白のゲート・1

 ゲートの中に入ると、目の前には長い一本道が、遠くに見える扉まで続いており、俺が来た瞬間、道の脇に等間隔に並べられていた松明たいまつの火が、手前からともっていく。


 その火の灯りで、今ある場所の全貌が明らかになると、そこは全体が白で統一された迷宮のような内装だった。側面の両壁には弓をつがえた悪魔の石像らしきオブジェクトが、これもまた等間隔に設置られていて、なんとも不気味だ。


 ボコボコッという奇妙な音に、少し前に出て下を覗き見ると、一本道の下は沸き立つマグマが広がっていた。道は橋のような役割をしているのだろうが、手すりや安全柵あんぜんさくなどは無く、一歩でも踏み外せばゲームオーバーというわけだ。




 もしかして、アスレチックミッションか?


 だとしたら、俺にとっては最悪の展開だ。残念ながら基本スキルに、俊足になれるものは存在しない。つまり、俺の唯一の武器である【虚飾】が通用しないことになる。


 走り込みや、基礎的な筋トレは続けているが、それでも足の速さは、良くて中の上といった感じだ。



 そんなことを考えてると、宙に衝撃のメッセージが表示される。





 LV:6 純白のダンジョン

 ミッション

 60分以内に単独で最深部へ到達し、秘宝の番人を撃破せよ。




「……は?」



 レベル“6”!?何度も見直したが、やはり“1”ではなく“6”だ。そもそも、ゲートは5つまでと聞いていたが、どういうことだ?


 それに、やっぱり“白”だったじゃねーか!三浦の野郎……そうだ、三浦は?


 まさか、ってそういうことか!?


 待て待て待て!ただでさえ、未知のLV6をソロで攻略しろと?ハードモードすぎるだろ!!


 いや、だから、レベル“6”なのか……。




 60:00

 59:59

 59:58

 59:



 やばい!カウントダウンが、始まってる!!


 ごちゃごちゃ、考えてる暇は無い。


 俺は急ぎ、目の前にある一本道を走って渡り始めた。



 ダッダッダッ



 とにかく、遠方に見える扉を目指そう。あそこしか行ける場所は無さそうだし。



「はっ……はっ……」



 結構、距離はあるが60分以内なら余裕で着きそうだ。まさか、あそこが最深部だというなら拍子抜けだが、何か他の罠でも用意しているのだろうか?


 一本道は、それほど狭くなく、 三人分の横幅ぐらいはあった為、いくら下がマグマといっても、高所による恐怖や、落ちたら終わりという恐怖は、それほど感じなかった。もちろん、【精神分析】の恩恵もあるのかもしれないが。




 ギギギギギ……



 妙な駆動音が聞こえ、ふと周囲に視線を向けてみると、何やら石像の悪魔が持っていた弓を引き絞っている。


 そもそも、石像が動くなよ!

 けど、この流れって……やっぱり、来るよな。



 ビュンッ!ビュンッ!!



 予想通り、石像ガーゴイルの放った矢は、俺に向かって雨の如く、降り注いできた。




 ドドドドドドドッ



 矢自体は、自動回避でわすことが出来たが、回避行動を取ることによって、バランスを崩してしまうことと、道に突き刺さった矢が障害物となることによって、走行のさまたげになってしまうことが厄介だった。



 がらがらがらがらっ



 また、異質な音が今度は後ろから響く。次は、何のトラップかと矢の間隙かんげきを縫って、背後をチラ見すると、道が入口地点から徐々に崩壊していくのが見えた。



「なっ!?」



 道は、結構な勢いで崩れていく。俺は、走るスピードのギアを上げて、スパートをかけた。


 ちんたら走っていたら、あの崩壊に巻き込まれて、道の瓦礫がれきともども、マグマの中に落とされてしまう。




 ビュンッ!ビュンッ!!




 すると、再び降ってくる矢の雨。石像たちは、素早く第二の矢を装填そうてんしていたのだ。この様子だと、ゴールするまでエンドレスで撃ってくるに違いない。


 やばい。これでまたタイムロスしてる間に、道の崩壊に追いつかれてしまいそうだ。やはり、このダンジョンは俺とは相性が悪かったのかもしれない。例え、ここで落ちても元に戻れるのだ。スパッとあきらめて、また次の機会を待つのも……。



 ……本当に、そうか?



 なにせ、ここは前例のないレベル“6”。今まで通りのルールが適用される保証はない。もし、ここでの“死”は、現実世界での“死”とも直結していたら?


 そんなのは、いやだ!


 お前は、ベストを尽くしたか?


 いや、まだだ!!


 何の為に、今まで青春を捧げてまで、ユニークスキルを磨いてきたんだ?こういう時の為だろう!?



 俺のユニークは所詮しょせん、上辺だけの最強スキルだ。本当に、一芸を磨き極めてrank100に達した者には及ばないだろう。

 その代わり、【虚飾】は代替だいたいできるスキルの分だけ、様々な場面に順応できるはずだ。


 その全てを駆使して、俺はこのダンジョンを踏破してやる!見せてやる……“虚飾うつろかざりのグランドマスター”の全身全霊を!!



【虚飾】が、【目星】rank100に代わりました



 ゴールまでは、あと10メートル弱……これなら!!



【虚飾】が、【跳躍】rank100に代わりました



 自身の足の踏み場が、ちょうど崩れようとした、その瞬間……俺は、走る勢いを利用して、全力でジャンプした。走って間に合わないなら、飛ぶしかない。



 びょんっ!!!




 まるで空中を歩いている感覚、時がスローモーションで流れているようだ。下では一本道が崩れ去り、ついに次の扉のある、わずかな設置面だけ残して、あとはマグマが見えるのみとなった。


 すると、壁際の石像ガーゴイルがギギギと、今度は宙にいる俺に向けて、矢をつがえている。奴らの標的は、あくまで侵入者おれだけなのだ。


 空中でも、自動回避は発動するのか?

 いや、発動してもらわなければ、ここで終わりだ。



 ビュンッ!ビュンッ!!



 石像軍団の無数の矢が、宙にいる侵入者に向けて一斉掃射される。





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