いてて……いわゆる、反団長派ってヤツだから。きっと、力になってくれると思う!!」




 そういえば、『漆黒の鎌』には、派閥が出来てるとか言われていたような気がする。そういうことか。




 ブロロロロロ……!!




 何やら同じくバイクの排気音が聞こえて、チラリと後ろを振り向くと、何やらフルフェイスを被った二人のライダーが、車をき分けながら全速力でバイクを走らせてくるのが見えた。




「なんだ、あれ?走り屋……それとも、暴走族か?それにしちゃ、数が少ないか」



「やっぱり、来たか。ほら、バイクにしといて正解だったでしょ」



「え……まさか、アイツらも団長の放った刺客!?」



「ちょっと、派手に立ち回ることになるかも。振り落とされないようにね、植村くん!」










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る