白のゲート・6

 ダッダッダッダッ!


「アオオオオオン!!」



 ドンッ!!


「ぐおっ!?」


 雄叫おたけびを上げながら駆けてきて、横からザガンに強烈な体当たりを浴びせたのは、マルコシアスだった。


 本能の恐怖心にあらがってまで、俺の窮地きゅうちを救ってくれたのだ。


 その一撃により、敵の大技はキャンセルされ、俺の金縛りも解ける。まさに、九死に一生を得た感じである。



「おのれ、駄犬だけんが……大人しく、震え上がっていれば良いものを!!」



 グンッ!!



 怒りのザガンが【念動】で、マルコシアスを捕縛すると、宙に浮かび上がらせ、まるで雑巾ぞうきんを絞るかのように、その体をねじらせていく。



「クウ……ゥ……ン」



 息も絶え絶えといった感じで、か細い声で鳴くマルコの姿を見せられて、たまらず俺は叫んだ。



「やめろ!お前の相手は、俺だろう?さぁ……もう一度、さっきの技を撃ってこい!!」



「ふっ。せっかく、延命できたというのに……よかろう。そこまで死に急ぎたいなら、その安い挑発に乗ってやろうではないか!」



 ドサッ



 マルコにかけていた【念動】を解くと、再び奴は、両手の中心に【波動】のかたまりめ始めた。



 良かった、かろうじてマルコも息があるみたいだ。



 ついさっき知り合ったばかりの仲間の安否を確認して、俺もまた最後の大博打おおばくちの準備に取り掛かる。



 とっくに『グランドマスター・モード』の制限時間は切れていた。俺に残された切り札は、もうしかなかった。


 しかし、を使うには多少の時間が必要だ。だからこそ、あえて奴に大技を使うよう挑発した。幸い、相手の大技も溜め時間を必要とするようだ。


 あとは向こうの大技か、こちらの奥の手か……単純な力勝負に持ち込むしかない。正直、ヒトが破れるような技ではないとは予感しつつも、俺は【虚飾】の潜在能力に賭けてみようと決めた。



【虚飾】は、【ヒプノーシス】rank100に代わりました



「自己暗示:一撃強化……」



 まずは自身に強い暗示をかけ、次に放つ一撃の威力を増幅させる。普段、眠っていると言われているニンゲンの潜在能力を目覚めさせ、右腕にパワーを集中させていく。



「我が一撃は、巨人の如く……全ての壁を、打ち砕く。我が一撃は、巨人の如く……全ての闇を、討ち払う。我が一撃は、巨人の如く……死の運命さだめさえ、くつがえす!」



 自己暗示で大事なことは、だ。俺は、わざと大仰おおぎょう文言もんごんを口にして、自分がヒーローになったかのように、その雰囲気にのめり込む。


 その効果は覿面てきめんだった。言葉を発せば、発するほどに右腕に力が込められていくのが分かる。練習で、何度か試したことはあったが、今回は異常なほどに熱が上がっている感覚があった。

 もしかして、ダンジョン内では特別な威力が発揮されたりするのだろうか?だとすれば……!




「まさか、貴様……真っ向から、我の“波動砲”を受けるつもりか?どこまでも、愉快なニンゲンよ。ならば、その身に喰らうがよい!ザガン最大最強の一撃を!!」



 奴も大砲を発射する準備が、完了したようだ。


 俺は、熱を帯びた右拳を構えながら、敵のもとへ駆け出した。



一撃必殺ワンショット・ワンキル……」



 キイイイイイン……



「喰らえ!波動砲ッ!!」



 ドゴオオオオオオオン!!!



【虚飾】が、【こぶし】rank100に代わりました



 ザガンの両手から撃ち出された特大の波動球に、必殺の右拳を叩きつけて、動きを止める。



 バチバチバチバチッ!!



 力は拮抗きっこうしていて、どちらかが少しでも力を緩めれば一気に持っていかれそうな雰囲気があった。



「ぐっ……なめるなよ?ニンゲンごときがぁッ!!」



 一瞬、奴の目を見そうになるが、すぐさま先程の失敗を思い出し、視線をらす。ここで、また金縛りにでもあってしまえば、マルコシアスに合わせる顔がないというものだ。


 金縛りが効かないとみるや、すぐにザガンは違う戦術に切り替える。



 グンッ!



 波動球の勢いがグッと上昇し、ジリジリと俺の右拳がされていく。【念動】を使って、むりくり波動球を押し込んでいるのだ。


 ここまで、拮抗きっこうできるとは思っていなかった。下手すれば、接触した時点で右腕が消し飛ぶという最悪のケースも想定していた。だが、ダンジョンの恩恵もあるのか、俺の必殺の一撃は予想を遥かに上回る力を発揮してくれた。


 ここまでやれたのなら、勝ちたいという欲が湧いてきてしまう。このまま、押し負けたくない。



 そんな俺の思いが通じたのか、ザガンに異変が起こり始める。



 がくんっ!



「な……なんだ?急に、身体が重く……何が、起こったのだ!?」



 ……ようやく、来た。



 俺が何十発も、敵の内部に浸透させてきた“絶対防御陣イージス”のダメージが、今頃になってやっと効果として表れてくれたのだ。

 あの小さな積み重ねは、じわじわとだが確実に敵の内部を侵食しんしょくしていた。



 途端に弱まった波動砲の勢いを、そのまま押し返しつつ、敵の喉元のどもとまで一気に詰め寄っていく。



「や……やめろ!来るなァあああ!!」



 蓄積されたダメージで、奴は【瞬間移動】も出来ないらしい。きっとここが、最初で最後の勝機。


 俺は、敵の波動ごと、その一撃必殺の拳を奴の身体めがけて、振り抜いた。




「……巨人拳ギガン・インパクト!!!!!」




 ドゴオオオオオオオオオオン!!!





 お望み通り、俺は巨人の如き一撃で、ザガンを打倒してやった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る