襲撃・10

「風切り……裂爪れっそう!!」



 ズバアッ



 地面から真空波の鉤爪かぎづめが発生し、俺の真横の空間をいだ。


 もう、閃光の効果は切れてしまったようだ。敵の視力は、徐々に回復してきている。


 しかし、接近戦にさえ持ち込めれば有利な状況に変わると思っていたのだが、ちゃんと敵も至近距離用の技を隠し持っていた。


“風切り・裂爪”は、下から上へ刃を振ることで、アッパー気味の真空波を発生させるというもので、通常の“風切り”よりも長く近距離圏内に風刃を残す、厄介な改良型だった。


 その上、あいだに打撃や斬撃、ノーマル真空波を交えた多彩な攻撃をしてくる為、俺は自動回避やパリィを使って、凌ぐのが手一杯の状態が続いていた。



 このままじゃ、【近接戦闘】の効果が切れてしまう。防御してるだけじゃ、ダメだ……攻めないと!





 フェイスマスクで表情こそ見えないが、リーダー格の男も内心では、焦りを感じていた。



(俺の全力の猛攻を、ことごとく凌いできやがる。この年齢で、末恐ろしい餓鬼だ……だが、やられるわけにはいかねぇ!!)



 ちょこんとバックステップをして、距離を取ろうとするも、すぐにユウトも足運びに気付いて、密着を外させない。



 絶対に距離を取られちゃ、ダメだ!中距離戦になったら、真空波の雨が飛んでくる。ナギが作ってくれた、この好機を逃すわけにはいかない!!



 俺は頭をフル回転させて、今まで見てきた武術の知識を思い出す。そして、この戦況で最も相応しいものを再現させた。



「風切り・裂爪!!」



 ズバアッ



 風の鉤爪を避けながら、俺は円の動きで敵の背後に回り込む。八卦掌の独特な歩法“走圏”である。


 敵は直線的な攻撃を得意としている。円運動ならば、ことができる。



 ゴッ



 背後に回りながら、肘を敵の脇腹に刺す。初めて、まともに攻撃を当てることが出来た。



「くっ!」



 しかし、装備越しだったのか大したダメージは与えられず、すぐさま振り向いてナイフを突き出してくる。


 それを、掌を上向きにした特殊な突き“双托転掌そうたくてんしょう”で防ぎ、軌道を変える。

 その流れで今度は八極拳の“頂心肘ちょうしんちゅう”というひじ攻撃に移行させ、相手の鳩尾みぞおちに打ち込んだ。



「が……ふっ」



 これも防弾チョッキによって、ダメージは半減しているが一瞬でも動きを止められれば十分だ。次なる大技に繋げることが出来る。


 バシンッ


 今度は、両の掌打を敵の両耳へ勢いよく叩きつける太極拳の“双峰貫耳そうほうかんじ”。

 この一撃で、脳内は揺らされ完全なる棒立ち状態へと変わった。


 そして、俺はトドメの一撃を放つ。


 自身の耳裏で構えた両の手の平を、一直線に相手の胸に叩き込む。八卦掌の“双撞転掌そうどうてんしょう”である。このスキルだと、こうして様々な武術を混在させて使えるのが良い所でもある。



 どんっ!!



“双撞転掌”を無防備な状態で、まともに受けたリーダー格の男は勢い良く吹っ飛ぶと、背後にあった大木にぶつかって、ずるずると崩れ落ちていく。


 その際に後頭部も打ったのか、完全に気を失っているようだった。


 念の為、持っていたナイフなどの武装を倒れている男から取り上げておく。そのついでに、周囲を見渡すと残存兵の姿は見当たらず、ようやく俺は安堵あんどした。




 良い経験になった。もっと臨機応変に戦えるように、色々な武術を学習しておかなければ。

 今の俺のマスタークラスというのは、RPGで例えるならばレベル90でありながら、ほとんどの技や魔法を覚えてない状態のようなものだった。引き出しを増やさないと、真のマスタークラスの実力は発揮されない。


 だからこそユニーク持ちとはいえ、エキスパートクラスの傭兵に、ここまで苦戦してしまったのだから。




 いや、まあ、普通の生活を送っていくなら、こんな奴らと戦うなんてことは今後は無いに等しいわけなので、強くなる必要もないのだが。どうせなら、持ってる才能は完璧に使いこなせるようになっておきたい。厨二病男子の悪い癖である。




「ユウト!!」




 すると、仲間の二人が、こちらに手を振りながら駆けつけてくる。双方、無事なようで何よりだ。




「お疲れ様。もう、敵はいなさそう?」



「うん。そっちも、終わったみたいだね。怪我はない?」



 俺の足元で眠る敵リーダーの姿を見ながら、テンが心配してくれる。



「目立った怪我はないけど……ちょっと、疲れたかも。はは」



 マスタークラスを、ほぼフル稼働させていたので、解除された後の疲労感は、かなりの大きさだった。ここらへんも基礎体力を向上させて、補っていきたいところだが、とにかく今は休みたい。



「こんだけ、大立おおたまわりして、ちょっと疲れただけかい。ホント、キミ……何者なのよ?」



「え?あ、いや〜……」



 ジト目で怪しんでくるテンに、俺が戸惑っていると、ナギが助け舟を出してくれた。



「まあ、いいんじゃない?スパイじゃなかったみたいだし。こうして、全員が生き残れたんだから。まずは、それを喜ぼう」



「ん……そっか、そうだね。私たち、生き残れたんだ。はは、良かった。やれば、できるもんだね」



「いや、待って。全員?誰か、忘れてるような……」




 ナギの言葉に、三人が一斉に考え込み、ほぼ同時に口を開いた。




「「「ライアン先生は!?」」」




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