白のゲート・7

 ミッション クリア



「見事なり……ニンゲンの子よ」



 半壊した全身からバチバチと電流が起こり、ぐったりと壁にもたれかかって、座り込んでいるザガン。ショートしている?機械生命体なのだろうか。


 もはや、まともに動くことも出来ないのか、完全に戦意を喪失しているようだった。




「……アンタらは、何なんだ?何の為に、ここを守ってる?」


「……その答えは、72体。全ての番人を倒すことが出来れば、おのずと分かる時が来るだろう。せいぜい、頑張ることだ」




 72体の番人……それら全てを倒せば、黒幕っぽいが、姿を現すってことか?




「受け取れ、ニンゲン。貴様が真実を求めるというのならば……この秘宝が、導いてくれることだろう」



 奴は、手の平から【波動】とは、また違うフワフワとした光の球体を、こちらに向けて飛ばしてきた。

 一瞬、攻撃かと構えたが、ミッション・クリアの表示は出てる。安心して良いだろう。


 すると、その光は、俺のひたいの中へとスゥッと入っていき……次の瞬間。




 新しいアプリがインストールされました


 NEW: ダンジョン・サーチ




 アプリ!?これが、アーティファクト?


 なんか、思ってたのと違うし、なんなんだ?このアプリは。これだけ苦労したのだから、もっとトンデモアイテムが手に入るかと期待したのに、どうやらハズレを引いてしまったようだ。



 シュワシュワシュワ……




 俺に謎のアプリをさずけると、ザガンは光の泡となって、空に霧散むさんしていった。


 そして、空席となった玉座の椅子に、ここへ来た時と同じような光の扉が出現した。


 おそらく、あれが出口だろう。良かった、ようやく元の世界へ戻れる。そして、扉が現れると同時に、壁から生え出ていたいばらつたもボトボトと崩れ落ちた。




 ドサッ!



 自然と、そのつたによって支えられていた、裸の女子も拘束こうそくから解放される。すっかり彼女の存在を忘れてた俺は、慌てて駆け寄ると、ゆっくりとだが呼吸をしているのが分かった。


 生きてる!奴の言ってたことを信じるなら、この子は、以前にザガンと戦って敗れた冒険者ということで合ってるはずだ。


 助けなくては……!!



 その前に、厄介なことがある。彼女がということだ。このまま連れ帰って、もし誰かに見られでもしたら、冒険者どころか犯罪者としての未来が待っている。



 俺は急ぎ、自分の上着を着せて、とりあえずの応急処置をほどこした。色々と問題は残っているが、いつまで出口が開いているかも分からない。まずは、無事に脱出するのが最優先である。



 まだ眠ったままの彼女を、お姫様抱っこで持ち上げて、脱出の意思を固めると、後ろからさみしそうな顔で「クゥ〜ン」と鳴くマルコシアスの姿が見えた。



 ザガンが消えたら、このダンジョンはどうなるんだろうか?自分たちが脱出したら、ここも消えてなくなってしまうかもしれない。そう考えたら、とてもじゃないが命の恩人を置いていく判断は、俺には出来なかった。



「……お前も、来い!マルコシアス!!」



 すると、マルコは眼を輝かせて、「バウッ」と元気に吠えると、俺の後を追って、扉をくぐった。



 こうなりゃ、一つや二つ問題が増えたところで、変わりはしない。とにかく、戻ってから考える!




 キイイイイイイン




 視界が真っ暗になり、次に映し出されたのは俺が三浦と来た廃ビルの入口だった。若干、入った扉の場所とは違う場所になっているのは仕様なのだろうか?


 空を見ると、まだ暗くはなってなかったが、場所が場所だからか、さいわいにも周囲に人影らしきものは見当たらなかった。


 俺の乗ってきたホバークラフトも、ちゃんと置いてあって、何やら座席にメモが残されている。



『なんか入れなかったので、先に帰る。健闘を祈る!レイジ』



 それは三浦の置き手紙だった。元はと言えば、コイツが全ての元凶にも関わらず、あっさりと帰りやがった事実に、多少は腹が立ったものの、奴の薄情な性格は今に始まったことじゃない。


 とりあえず、今は問題を一つずつ解決していく方が先だ。まず、でっかいオオカミくん問題。



「ワン!」



 ちょうど良いサイズの、シベリアンハスキーになってる。問題なし!



「……って、ええええ!?」



 マルコシアスと思われる巨大な狼が、いつの間にか良くて大型犬サイズのシベリアンハスキー化してくれていたのだ。こっちが真の姿なのか、あっちが真の姿なのか、なんで姿が変わったのかなどなど、色々と疑問は浮かんだものの、とりあえずラッキーとポジティブに受け止める。では、解決!



 次に、謎の美少女問題。



 見たところ、外傷は無さそうだが、病院に連れて行った方が良いのか?迷子として、警察に届け出る?


 いや、どうやって説明する?レベル6のダンジョンで、クリーチャーに捕まっていたと素直に言うのか?信じてもらえる気がしない。

 かといって、適当な嘘をついてしまえば、バレた時に厄介なことになりそうだし。



 仕方ない……目を覚ましてくれるまで、うちで介抱するか。



 俺は、後ろの席に彼女を乗せると、周りからは二人乗りしてる感じに見えるよう、着せていた服の両袖口りょうそでぐちを自分の腰辺りで落ちないよう、しっかりと結びつけた。



「おいで、マルコ」



 呼びかけに、すぐさま答えて駆け寄ってくる愛らしい犬。今さらだが、rank100の【動物使い】だと、一回の使用で効果が永続的に続いてくれるようになるらしい。



「ワンッ!」



 かくして、足の間に大型犬、背中に気を失った美少女を乗せて、俺の愛車は走り出した。




【虚飾】が、【隠密】rank100に代わりました




 とりあえず、目立たなくなる保険は掛けておこうっと。




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