七海アスカ・2

「誰!?あなたが、私を誘拐した犯人?」



 反射的に毛布で上半身を隠しながら、あからさまに俺へと警戒心を向ける彼女。まぁ、無理もない。下手に大声を出されなかっただけ、まだマシだった。



「誘拐してたら、もっと厳重に拘束こうそくしてるっての。助けてあげたんだから、感謝して欲しいくらいなんだけどね。俺的には」


「助けた……って、何から?」



 まさか、ダンジョンの中での記憶が失われているのか?彼女はミッションに失敗しているはずなのだから、ありえる話だ。だとすると、厄介だが。



「ダンジョンの番人から。ザガンって奴、覚えてない?」


「ザガン……聞き覚えは、ある気がしないでもないけど。よく、思い出せない」



 まだ記憶が曖昧なようだ。これが一時的なものならば良いのだが、ミッション失敗のペナルティーだったら、思い出せる確率は低くなる。



「じゃあ、名前は?さすがに、自分が誰かぐらいは忘れてないよね」


「それぐらい、覚えてる。七海ななみアスカ……それが、私の名前」


七海ななみアスカ……」




【虚飾】が、【鑑定】rank100に代わりました



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 七海ななみアスカ

 15歳(女)日本出身

「漆黒の鎌」所属 C級冒険者

 身体能力 D+


 スキル

【魅惑】rank77

【目星】rank70

【聞き耳】rank68

【図書館】rank65

【手さばき】rank56

【変装】rank46


 ユニークスキル【七変化】rank ー


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 念の為、【鑑定】で確認してみたところ、どうやら嘘はついてないようだ。「漆黒の鎌」って……確か、五大ギルドの一角だったような気がする。



「もしかして……私の情報、勝手に見てる?」


「えっ!?いやいやいや!」



 ジロジロと見過ぎてしまったか?冒険者が相手だと、堂々と【鑑定】や【目星】を使ってしまうと、すぐにバレてしまうのかもしれない。今後は、気をつけないと。



「キミ……分かりやすすぎ。で、何が分かった?」



 この年齢でC級冒険者なだけあって、さすがに鋭い。いや、レベル6ダンジョンに挑んでいたことを踏まえると、もっと実力は上と考えて良いだろう。

 俺は、素直に質問に答えることにした。



「『漆黒の鎌』の冒険者……C級で、合ってる?」


「……正解。かなり、高い【鑑定】スキルを持ってるのね。“植村ユウト”くん?」



 ふとフルネームを呼ばれて、ビクッとなる。知らぬ間に、こちらの情報も見られていたということか。

 寝ぼけてるかと思っていたのに、とんでもない曲者くせものである。



「そっちこそ。でも、これで俺が怪しい奴じゃないってことは、信じてもらえた?」


「それは、まだ。【目星】じゃ、性格まで分からないからね。信じてもらいたかったら、私を助けた経緯をもう一度、詳しく聞かせてくれないかな」



 なぜに、助けられた方が上から目線なのだ……と、不満に思うところはあったが、ぐっと飲み込んで、俺は仕方なく、順を追って、今までに至る経緯を丁寧に説明した。





「待って。裸で、縛られてた……って、言った?今」


「……は、はい。言いました」


「じ、じゃあ……見たの?キミも。その……私の」



 身体をわなわなと震えさせながら、こちらをにらみつけてくる七海さん。色々、引っ掛かるところはあるだろうに、まずはなのか、やっぱり……。




「正直に、不可抗力で見えたところはある……けど!なるべく、見ないように努力はした!!」


「嘘つけ!思春期真っ盛りの男が、こんな可愛い子のハダカ見て、我慢できるわけないだろ!!」



 確かに可愛いけど、なんちゅう自己肯定感の高さ。言われた通り、一周目の人生だったら理性をたもててなかったかもしれない。



「本当だってば!そんなことより、他に気になるところあるだろ!?」


?乙女が、見ず知らずの男から、寝ている間に色々と身体にイタズラされたことが……!?」


「だから、イタズラしてねーっつの!したとしたら、そのザガンって奴だろ!!王級のクリーチャー」


「……それも、怪しいのよね。王級といったら、クリーチャーの中でも最上位に位置する最強クラス。普通なら、ギルド規模で戦うか、精鋭を選りすぐって特別なチーム編成でもしない限り、勝てないようなレベルなはず。本当に、キミが一人で倒したの?」



 そうだったのか。確かに、バケモノ級だなとは思っていたけど、やっぱりソロで挑むような奴じゃなかったんだな。そもそも、あのダンジョン自体がソロ仕様だったわけだけども。



「それも、本当だってば。そっちこそ、なんでそんな危険なダンジョンと分かってて、わざわざ挑んだんだ?秘宝のため?それとも、自分の実力を試したかったとか」


「……そんなんじゃない。母さんの為よ」




 急に、深刻な顔になり、うつむく七海さん。




「七海さんの、お母さん……?」


「そう。母さんは原因不明の病にかかってて、今は病院で寝たきりなんだけど。延命治療をするのにも、お金が必要なの」


「その、お金の為にダンジョンに?」


「うちの団長が、あのダンジョンをクリアできたら、今後、母親の治療費を全て、ギルドで負担するって約束してくれたの。その言葉に、釣られて……ね」



【漆黒の鎌】……か。何か、よくない噂があるとか何とか、ライアン先生が言ってたような気がする。


 その団長、信用していい人物なのだろうか?







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