七海アスカ・3
「じゃあ、探してるんじゃないの?ダンジョンに入って、ずっと音沙汰なかったわけでしょ。七海さん」
「ん……そうだ!私を助けてから、どれぐらいの時間が経ってる!?」
「どれぐらい?えっと、ダンジョンのある場所から戻ってきて、目を覚ますまで……ざっと、6時間ぐらいは経ってるんじゃないかな」
「6時間!?早く、ここから出ないと……お邪魔しました!」
思い立ったようにベッドから起き上がろうとする彼女を、俺は慌てて制止した。
「ちょっと、待った!その前に、まず着替え!!」
「……は?」
すると彼女は、そっと布団の中の自分の体をチラ見して、ようやく自分が俺の貸した上着一枚の姿であることを理解する。
「こ……この格好のまま、私を運んできたの!?」
「だ、大丈夫!他の人には、見られてないし!!」
「そういう問題じゃない!この変態エロ男!!」
「丁寧に着せる方が変態っぽいだろ!極力、見ないようにしたがゆえの、上着一枚なの!!とにかく、これ」
そこら辺のハンガーに掛けていた服を適当に見繕って、彼女に渡す。
「……センスない。これを、着ろと?」
「今の格好より、マシだろ?むこう向いてるから、さっさと着替えちゃってくれ」
「絶対、こっち見ないでよ?あと、鏡とか使って見ようとするのも禁止!」
「しないわ!急いでるんだったら、早くしろよな。てか、なんでそんなに、急ぎ出したんだ?突然」
ハァと小さな
「私には、GPSが仕込まれてるの。だから、団長にも私が元の世界に戻ってきたことは、伝わっているはず。つまり、ここが危ない」
「危ないって、どういうことだよ。同じギルドの上司なんだろ?」
「昔は、良い上司だった。人間としても、冒険者としても尊敬できる人物だった……でも、ある時から全く人が変わってしまったかのように、私利私欲でギルドを動かすような独裁者となっていった」
噂は、本当だったんだ。急に性格が
「じゃあ……キミを、襲ってくる可能性もある、と?」
「そう。
「そんな物騒なギルド、やめちゃえばいいのに」
「そこらのバイトじゃないんだから、そんな簡単に辞められるわけないでしょ。契約書とか……色々、大変なの!」
ガッシャーン!!
響き渡る一階からの物音に、二人に緊張感が走る。
まさか……もう、来たのか?
母さんが、危ない!
俺は、七海さんには脇目も振らず、一目散に部屋を飛び出して、一階へと駆け出した。
しかし、時すでに遅し。玄関に広がっていたのは、異様な光景だった。
「あら、ユウト。ごめんごめん、ちょっとうるさかったかしら?」
パンパンと手についた
しかし、彼女が尻に敷いていたのは、軍服を着た傭兵軍団が気絶して山積みにされた人間椅子だった。
「そ……そいつらは?」
「さぁ?急に、物騒な武器を持って不法侵入してきたから、つい。尋問する用に、一人だけ意識を残しておけば良かったわね。うっかり、うっかり」
「母さんが、倒したの?そいつら、全員……一人で!?」
「あら、言ってなかった?母さん、昔は冒険者として名を馳せていたのよ〜。父さんと、色んなダンジョンを踏破したっけ。良い思い出だわ」
父親だけじゃなく、母親まで冒険者だったんかい!
そういうことは、早く言ってよ……まぁ、親の過去に興味を持たなかった俺も俺なんだけど。
よく考えれば、両親が同じ職場で出会うなんて、普通のことか。ただ、それが冒険者だったというだけで。
それにしたって、これだけの傭兵を、ほとんど物音も立てずに短時間で制圧するって……相当な実力だぞ。
「植村くん!だいじょう……ぶ?」
すると、階段から心配になって降りてきた七海さんが、同じく意味不明な光景に言葉を失った。
それと、同時に今までの努力が水の泡となる。
「……ユウト。彼女が出来たら、ちゃんと紹介しなさいって、ずっと言ってきたわよね?」
「あ、いや……彼女じゃないです、ハイ」
「彼女でもない子が、なんで
「ちゃんと、説明するから!その前に、何とかしない?その……下の人たち」
さすがに傭兵椅子の上から、説教されるのは圧が強すぎる。目を覚まされても、面倒だからな。
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