白のゲート・3

 第二の門をくぐると、静かに直立していた機械兵たちの目に当たる部分が赤く光り輝く。そして、規律正しく一斉に武器を構え始めた。


 魔獣のようなクリーチャーがいたと思えば、今度はアンドロイド軍団とは。本当に、このダンジョンというシステムは、誰が何の為に作ったのか謎が深まっていくばかりだ。


 とりあえず、その答えを知るには、このピンチを生きて乗り越えなければならないわけだが……。



「うおっ!?」



 その時、突然、誰かに襟首をつままれて、まるで紙クズのように軽々と宙に放り出されると、そのまま綺麗に“ふかふかの何か”にまたがってしまう。



「お前……ついてきたのか!?」



 その“ふかふか”の正体は、マルコシアスの背中だった。こいつが自ら、俺の襟首をくわえて、自分の背中に乗せたのだ。



「バウッ!!」



「もしかして……この先も、一緒に戦ってくれるのか?」



「アオ〜ン!!!」



 犬語……もとい、狼語。いいや、クリーチャー語は分からなかったが、俺を乗せたと言うことは、そういうことなのだろう。


 てっきり、あのエリアからは出られない仕様なのかと思っていたが、協力してくれるということなら、これほど心強い助っ人はいなかった。



 安堵してるのも束の間、そんな俺らに向かって、機械兵が放つボウガンの矢が無数に飛んでくる。ホントに、飛び道具が好きなダンジョンだ。



「マルコ!避けろ!!」



 俺の呼び掛けに反応して、すぐさま、びょんっと宙にジャンプするマルコシアス。その跳躍力は、先ほどの【跳躍】rank100よりも体感的に高く感じた。


 しかし、話せこそしないものの、この子の知能指数は相当に高い。少なくとも、こちらの言うことは、ちゃんと理解して実行に移している。



 ドンッ!!



 着地しただけで、何十体かの機械兵たちが踏み潰され、吹き飛ばされていく。これなら……いける!



「マルコ……蹴散らせ!!」



「アオーーーーン!!!」



 天に向かって吼えたマルコシアスは、そのまま大きく息を吸い込むと、次の瞬間……。



 ゴオオオオオオオオッ!!!



 激しい炎のブレスに変えて、周囲にいた機械兵たちを燃やし尽くしていく。


 こんな大技まで、持っていたとは。もし、【動物使い】が効かなかったら、俺も下にいる機械兵たちと同じ末路を辿たどっていたのかもしれない。



 ドスッ!ドスッ!!



 しかし、四方八方を囲む機械兵は恐怖に逃げ惑うということはしない。なぜならば、機械に感情は無いからだ。生き残った者は、その場で手を休めることなく攻撃を続行する。


 巨体のマルコシアスは、格好の的だ。大したダメージではないだろうが、所々に矢が刺さったり、槍を突かれたりして、少なからず傷を負っていく。



「オオオオオオン!!!」



 その痛みを振り払うかのように、ピョンピョンと跳ね回りながら、時には爪で、時には牙で、機械兵軍団の頭数を減らしていくマルコシアス。


 俺は、その背中に振り落とされないように、背中の毛をガッシリ掴んで、しがみつくのに必死だった。



 そんな中、最奥から何か大きな台車を運んでくる兵士の一角を発見する。


 それは大型のボウガン……弩弓バリスタだと、すぐに分かった。さすがに、あれほどの一矢を喰らってしまえば、無双の大狼たいろうとて無事では済まないだろう。しかし、マルコシアスは周囲に群がる雑兵ぞうひょう露払つゆはらいで手一杯だ。


 俺が、何とかしなくては。


 とは、言ったものの。この状況で、マルコの背中から降りてしまうのは危険すぎる。この場所から、対処できる方法は……。



 すると、おあつらえ向きに俺の眼前に、“機械兵の槍”が大狼たいろうの攻撃によって、吹き飛ばされてきてくれた。手を伸ばし、それを何とかキャッチすることにも成功する。


 あとは、を……!!



 まるで、いかりのような巨大矢をセッティングしている弩弓バリスタへ向かって、俺は狙いを定めた。



【虚飾】が、【投擲】rank100に代わりました



 ぶんっ!!


 ガシャアアアアン!!!



 タイミングを見計らって放たれた一閃の槍は、見事にバリスタへと命中し、その機構を破壊した。



「よっしゃ!命中!!」



 俺の見せ場は、それぐらいだった。


 あとはマルコシアスによる大立ち回りを、背中から見守ることしか出来なかった。それでも、みるみるうちに機械兵軍団の数は減らされていき、最終的には全滅させるまで頑張ってくれた。



 ギイイイイイ……



 第三の扉が開く。それはつまり、このエリアに敵はいなくなったことを示していた。



「よくやってくれた、マルコ。もう、降ろしてくれていいぞ」



 素直に、こうべれて、俺が降りやすくする為の滑り台を作ってくれるマルコシアス。本当に、頭の良い子だ。サイズが手頃なら、持って帰ってペットにしたいぐらいだが、さすがにこの大きさじゃ街中まちじゅうがパニックに陥ってしまうだろう。そもそも、オオカミだし。



 もはや、がらくたと化した機械兵の残骸を踏み越えながら、次なる扉の前へと進む。



 さくさくと進んだ感はあるが、正直言って運が良かった。

 もし、第二エリアで機械兵軍団が待ち構えていた場合、俺だけではクリアできたとしても、かなりの時間と体力を消耗していたはずだ。実力的には、マルコシアスが第三エリアの番人だったとしても、何の違和感もない。


 わざと、強めのボスを先に配置しておいて、後の対軍戦をハードにしようという思惑だったのだろうか?何にせよ、それが俺にとっては好都合に働いてくれた。


 ほぼマルコの背中にいたおかげで、体力は回復したし、第二・第三エリアで大幅に時間短縮できただろう。願わくば、次が最深部であってほしい。


 時間制限がある以上、そこまで多くの部屋は用意されてないはずだ。正攻法で戦えば、この時点で相当なタイムロスをしてる算段のはず、この扉の先が最終エリアである可能性は、低くないだろう。




 ……扉が開き切ると、次のエリアの全貌が明らかとなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る