襲撃・11

「では……この者たちの身は、我々で預からせていただきます」


「ええ、よろしくお願いするわ。副団長」



 眼鏡を掛けた、いかにも仕事が出来そうな黒スーツの女性『ヴァルキュリア』の副団長・黒宮ユウカが、引き連れてきた女性だけの精鋭部隊に目配めくばせすると、拘束された傭兵たちが連行されていく。




 あの後、ライアン先生と合流した俺たちは、戦闘不能となっていた敵兵たちを拘束し、「ヴァルキュリア」本部に連絡を取ると、30分も経たないうちに副団長一行が到着した。


 警察に引き渡す前に、ギルド本部で尋問を行い、協会に報告するらしい。おそらく、黒幕の情報は得られないとのことだが、それが通例のようだ。




「この度は、申し訳ありませんでした。ここならば、比較的にみて安全だと思っていたのですが……完全に、我々のリサーチ不足です」



「副団長が、謝ることじゃあないわ。こんなところまで襲撃者を送り込んだ、どこぞの性悪しょうわるギルドが悪いのよ。ぜ〜んぶね」



「ありがとうございます、ライアンさん。念の為にアカデミー入学までは、候補生の訓練はなくすことにしました。その間は、彼女らの身辺警護も強化するつもりです」



「それが、いいかもねん。あの子らには、特別な自主練メニューでも送っておくわん」




 ふぅ、俺も念入りに事情聴取されてしまった。もう、日も暮れてきたし、早く帰らないと母さんが心配しそうだ。それにしても、激動の一日だったな。


 チラッと話をしている二人の方に視線を向けると、不意に副団長さんと目が合ってしまう。遠くからでも、全てを見透かしてきそうな眼力を感じる。




「彼……ですか?」



「ええ。植村ユウト、たまたま此処ここに入り込んじゃった冒険者志望の男の子。見込みがあると思って、訓練に誘ったんだけどねん。あの子がいなかったら、アタシはともかく、二人を守ることは出来なかったかもしれない」



「強いのですか?」



「……ええ。相当、強力なユニーク持ちだと思う。ホント、何者なのかしら?あのコ」




 ライアンの言葉に、しばし何か思案するような仕草をみせる黒宮ユウカ。



「なるほど、思い出しました。どこかで聞き覚えのある名前だと、感じていたのですが」



「えっ?副団長、あの子のこと知ってるの?」



「植村ソウイチロウのご子息の名前が、確かユウトだったと……何かの記事で、読んだことがあります。同姓同名の人違い、という可能性も無きにしもあらず。ですが」




「ヴァルキュリア」副団長・黒宮ユウカは戦闘能力こそ皆無だったが、一度でも目にしたものは絶対に忘れないという完全記憶の持ち主だった。その特性を生かして、ダンジョン攻略では一級のアンサーとして活躍している。ユニークスキルである【罰則】は、あくまでオマケ程度の産物であるのも面白い。




「植村ソウイチロウって……あの、“冒険王”植村ソウイチロウ!?」



「はい。とはいえ……今は、一線を退いて『日本国調査団』の管理職に就いているようですが」



「それでも、凄い血筋には変わりないわ。お父様のサイン、頼んじゃおうかしらん」



「ふふっ。ですが、そういうことなら、彼の護衛は必要なさそうですね。植村家に守られているとするならば、あの方たち以上のボディガードは、我々では用意できませんから」




 まーだ、こっちをチラチラ見てるよ。まさか、俺の話でもしてるのか?首を突っ込みすぎたから、処分されるなんてことないよな……?



「なーに、副団長のことジロジロ見てんの。もしかして、ああいう女の人がタイプとか?」



 ニヤニヤしながら、俺をからかってくるテン。さっきまでおびえてたくせに、すっかり元気を取り戻している。



「そんなんじゃないよ。てか、ちゃんと帰らせてくれるよね?俺のこと」



「心配しなくても、大丈夫だって。ウチのギルドは、そんなブラックなとこじゃないから」



「はぁ……なら、いいんだけど」



 別に門限があるとかではないが、遅くなった理由が傭兵部隊に襲われて……なんて、言えるわけない。ただでさえ、心配性なところがあるからな。うちの母親は。


 そんな焦る俺をよそに、テンはぐいぐい話を続けてくる。根っからの陽キャなのだろう。



「ユウトって、このへん住んでんの?」



「えっ?うん、まあ、ちょっと距離あるけど。近いっちゃ、近いかな」



「そーなんだ。じゃあ……今度、遊びに行こうよ!ナギと三人で」



“じゃあ”の意味が分からんが、二人もこの近くに住んでるってことか?突然、巻き込まれたナギも驚いた表情してるけど。



「遊ぶったって……」



「交換したっしょ?連絡先。ナギと相談して、都合のいいとき誘うからさ」



 ああ、あのフレンド登録か。用が済んだから、消されるのかと思ったけど、残してくれるんだ。

 トントン拍子で話が進んでいきそうなので、とりあえず渦中のナギの顔色におうかがいをたてる。



「この子、思い立ったら一直線だから。観念して、誘われた方がいいよ」



 いつものこととばかりに、あきれたような笑顔でこちらに返す親友さん。とりあえず、彼女もいやそうではないので安心した。



「わ、わかった。じゃあ、いつでも連絡して」



「おっけー。待っててね」



 女の子から遊びに誘われるなんて、前世の時から数えても初めてのことだった。やっぱり、ちょっと嬉しいものだ。頑張った甲斐があったのかな?


 ……いや、頑張らせすぎだけどな!!








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