七海アスカ・5

「“冒険王”と“軍神”を、両親に持ってるなんて……キミ、相当なサラブレッドだね。何か、教えてもらってるの?」



 簡単な夕飯を済ませ俺の部屋に二人で戻ってくると、母さんのパジャマに着替えた七海さんがベッドを占領して、マンガを読み始めた。リラックスしすぎだろ。




「いや、全然。母さんが、冒険者だってことすら知らなかったし。父さんに関しては、生まれてから一度も喋ったことない。ずっと、海外勤めだから」



「そうなの?もったいない。じゃあ、独学で冒険者を目指してるんだね。行くんでしょ?」




 七海さんはピラピラと冒険者養成校ゲーティアのパンフレットを見せて言った。漫画を選ぶ時に、本棚にあったのを発見されたのだろう。




「あぁ……うん。入学試験は、受けるつもり」



「じゃあ、試験勉強に集中しときなさいよ。私には、協力しなくていいからさ」



「え、いや……でも、協力するよ。そこまで、役には立たないかもしれないけど」




 まさか、食い下がってこられるとは思ってなかったのか、読んでいたマンガを置いて、今度は真剣な表情で話しかけてきた。




「だから、いいってば!関係ない人を、巻き込みたくないの!!これ以上」



「関係なくはないでしょ。団長が欲しいのは、にあるわけだし」




 自分の頭を指でトントンと叩いて、そう返すと……キョトンとした顔で、こちらを見ている彼女。




「キミの頭に、何があるっての?」



「アーティファクトのアプリだよ。レベル6のクリア報酬。それが、欲しいんでしょ?団長さんは」



「そうだけど……アプリ型のアーティファクトなんて、聞いたことないんだけど。適当なこと言ってたら、怒るからね!?」



「じゃあ、実際に見てみる?期待しているような、凄いアプリじゃないと思うけど……多分、ハズレだよ」




 そう言いながら、俺は自身の視界をオープンウィンドに設定変更して、周りからも可視化できるようにする。こうすることで、同じ画面を共有することが出来るのだ。




「ダンジョン・サーチ……これが、アーティファクトのアプリ?」



「多分ね。時間なくて、ちゃんと俺も確認できてなかったけど」




 アプリを開くと、まず最初に説明書的なテキストが表示された。ありがたい。





『ダンジョン・サーチ』

《チュートリアル》

 このアプリでは、世界中のリアルタイムで出現しているゲートの位置を一斉表示できます。更に、そのゲートの詳細(レベル・タイプ・入手できるアーティファクト)を調べることもできます。


 また、一ヶ月先までの出現予定ゲートを、事前に知ることのできる『ダンジョン予報』も実装されました。


 有効に使って、豊かな冒険者ライフを送って下さい(開発者一同より)。





「へー。思ったより、便利そうだね」



 俺の初見の感想に、同じチュートリアル画面を見ていた七海さんが、あきれたような語気で、つっこんできた。



「便利そうなんてレベルじゃない!これが、本当なら……とんでもないアーティファクトよ。これ」



「えっ?そうなの!?」



「あのね……ギルドが一番、労力をかけてるのはゲートを探すまでの行程こうていなの。それは、分かる?」



「あぁ、うん。なんとなく」




 一回だけだけどゲートを探してみて、その労力は感じた。俺は幸い【ナビゲート】のスキルがあったから早めに発見できたものの、無かったらいまだに探し回っていたかもしれない。




「まずは、ゲートの電波をキャッチして、そこへ調査隊を派遣して、ゲートを見つけられたとしても、そこからまた記憶を保持できるユニーク持ちを入れた偵察部隊に攻略させて、内部の様子を探らせる。そこから、ようやく主力部隊が万全の体制を整えて出撃するの。レベル3以上のゲートになると、これぐらい慎重になるのが普通。特に、大型ギルドはね」



「それは……確かに、入るまでが一苦労だね」



「そういうこと。でも、このアプリがあれば……その労力、時間、経費が一気に浮く。しかも、狙って有用なアーティファクトの眠るダンジョンを最短攻略できていくというオマケつき。五大ギルドのどこがが手に入れれば、たちまちギルド間の均衡きんこうが破られるくらいのバランスブレイカー。それが、このアプリなの。どれだけ凄いか、理解してくれた?」



「はい……理解しました」




 それは、ヤバい。ハズレどころか、大当たりの秘宝だったってわけか。そりゃあ、あれだけの激ムズダンジョンをクリアしたんだ。それぐらいの報酬じゃないとな……ちょっと、責任重大な気もするが。




「こんなの……尚更、団長に渡すわけにいかない」



「え?でも、お母さんの手術費用は!?」



「それも、大事だけど……これを、今の団長が手に入れたら、誰にも止められなくなってしまう。それだけは、避けないと」





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