襲撃・8

「貴様……一体、何者だ?情報には、お前のような男のデータは無かった。貴様も、『ヴァルキュリア』の冒険者なのか!?」




 一瞬のうちに同胞二人を制圧した謎の少年を前にして、三人目の傭兵は後退あとずさりしながら、恐る恐る尋ねた。




「いいや。生憎あいにくだが、俺は入団条件を満たせないみたいなんでね。そのギルドには、入れないんだ」



「なに……?なら、他のギルドの冒険者か!?」



「それも、違う。俺は、通りすがりの厨二病男子だ……ただのね」




 俺の返答に、相手は困惑している様子だ。冗談を言って、誤魔化してるとでも思われたのだろうか。

 厨二病男子というのは本当なのだが……“ただの”かどうかは、置いておいて。


 とにかく、相手は明らかにビビってくれている様子だ。これは、戦わずに済むかもしれない。




【虚飾】が、【威圧】rank100に代わりました

 持続効果 5秒

 クールタイム 5分




「無益な争いは、したくない。余計な怪我をしたくないなら、今すぐ武器を捨てて、この場から去ってくれ」



「あ……あ……」



 兵士は、少年の気迫を直に浴びて背筋が震えだす。

 本能的に“戦ってはいけない”と、悟らされたかのように。


【威圧】は強者や戦意の強い者に対しては、一瞬だけ萎縮させるぐらいの効果しか持たなかったものの、明らかに格下の相手や戦意が薄まっている者に対しては、絶望的な恐怖を与えて戦闘不能状態におちいらせてしまうほどの威力があった。



 その恐怖に呑まれた男が、投降を口にしようとした、次の瞬間……。



 ズバアッ



「ぐ……ふっ」



 男の背中から、突如として大量の血が飛び出ると、そのまま前のめりに倒れてしまった。


 よく見ると、男の背中には何かによって斬りつけられたような大きな一本傷が出来ていた。恐らく、血の原因はなのだろう。




「戦場に、戦う意志の無い者は必要ない……」



 男が倒れると、その直線上に、黒光りしたダマスカスナイフを逆手に持ったリーダー格と思われる傭兵の姿が見えた。




「まさか……アンタが、やったのか?仲間なんじゃないのかよ!?」



「腕は立つようだが、やはり餓鬼がきか……青臭いな。使えなくなった仲間は、切り捨てる。これが、戦場の常識だ。覚えておけ、小僧」



「……青臭くて、結構だ。アンタみたいな奴は、許せない!」




 リーダー格の男は、何も言い返すことなく、こちらに向かって歩いてくる。さすがに、さっきまでの敵とは風格が違う。


 何より不思議なのは、あんな離れた場所から、どうやって、さっきの男を切り裂いたのか?と、いうことだ。それが、奴の持つユニークスキルの性能なのかもしれない。




 ぶんっ




 すると、敵リーダーはまだ十分に近付いていない距離で、手持ちのナイフを振った。




「!?」



 ブオンッ




 身体が反射的に動き、をギリギリで回避した。自分の髪の先端が、はらはらと何本か散っているのが分かる。【回避】が自動性能じゃなかったら、今の一撃で終わっていただろう。




「ほう。今のを、初見でかわすか……面白い」




 これで奴のユニークスキルは、おおよその見当がついた。今のは、きっとのだ。


 刃が発生させる真空波みたいなものだろうか?何にせよ、このまま真正面で対峙しているのは危険だ!




「気付いたようだな。俺の【鎌鼬かまいたち】に……」



 ブオンッ



 返しの一振りで再び真空波が放たれるが、俺は咄嗟に木の陰へと飛び込んで避難した。



 ズバアッ



 奴の放った真空波は一本の巨木に炸裂すると、その一撃で半分ほど太い幹を削り取っていた。



 男のユニークスキル【鎌鼬】は、その名の通り、刃を振ることで真空波を発生させることが出来る、というものである。



 これじゃ、迂闊うかつに近付けないぞ……どうする?



 厄介なのは、真空波自体が目に見えないことと、察するに刃を振るだけで“それ”を発生できてしまうという点だ。

【回避】は、物理的に避けられない状況だと自動発生は行われない。逃げ場がなくなるほどに、真空波を乱射されればジ・エンドというわけなのだ。


 かといって、こちらの有効的な攻撃手段は接近戦しかない。倒す為には、どうしても近付かなくてはならなかった。




「さっきまでの威勢は、どうした?そのまま、ずっと隠れているつもりか?」



「くっ……!」



 どのみち、このままジッとしていれば、【近接戦闘】の効果時間が切れてしまう。そうなったら、いよいよ勝つ手立てが無くなって終わりだ。


 やるしか……ない。



 俺が意を決して、木陰から凶暴な鎌鼬の様子を伺いながら、飛び出すチャンスを狙っていると、耳元に綺麗な声が響いた。




「ユウト、聞こえる?まだ、生きてるよね?」




 ナギの通話音声だ。一応、心配してくれてるらしい。



「何とか、生きてる。けど……結構、ヤバいかも」



「多分、アイツに援護射撃は通用しない。もう、私の位置は把握されてるだろうから、あのレベルの戦闘者なら間違いなく、こちらに注意を払ってる」



「……ああ、分かってる」



「……けど、一瞬だけ。ヤツのすきを作り出すことぐらいなら、できるかもしれない」




 もう、議論を重ねてる時間もない。俺は、ナギの考えた作戦に、一縷いちるの希望を託すことにした。







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