七海アスカ・4
「はい、召し上がれ。夕飯の残りで悪いんだけど……」
「いえいえ!ありがたく、いただきます」
リビングに場所を移し、七海さんの前に余った夕飯のシチューを差し出す母親。急に、彼女に「お腹空いてない?」と聞いた時には、本当にマイペースな人だなと思った。ある意味、寛大とも言えるか。
「あいつら、どうするの?母さん」
襲ってきた傭兵部隊は、三人がかりで拘束して、いまは玄関口にふん
「知り合いに専門業者がいるから、さっき頼んでおいた。急ぎで、引き取りに来てくれるって言ってたから、安心していいわよ」
専門業者って何!?闇の掃除屋的な?そんな知り合いがいる母親の方に安心できなくなっているのだが、怖くて
すると、シチューを一口すすった七海さんがポツリと感想を
「あ……
「ホント?嬉しいわ〜。ユウトとか、そういうこと、全然、言ってくれないから。作り甲斐がなくって」
そんなこと思ってたのか。今度から、ちゃんと褒めてあげよう。怖いし。
「あの……すみませんでした。私のせいです。あいつらの狙いは、私なんです」
持っていたスプーンを一度テーブルに置いて、ペコリと母親に頭を下げる七海さん。気の強い性格かと思ったけど、礼儀はちゃんとしているようだ。
「気にしなくていいわ。特に、被害もなかったし。でも、あいつらは末端の刺客でしょう。元締めと話をつけないことには、永遠に狙われることになるんじゃない?」
「……はい。とりあえず、仲間と合流してから、対策を練りたいと思ってます。これを頂いたら、すぐに出発しますので。お世話になりました」
「そう。でも、今日はもう遅いわ。今夜は
自己紹介を済ませたぐらいで、ほとんど経緯は説明してなかったのだが、まるで全てを見透かすかのように、七海さんの顔を覗き込みながら、母は提案した。
「ありがたい話ですけど……これ以上、迷惑をおかけするわけには!」
「子供は、大人に迷惑をかけるものよ。さすがに、二度目の襲撃は今夜中には無いでしょう。素直に、英気を養っていきなさい」
「あぅ……は、はい。わかりました……ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせていただきます」
「よし、決まり!それじゃ、私のパジャマ、持ってきてあげるわね。いつまでも、ユウトのダサい私服じゃ可哀想だもの」
そう言って、いそいそと一階の自室へと戻っていく母親。さらっと息子のセンスを馬鹿にするなよ。
「良いお母さんね」
再びシチューを口にしながら、どことなく
入院中だという自分の母を思い出したのだろうか。
「まぁね。時々、大胆なことするけど」
「ふふっ……さっきのは、大胆すぎたけどね」
そんな大胆な母親が、いくつかお気に入りのパジャマを
「そういえば、二人って……やっぱり、付き合ってないの?」
「「付き合ってません!!」」
まるで、付き合ってるかのように声をシンクロさせてしまったが、残念ながら事実だった。
「あら、残念。ようやく、ユウトにも良い子が出来たのかと喜んでたのにな〜」
そういや、三浦ぐらいしか家にも連れてきたことないもんな。親からしたら、彼女どころか友達すら、ろくにいないんじゃないかと思われてても不思議ではない。
「あっ、そうだ!ユウトも、アスカちゃんに協力してあげなさい。どうせ、暇でしょ?」
「えっ?俺!?」
「困ってる女の子には、手を差し伸べる。これ、モテる男の基本よ?本当は、私も協力してあげたいところだけど、専業主婦は忙しくて……ううっ」
あからさまに、嘘泣きのフリをして、おちゃらける母親。こっちだって、一応は受験生なのだから、それなりに忙しいのだけども。
「いえいえいえ!お気持ちだけで、結構ですから。これ以上、関係ないご家族を巻き込むわけには、いきません!!」
「でも、我が家にアスカちゃんを連れ込んだのは、ユウトなわけだし〜。どっちかと言えば、こっちが巻き込まれにいった……ってほうが、正しくない?」
「え?あ〜……そうとも言えますけど、いや!でも!!」
「安心して?この子、見た目は頼りなさそうにみえるかもしれないけど、やる時はやる子だから!なんてったって、あの“植村ソウイチロウ”の血を引いてるんですから!」
そういうの自分たちから言っていくの、珍しいんだけど。まぁ、母さんの父さん好きは今に始まったことじゃないからな。
「植村ソウイチロウ……って、あの“冒険王”ですか!?」
「そう!あの“冒険王”植村ソウイチロウよ〜!!」
やめろやめろ、恥ずかしい。
でも……七海さんでも知ってるぐらい、やっぱり
「じゃあ、あなたが……あの、“軍神”植村ミツキ!?」
母親に、もっとエゲツない二つ名が付いていた件。
薄々は感じていたけど、夫婦揃って有名人だったんかい。ほぼ、知らずに冒険者を目指してる俺って……やっぱり、血は争えないのか。
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