白のゲート・4

 そこは、いわゆる城にある玉座の間を思わせる造りになっていた。しかし、今回は敵の気配は無い。


 ゆっくりと中を進んでいくと、三層の壇を挟んで一つだけ置かれた玉座に、誰かが座っているのが分かった。椅子は向こう側を向いており、その姿までは視認できない。


 それよりも気になったのが、その玉座の後ろに置かれていたオブジェクトだった。


 華奢で美しい裸の女性がいばらつたでぐるぐる巻きにされ、壁にはりつけにされていたのだ。


 まるで、本物の人間のように精巧なオブジェクトだった……いや、本当にオブジェクトなのか?




「……来たか。新たなニンゲンよ」



「!?」



 無機質だが、どこか迫力のある声が玉座から響く。

 クリーチャーと会話が出来るなんて記実きじつも、聞いたことがない。やはり、どこまでもイレギュラーなダンジョンだ。



 ゆっくりと玉座が回転して、そこに座っていた声の主が姿を現す。



 そいつは、全身が濃いピンクのエネルギーで構成されていて、それでいながら人間のような筋肉隆々なフォルムを作り出していた。こめかみ部分から、バッファローのような二本のつのを生やしているのが、特徴的な部分だろうか。




 ザガン

 人型・王級クリーチャー




 もう次の扉は見当たらない、恐らくはコイツが秘宝の番人だろう。異様なプレッシャーも、このフィールドの雰囲気も、ラストボスらしさを演出している。



【虚飾】が、【鑑定】rank100に代わりました




 ザガン

 身体能力 SS

 精神耐性 S

【特性】

 光線

 波動

 念動

 瞬間移動

 自己再生



 試しに【鑑定】してみたが、やはり人間とは色々と表示が違うな。ただ分かるのは、とにかく色々とってことぐらいか。


 でも、こっちにもヤバい援軍が一匹いる。



 期待を込めて、振り向くと……そこには、さっきまで無双していた面影はどこへやら、入口付近で震えながら固まっているマルコシアスの姿があった。



 まさか、おびえているのか?



 その答えは、敵自ら教えてくれた。



「どうやって、マルコシアスを手懐てなずけたかは知らぬが、期待せんほうがよいぞ。上の階級の者には、本能的に逆らえないよう、造られているからな」


「造られた……誰に?」


「……そんなことより、自分の身を案じたらどうだ?お前は、もうすぐわれの手によってほふられるのだからな」


「……!」



 残り時間は、40分弱……時間は、十分にある。

 全てを出し尽くしてでも、必ず勝つ!!



 おごそかに玉座から立ち上がるザガン。

 その体躯はゆうに2メートルは超えているだろう。



「ここまで到達できたことは、褒めてつかわす。が玉座まで来れたのは、貴様キサマで二人目だ」


「二人目……?」



 まさかと思い、俺は自然と玉座の後ろにいる女性の姿を注視してしまう。その視線に気付いたのか、したり顔でザガンが答えた。




「そうだ……そこの女が、一人目だ。ここで我に敗北して、コレクションに加えてやった。貴様も、その隣に飾ってやろう。並べるには、少々美しさに欠けるがな」




 どうでもいいけど、めちゃくちゃ喋るな、コイツ。

 そんなことより、今のが本当だとしたら、ここで負けたら元の世界には戻れない……って、ことか?


 じゃあ、あの子は負けてから、ずっとここにとらわれてるのか!?そもそも、まだ生きているのかすら分からない。可能なら、助けてあげたいところだけど……。



「……さぁ、見せてみよ。貴様の実力とやらを」




 檀を降りながら、こちらに向けて人差し指を向けてくるザガン。その指先に、光が集まっていく。



 ……【光線】か!?



 ビイイイッ!!!



 予想通り、指先から放たれた一閃の光をギリギリで回避すると、その光線は地面ごとマルコシアスのいる壁の方まで切り裂いていく。



「よい反応だ。それ、踊れ踊れ」



 次々に第二・第三の光線を発射してくるザガン。無尽蔵に撃てるパターンだとしたら、このままの距離で戦うのはマズい。



 自動回避を駆使して、レーザーをくぐりながら敵将に接近していく。



「ほう、身軽な奴よ。ならば、これはどうだ?」



 ぐんっ!



「……っ!?」



 こちらに対しててのひらを広げてくる敵に対して、俺の身体が勝手に反応して、大きく横っ飛びする。



 ギャギャギャギャ!!



 すると、さっきまで俺のいた場所が何か見えない巨大な手によって握り潰されるかのように、えぐり取られた。



 これは……【念動】か?危なかった。

 不可視の攻撃に対しても、回避を発動してくれるとは、本当に優秀な自動発動パッシブである。



「はっ!?」


「……油断するなよ?ニンゲン!!」



 そんな俺へ、まさかの奴が自ら飛び込んできた。

 ジャンプしながら振り落としてきた拳を、紙一重でわすと、そのままザガンは地面にパンチを叩き付ける。



 ズドオオオオオオオオン!!!




「うおっ!?」



 まるで隕石が落ちたクレーターのように、辺り一帯を、その一撃で陥没させてしまったのだ。



「ちょうどいい。ここが、我と貴様の特設リングだ」



 確かに、コイツはバケモノ中のバケモノだ。


 だが、コイツのフォルムが人型ひとがたなのは不幸中の幸いだった。同じ人の形をしてくれているのならば、俺の武術は少なからず効果を発揮できるはずだ。



 ザガンの身体に、何点か赤い点が浮かんでいる。


 これは【鑑定】によって判明した、コイツの急所にあたる部分だ。丁寧にマーキングしてくれていたのは、ありがたい仕様だった。


 つまり、コイツにも急所は存在する。それが、人間と同じような構造かは分からないが、上手く利用できれば、ダメージを与えることが出来るはずだ。



「……グランドマスター・モード!!」



【虚飾】は、【近接戦闘(格闘)】rank100に代わりました




 俺は、この日……はじめて、実戦でグランドマスターモードを解禁した。





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