ダンジョン・2

微塵みじん……切り!!」



 ズババババッ



 両手の包丁を脅威の速さで振り、文字通りオセの身体を微塵に切り刻んでいくマサキ。


 しかし、クリーチャーの硬い外皮がいひはばまれ、切り傷をつけるのみで致命傷には至らない。



「ウオオオオオオン!!」


 バキィッ!!


 けたたましい咆哮ほうこうをあげたオセは、強引に右手の拘束を外し、マサキの首を掴み上げる。



「ごふっ!?」



「マサキ!!」



 一言でスイーパーといっても、そのポジションにも様々なタイプのスイーパーが存在する。


 集団戦を得意とする者、攪乱かくらんさせる遊撃手、対人戦に特化した格闘家、そして、大型クリーチャーにトドメをさせるだけの一撃を持つフィニッシャー。


 本来ならば、このチームのフィニッシャーは他にいるのだが、諸事情により遊撃手であるマサキが務めることになっていた。



「玄武流薙刀術……どり!!」




 ズバアッ!!



 仲間の危機に、拘束していた薙刀の柄をゴムのように利用して、瞬時に敵のふところへと飛び込むと、硬化した刃でマサキの首を絞めていたオセの腕を切り落とすセイラ。


 しかし、切り落とした部分から新たな腕がえ出してくる。よく見れば、先ほど与えた切り傷まで見る影も無くなっている。



(なんちゅう、再生力や!?くっ。こんな時、アスカがおったら……!)



 決め手に欠いて、悩むチームリーダーに救いの手を差し伸べるかのように、凛とした女性の声が響いた。




「フィニッシャー抜きで、よくやった。及第点で、合格だ……後は、任せな」



「「「先生!!!」」」



 三人から先生と呼ばれた、その長身の女性は、遥か最後方から投げ槍を構えていた。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 石火矢いしびやミナミ

 24歳(女)日本出身

「漆黒の鎌」副団長 A級冒険者

 身体能力 B+


 スキル

【投擲】rank75

【威圧】rank72

【運転(バイク)】rank70

【キック】rank68

【登攀】rank66

【考古学】rank63


 ユニークスキル【放射】rank ー


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ぶんっ!!


 槍投げの要領で、持っていた槍を敵に向かって投擲したミナミだったが、それはただの槍投げの勢いではなかった。まるでレーザービームのような速さと鋭さを持って目標に命中する。



 ドゴオオオオオオン!!!



 その一射は、再生も追いつかないほどの破壊力で、オセの身体に大きな空洞を開けていた。


 その瞬間、だだっ広い洞窟のようなフィールドの宙に「ミッション クリア」の文字が浮かぶ。



 生徒たちが喜びや驚きの入り混じった複雑な表情になりながらも、勝利を確信して安堵あんどする。




「……先生、助かりました。でも、助け船は出さへんつもりやったんじゃ?」




 切れ長の瞳で貫禄のある先生がゆっくりと近付いてくると、リーダーが尋ねた。




「そのつもりだったんだけどね。総裁級でも上位の奴っぽかったし、アスカのいないハンデもあったからね。特別救済措置……って、やつかな?」



「すみません。ウチがもっと、念入りに作戦を詰めとったら……」



「リーダー初日だもの、失敗しない方が珍しいわ。次、同じてつを踏まなきゃいいの」



「先生……ありがとうございます」



 そんな、良いムードの二人の会話をぶち壊すかのように、マサキの情けない声が響き渡る。



「痛い、痛い、痛い!首の骨、折れた!!絶対、折れとるって!!!」


「はいはい。あとで、バンソーコーでも貼っとき」



 いつものことなのだろう、そっけない態度でホノカが対応し、セイラもミナミも無視して、出現した宝箱へと向かう。


 バトルミッションでは、秘宝の番人たるクリーチャーを撃破すると、こうしてアーティファクトの入った宝箱とダンジョンの出口が出現するようになっていた。



 ギイイイイイ……



 先生に促され、セイラが宝箱を開けると、そこには一枚のマントが入っていた。同時に、そのマントの説明文が宙に表示される。



『変身マント』

 羽織ると、見知った人物に姿を変えることが出来る。効果は、2時間まで持続可能。




「変身マント……色々と、使い道はありそうやないですか?」


「だね。レベル1のゲートにしちゃ、当たりを引いたね」



 入手したマントを、ミナミが丁寧に梱包していると、さっきとは違う真面目なトーンで、マサキが話しかけてきた。



「なぁ、センセー。まだ、分からんのかいな。アスカの消息」



 その質問は、無視するわけにはいかないと思ったのか、先生も真剣な表情で答える。



「……残念ながら、まだ何も。ごめんなさい」



「センセーが謝ることちゃうやろ。噂じゃ、団長から極秘任務を与えられてたっちゅう話もあるんやけど。それは、ホンマなんか?」



「それも……まだ、調査中よ」



 その話に、温厚そうなホノカも黙っていられなかったようで。



「もし、その噂がホンマやったら……そのせいで、アスカが危険な目に遭っとるかもしれんってことですよね!?そしたら、絶対に許さへん!」




 現在、「漆黒の鎌」は理由わけあって、勢力が二分されていた。団長の派閥と、ミナミ副団長の派閥である。ここにいる者たちは数少ない副団長派閥の面々であり、多かれ少なかれ今の団長の方針に疑問を抱いていたのだった。



「……この話の続きは、帰ってから。ゆっくりと、しましょう。ただ、私も黙って様子を見てるつもりはないってことは、覚えておいて」



 ミナミの強い眼差しに、三人の生徒たちは何も言い返すことなく、静かにうなずいた。










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