白のゲート・2

 矢が命中する瞬間、自然と身体が動いて、ねじりながら回避行動を取る。まるで体操選手の演技のように、アクロバットな跳躍で全ての射撃を避けてくれたのだ。


 しかし、想定外の事態が発生する。


 ド派手な動きをとったことで、飛距離が縮小してしまい、目測だが着地地点までギリギリのジャンプになってしまった。だが、最後の最後でミスするわけにはいかない。意地でも、着地してやる!



「おおおおおっ!!」



 むりくり、身体を前傾させ本当にギリギリ、残っていた足場の先端に爪先つまさきを着かせることに成功したが……。



 ガラガラッ



 無惨にも、俺の全体重が掛かってしまったせいか、その足場の先端さえも崩れ落ちてしまう。



「うおっ!?」



 ガシィッ!!



 そのまま、マグマの中へ落とされるところを間一髪、両手で崖先がけさきを掴み、ぶら下がった状態で一命を取り留めた。



【虚飾】が、【登攀とうはん】rank100に代わりました



「ぬおおおおおっ!!」



 俺は強化された把持力はじりょくで、一気に崖を登り切り、無事に全身を安全地帯に置くことに成功する。



「はぁ……はぁ……助かった」



 一瞬だけしか持続効果のない【登攀とうはん】(クライミング)スキルなんて、どういう時に使うのだと思っていたが、なるほど。こういう時か。


 あれだけ走らされて、避けさせられて、体力も一気に消耗していた。このスキルが無かったら、あのまま力尽きて溶岩に溶け込んでいたところだろう。



 ギイイイイイ……



 すると、休む間もなくゴールにあった扉が開く。

 まぁ、時間制限があるので仕方ないっちゃ仕方ないが、同じようなコースが待っているなら、ほぼ“詰み”は確定だ。


 俺の【虚飾】のスキル代替は、ほとんどのものにクールタイムが存在する。既に使用してしまったスキルは、しばらく使用することが出来ない。


 今と同じタイプのエリアだったら、もう同じ戦法は使えないということになる。恐る恐る、開いた扉の先を見ると、そこにいたのは……大型トラックほどの巨躯きょくをしたおおかみの姿だった。



 マルコシアス

 動物型・侯爵こうしゃく級クリーチャー



 ご丁寧に、テキストで自己紹介を表示してくれている。侯爵級というのが、どれほどのランクかは分からなかったが、今は調べてる余裕は無い。



「グルルルルルル……」



 鼻から口から、白い息が出ているのが分かる。かなり、興奮状態にあるようだ。一歩でも、テリトリーに入れば、すぐに襲ってきそうな雰囲気である。




 こいつが、秘宝の番人か?いや、奴の後ろにも“扉”が見える。おそらく、コイツは中ボス的な位置のクリーチャーなのだろう。風格は、ラスボスくらいのものがあるが。


 アトラクションエリアでないことは助かったが、これはこれで困った。【近接戦闘】スキルは、大ボス用に取っておきたい。と、なると……コイツは、他のスキルを駆使して、何とか退治しなければならない。


 しかし、はじめてのダンジョンが複合型とは。次は謎解きエリアとか、やめてくれよ?

 そんなことより、今は目先の狼退治が問題か。




 俺は何個か使えそうなスキルを頭で選別しながら、獣のおりと化した第二エリアに一歩、足を踏み入れる。



「ウオオオオオオオン!!!」



 その瞬間、けたたましい雄叫びで周囲の空間を震撼させ、一直線に俺の方へ向かってクリーチャーが駆け出してきた。これが飼い犬だったら、最高に愛おしいシチュエーションなのだが、今の状況はホラー映画のワンシーンさながらの迫力がある。



 まずは、このスキルを試してみよう。多分、通用しないと思うが、コイツが“動物型”のクリーチャーだというのなら、ワンチャン……。



【虚飾】が、【動物使い】rank100に代わりました



「おすわり!!」



 びたっ!!



 右手の掌を突き出し俺が叫ぶと、クリーチャーは急ブレーキをかけて、立ち止まった。




 ど、どうなんだ?効いてるのか!?

 いきなり、また襲ってくるとかは勘弁なのだが。



「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……」



 すると、急に大きなベロを出し、尻尾をブンブンと振り始めたマルコシアスは、俺の言う通り“おすわり”をしてくれた。


 まさかの、【動物使い】作戦は成功したらしい。



「よ、よーしよしよしよし」



 そっと、手の届く腹のあたりの毛を撫でてやると、「バウッ」と一鳴ひとなきして、俺の身体を舐め回してくるオオカミ……いや、もはや巨大ワンコ。


 全身がビチョビチョになるということよりも、間違って噛まれないかという心配の方が勝った。それに、時間もある。俺は、早々にワンコから離れて先を目指すと、徐々に次の扉が開いていくではないか。


 良かった。これでも、“クリアした”と判定してくれたらしい。怪物クリーチャーとはいえ、戦意を失った動物を手に掛けるのは、躊躇ためらいがあるからな。



 ギイイイイイ……



 とにかく、このエリアで時間は稼げただろう。これで、次が謎解きエリアだとしても、多少は時間を掛けて攻略ができるはずだ。


 ……しかし、俺の予想は外れた。



 扉の先で待っていたのは、規則正しく隊列をなした人型の機械兵軍団。幸い、手にしている武器は槍やクロスボウなど、古典的なものっぽかったが、何せ厄介なのは、この数だ。


 もし、こいつら全てが敵だと想定した場合、俺の手持ちのスキルで、この大軍に通用しそうなものが見当たらない。【近接戦闘】を解禁したとしても、相当なオーバーペースで戦う必要があるし、そもそも機械相手では格闘術の本領が発揮されないのだ。



 さぁ、どうする……?








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