ダンジョン・3

 あと一カ月で中学卒業を控えた、ある日の休日。お馴染なじみの悪友に誘われて俺は、あまり普段は訪れることのない隣町まで足を運んでいた。



「便利な世の中になったもんだ。このホバークラフトを使えば、らくに、それも早く遠出とおでできてしまうんだからな。それに、値段も手頃というオマケつき!」



 この時代の自転車的な役割をしていたのが、見た目は自転車だがタイヤはついておらず、圧縮空気で推進する乗り物・ホバークラフトだった。科学の進歩で、騒音や燃費問題も解消され、一家に一台以上のレベルで普及している。


 そんな俺にとっては今更な情報をドヤ顔で語る悪友を、毎度の如くツッコんでやった。



「お前は、下手な通販業者か!それより、本当にあるんだろうな?この街に」



「兄のいるギルド調べではな。そこそこ、大きなギルドらしいから、ガセネタの可能性は低いだろう。兄貴たちも来てるだろうから、鉢合わせんようにせんと」



 なんと驚くべきことに、三浦の兄も冒険者だったらしく、あの冒険者養成校ゲーティアにも一期生として入学していたのだという。


 その三浦兄が仲間と思われる人物と、この付近にゲート反応が出たという話をしていたことを聞きつけ、俺に情報提供してきたというわけだ。


 俺も冒険者養成校ゲーティアに入るつもりということは話していたので伝えてくれたのだろうが、そんな重要っぽい情報を家族から盗み取るなよとは少し思ったりもした。



「とはいえ、ここからどうするつもりだ?二人でローラー作戦してちゃ、すぐ日が暮れるぞ」



 色々と調べてみると、現時点でゲートの出現地点を意図的に探し出す方法は、ゲートが発する特殊な電波をキャッチすることしかないらしく、それも街一個分の広さまで拡散される為に、そこから先は足で見つけるしかないようだ。


 大手のギルドになってくると、ゲートを探す為だけの捜索専門部隊を組んでる所もあるらしい。



「そこで、お前の出番だろ。いつの日か、俺が財布を落とした時に、探し当ててくれたろ?あれを、ゲートに置き換えて、やればいいだけのことだ」



「あぁ……【ナビゲート】か。あれは、それなりに捜索対象の情報がないと厳しいんだけど。とりあえず、やるだけやってみるわ」



 一応、悪友のよしみでユニークスキルの詳細こそ、教えてはいなかったが、ちょこちょことで手助けしてやったりはしていた。




【虚飾】が、【ナビゲート】rank100に代わりました

 持続効果 30分

 クールタイム 5分




「ここから、一番近いダンジョンへのゲートまで案内してくれ」



 目標を発見しました。ナビを開始します



 メッセージ表示と共に、道に矢印が表示される。この矢印に従って進んでいけば、目的の人や物・場所まで辿り着けるというわけだ。簡単に言ってしまえば、地図アプリのハイパー進化版といったところか。



「いけたっぽい。こっちだ」



「おいおい。ホントに、いけるのかよ……その才能だけで、ギルドに就職できるんじゃないか?」



 言われてみれば、電波さえキャッチしてもらえば、あとは俺の【ナビゲート】でゲートの位置を特定できてしまうわけだもんな。とりあえず、冒険者養成校ゲーティアの面接試験でアピール材料にでも使おうかな。



 そんなことを考えながら、まるでサイクリングを楽しむかのように自前のホバーで、あっという間に目的地へと到着する。



「矢印は、この建物の中をしてる」



 着いたのは入り口に立ち入り禁止のテープが乱雑に貼られてある廃ビルだった。未来の建物なので老朽化した感じは無かったが、今が夜だったら怪談スポットには、なり得そうな不気味さがあった。



「それっぽい場所じゃないか。よし、兄貴たちが嗅ぎつける前に、見つけてしまおう」



 意気揚々と乗っていたホバーを停車させ、テープもお構いなしに中へと入っていく悪友。コイツには、罪悪感というものは存在しないのか。


 まぁ、乗せられて、ここまで来てる俺も俺か。



 中は、もちろん電気も通っておらず暗かったが、三浦が用意周到に持ってきていた懐中電灯が役に立ってくれた。レトロな物でも、便利な物は不滅だ。



 矢印に沿って、三階まで階段を上ったところで、ようやく俺たちは目的のを発見した。




 目標に到着しました。ナビを終了します




「ホントに……あった」



「透明のゲート……無色のダンジョンか。レベル1だな」



「これ、透明なのか?白っぽくも、見えるけど」



 俺が眼前にある光の扉をまじまじと見ながら尋ねると、悪友は情報サイトの1ページをこちらの脳内コンピューターに送りつけてきた。



『ダンジョンの見分け方講座・その1』

 無色のゲート……レベル1

 青色のゲート……レベル2

 緑色のゲート……レベル3

 赤色のゲート……レベル4

 金色のゲート……レベル5



「そこに書いてある通り、ダンジョンのゲートは五つしか存在しない。そこに白色が無いということは、そのゲートは透明・無色だ!冒険者を目指してるなら、これぐらいの知識は入れておけ」



「うぐっ!」




 悔しいが、これは俺の勉強不足であった。てか

 コイツ……何気に、冒険者になりたいのでは?


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