後日談・2

 ビルの中に入ると、フルダイブ型のVRマシンや、実際にモンスターや魔法のエフェクトが立体映像化されるカードゲームなどなど、気になるゲームが盛り沢山だった。自分磨きに夢中で、こういう娯楽施設などに今まで触れてこなかったのが悔やまれる。



「あっ!あれ、やろーよ。あれ!!」



 俺の肩を強めに叩き、テンが指差したのはパンチングマシーンの未来版みたいな筐体きょうたいだった。“象に踏まれても壊れない頑丈さ!”というチープなポップ広告が貼られているのが、逆に怪しさをかもし出していた。



「良いけどさぁ……女の子が、最初に選ぶようなゲームじゃないだろ。これ」



「なに、オッサンみたいなこと言ってんの。今、流行ってんだよ?若い女の子の間では」



「えっ、そうなの!?全然、知らんかった……」



 この時代の女子は、ストレス溜まってんのかなぁ?もっと、流行に敏感にならないとダメだな。深層心理にいるオジサンが顔を出してきてしまう。



「ねぇ、勝負しない?どっちが高いパンチ力を出せるか!」



「いやいや。男と女じゃ、明らかにそっちのが不利でしょ」



「ほほう。そう思うなら、試してみるかね?こうみえて、クラスの男子より良い記録、出したことあるからね!私」



 そりゃ、まあ傭兵と渡り合えるぐらいなんだから、普通の男子中学生よりかは強いだろう。



「それでも、勝てると思うけどなぁ……さすがに、俺が」



「かっちーん」



 カチンときたらしい。わざわざ、心情を口に出してくれて助かる。いや、下手にあおってしまったか?



「いいよ。じゃあ、私が負けたら……チューしてあげる!これで、やる気になったろ!?」



 はぁ!?いやいやいや、女の子が軽々しく、そんなことをするもんじゃない!と、説教しそうになったが、落ち着け。思いっきり、おっさんムーブだ。


 チューいうても、軽いやつだろ。海外では、挨拶でしてるぐらいだし、変に動揺したら、逆にいやらしい感じにとらえられてしまうかもしれない。



「ほぉ、言ったな?そういうことなら、受けて立ってやろう。後悔しても、しらないからな」



 これぐらいが、ノリも良くてベストアンサーだろう。いや、何がベストかなんて分からないけど。



「そっちこそ。ユウトが負けた時の罰ゲームは、ちゃ〜んと考えておくからね!?」



 ちゃんと、リスクもあったんかい。しかも、具体的に罰ゲームの内容を教えてくれないの、ズルくないか?手加減して負けてやろうと思ったが、話が変わってきたぞ。テンの場合、とんでもない罰を提案してきそうだからな。



「先攻、私からでいい?」



 ちゃっかり、筐体に繋がっているグローブを利き手に装着して、ブンブンと腕を回している。

 もはや、先攻でやる気満々やないかい。



「どうぞ。じゃあ、俺は後攻ね」



 逆に、良かったか。相手の数値を見てからなら、こちらも出力を調整しやすくなるというもの。


 すると、すぅ〜っと息を吸ってから突然、彼女が大きな声で叫んだ。



「よーし!歴代一位の記録、塗り替えるぞー!!」



 デカい、デカい。他のお客さんも注目してるじゃないか。あれか?目立てば、俺が緊張して実力を発揮できないとでも思ったのか。


 待てよ……違う!そうだ、忍頂寺テンのユニークスキルは!!



 ズドンッ!



【不忍】の効果で、加速したテンの重い一撃が筐体のミットにクリーンヒットした。



 測定:280キロ(New Record!)



「おぉ〜!!」っと、ギャラリーからの歓声が上がる。可愛らしい女子中学生が、宣言通りパンチングマシーンの新記録を樹立したのだから、否が応でも盛り上がるだろう。



「よっしゃ!ニューレコード、きたこれ!!」



「ずるっ!ユニーク使うの、アリかよ!?」



「ふふん。使っちゃダメなんてルール、設定した?」



「ぐぬぬ……!!」



 そういうことなら、いいだろう。こっちも使って構わないということだな。

 ちょうど、試してみたいスキルがあったんだ。良い機会だ、使ってみるか。



 ピッと電子マネーでプレイ料金を支払い、俺は対戦相手からグローブを譲り受けた。加速したテンの一撃を超えるには、これぐらいかな……?



【虚飾】が、【こぶし】rank82に代わりました。

 持続効果 5秒

 クールタイム 60分



 基本スキル【こぶし】【キック】などは、【近接戦闘】とは異なり、単純なパンチや蹴りの強度を表す。【虚飾】で使用した場合、一発分しか放てない代わりに、強力な一撃をお見舞いすることのできる必殺スキルであった。


 ただし、その一撃を放つには腕の筋肉を隆起りゅうきさせ、全身のエネルギーを拳や脚などに一点集中しなければならないため、他のスキルと異なりチャージタイムも必要となるのだ。



「めっちゃ、集中すんじゃん」



 パンチを出す体勢で、しばらくジッとしていた俺に対戦相手からの野次が飛ぶ。ここで集中力を切らしては、存分な一撃は放てない。無視だ。


 よし、そろそろ……きた!!


 俺は、チャージの完了した【こぶし】を、勢いよくパンチングマシーンに叩き込んだ。



「はああっ!!」



 ズドオオオンッ!!!



 大きな衝撃音がして、しばしのタイムラグがあってから、計測値が表示される。



 測定:388キロ(New Record!)



「うおおおおお!!!」と、さっきより大きい歓声が周囲から巻き起こる。何も知らない人から見たら、やたら馬鹿力なカップルがいるとでも思われてそうで怖い。



「よし!俺の勝ちぃ!!」


「300超えって……マジ?絶対、ユニーク使っただろ!?」


「そっちが先に使ったんだから、お互い様だろ?」



 とはいえ、もう少し出力を落としても良かったか。いくら冒険者見習いとはいえ、女子中学生相手にムキになりすぎてしまった。反省、反省。



「マジで、ユウトのユニークスキル謎なんだけど。パワーまで、上がるのかよ〜」




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