後日談・4

「ジーク様のアクスタ出てる!かっこいい〜!!」



 ナギのリクエストで、次にやって来たのはアニメグッズの専門店だった。何やら、推しキャラのアクリルスタンドを発見したようで、彼女が異様にはしゃいでいる。普段のクールな姿からは、想像もつかない。



「意外だった?アニメとか漫画とか、大好物なのよ。あの子」



 少し離れたところで、その様子を見守っていると、隣にいたテンが小声で耳打ちしてくる。



「そうなんだ。確かに、見た目とは反してるかも」


「一応、学校では隠してる。クールな一軍女子で通ってるけど、私の前では全開で出してくるんだよね〜。こういうの、自分は好きじゃないんだけどさ。あんまり」



 やや愚痴気味に話してくるテンに、やはり目ざとい隠れアニヲタが気付いたようで、ビシッと指差しで問い詰められた。



「そこ!なに、話してんの?どうせ、“オタク気持ち悪い”とかなんとか、言ってんでしょ!?」


「言ってない!言ってない!!なんか、ユウトが〜……」



 あからさまに、俺に罪をなすりつけてくるお調子者。ホントに言ってないのに、言った感じになってる。逆に。


 テンの言葉に釣られて、ジロリとこちらへ視線を移すナギ。



「それ……最近、アニメ化したゲームのキャラだよね。“流星のジークリンド”だったっけ?確か」


「えっ!?なんで、知ってんの?もしかして、ユウトもやってる?」


「うん。そんなに、やり込んではないけど」


「マジ?誰推し!?」



 三浦に影響されたせいもあって、ちょこちょことアニメやゲームは続けていた。趣味というのは、転生しても変えられるものではないということか。


 しかし、そのおかげでナギとは意気投合でき、その後は彼女と楽しくフロア巡りをして、お互いに戦利品をゲットしていったのだった。




「ふぅ〜。余は満足じゃ」



 両手に買い物袋をぶら下げて満足げなナギ。冒険者って、そんなにもうかるのか?と思ってたら、二人は副業でティーンモデルもしてるらしい。

 冒険者にモデルに学生に、三足の草鞋わらじをこなしているとは、こうして肩を並べてる自分が恥ずかしくもなってきた。



「良き理解者が出来て、良かったね。ナギ。これから、こういうとこ来る時は、ユウト呼んどこ」


「自分が相手したくないだけだろ。テンも、やろうよ!あのゲーム。ずっと、誘ってんのに〜」



 こうして話してると、普通の女子中学生なんだけどなぁ〜。おっと、いい時間だ。そろそろ、解散かな?あの荷物じゃ、歩き回るのも大変そうだし。



「じゃあ、このへんで。今日は、楽しかったよ」


「ああ、もうそんな時間か。こっちこそ、楽しかった!また、付き合ってね。連絡するから」



 ナギが楽しかったのは、お目当てのグッズを手に入れたからという理由が大きい気もするが、話は合いそうなので、今日は良い一面が知れた気がする。


 テンの方をチラリと見ると、何か言いたげな顔で、こちらを見つめていた。かどうかは分からなかったが、俺は先に口を開いてみる。



「テン。あのさ」


「ん、な……なに?」


「俺……ちゃんと、目指してみようかな。冒険者。今度こそ、嘘じゃなく」



 勇気を出して、思っている素直な気持ちを白状してみると、テンの顔がパッと明るくなり、俺の眼前まで接近してきた。



「それ、ホント!?本気で、目指す気になった……って、こと?」


「あぁ、うん。どうせ、他に夢とか目標とかなかったし。やってみようかなって。まずは、このアカデミーに入学できるよう、頑張ってみるわ」



 照れ隠しに、ぴらぴらと貰った学校案内のパンフを振りながら、決意表明を伝える。



「うん!頑張れ!!私たちも、協力できることあったら、何でもするから。いつでも、言って?」



 テンの目配せに、ナギが笑顔で首を縦に振る。

 ホントに、優しい子たちである。



「ありがと。その時は、よろしく」


「でも、待って。学年では一個下になるから、私たちが入学する頃には……ユウトは、先輩になってるのか〜。一回、浪人しとく?」


「高校浪人なんて、するか!先輩でも良いだろ、別に!!」



“女の子に褒められたから”なんてのが、冒険者になりたい理由も、どうかと思ったが、理由なんて些細ささいなことでもいいのかもしれない。


 いや、俺にとって誰かに認めてもらえるということは些細なことではなかったんだ。前世では、そもそも人との関わりすら、ほぼ無い状態だったし、自分で自分を褒めてあげるのが関の山だった。


 冒険者の才能があると言われたのならば、咲かせてみたいと、素直に思ったわけである。





 そして、帰る方向が違う二人と、手を振りながら別れ始めていると、何かを思い出したかのように、テンが走ってきた。



「そうだ、そうだ!ひとつ、忘れてた!!」


「えっ、なに?」



 アカデミーの書類でも渡し忘れてたのか?それとも、クレーンゲームで取ってあげた縫いぐるみか?と、色々と心当たりを探っていると……。




 不意に、ほほに軽いキスをされた。




「言ったでしょ?約束は、守らないと気が済まないタイプだ……って。じゃ、また!」



 そう言って、唖然あぜんとしていた俺のほっぺをムニッと片手でつまんでから、彼女は颯爽と親友のもとへと戻っていく。


 親友は、その姿を見て呆れた様子で笑っていた。








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