襲撃・7
「ユウト!」
接敵するユウトを援護しようと、制服のブレザーに仕込んでいた新たな暗器を取り出そうとするテンのもとへ、左翼に展開していた一兵卒が接近する。
「貴様の相手は、この俺がしてやる!」
「ちっ!」 と、舌打ちをしながら標的をすぐさま、目前の敵へとシフトチェンジし、手裏剣を投擲するテンだったが……。
「!?」
その手裏剣は、射出された三本ともが綺麗に敵の身体をすり抜けてしまい、攻撃は失敗に終わる。
いくら数打ちゃ当たる戦法とはいえ、この距離で、しかも三本の同時投擲で的を外すことなど、練習では有り得なかったテンは、動揺を隠せない。
更に不可解なのは、敵が特に目立った回避行動を取ってなかったのにも関わらず、当たらなかったという事実だった。
「無駄、無駄。俺に、その手の武器は通用せんぞ」
構わず、投擲を続けようとブレザーの内側に手を伸ばすも、仕込ませていた手裏剣は既に底をついていた。最初から実戦を想定していれば、もっと多くの暗器を装備していたのだが、まさか本当に襲撃に遭遇するなどとはテンも思っていなかったのだろう。
なくなく、彼女が接近戦の覚悟を固めると、不意にその一矢は飛んでくる。
ビュンッ
それは友人を救うべく、装填を完了させたナギの放った渾身の一閃。しかし、惜しくもその矢は、敵の目前を通り過ぎてしまい、不発に終わってしまった。
(ナギの矢まで、外れるなんて……ありえない!まさか、こいつのユニークスキル!?)
「ようやく、気付いたか。そうだ、俺のユニークスキル【
なんてことだ。よりにもよって、ナギやテンにとっては最悪の相性となるユニーク持ちだった。
こうなれば、接近戦は止むを得ない状況だったが、まともに戦えば、技術面でも身体能力でもテンの不利は、誰が見ても予想がついた。
それは、もちろん本人だって承知の上だ。何かを覚悟したような表情でスッと息を吸うと、次の瞬間
、彼女はおよそ戦場には似つかわしくない声のボリュームで叫んだ。
「よかろう!貴様ら、まとめて……この大冒険者・忍頂寺テン様がギッタンギッタンのバッタンバッタンに、こらしめてやろうではないか!!かかってこーい!!!」
その大声の主に一瞬、その場にいた全ての人間の視線が集まる。
それはユウトも例外ではなく、急に奇声を発し出した仲間に困惑の表情を浮かべていた。
「ふん、冒険者の卵とはいえ、ガキはガキか。勝算が無いと分かって、発狂するとは」
驚きはしたものの、すぐに平静さを取り戻した男は、持っていたバタフライナイフを手で遊ばせながら、いよいよテンを仕留めにかかった。
その様子を遠くの木の上で見守っていたナギは、小声で独り言を
「【
シュンッ
確実に首を掻っ切ったと思った兵士は、困惑する。そこにいたはずの少女が、残像となり消えたのだから。
いや、消えたというのは正確ではない。超高速で、敵の斬撃を回避したのだ。
(どこだ?どこへ行った!?)
慌ててキョロキョロと周囲を見回す男は、少し離れた後方に、地面から何かを拾い上げる標的の姿を発見した。
(今の一瞬で、あんな所まで移動したのか!?これが、あのガキのユニークスキル……?)
「……
「!?」
テンがボソッと何かを呟いた瞬間、男は身を守る猶予すら与えられず、身体に何かを突き刺されていた。そう、彼女は一瞬で十歩分ほどの遠さの間合いをゼロにしたのだ。
古武術の独特な歩法“縮地”と【不忍】の効果を合わせた、瞬間移動とも
「ハッ!素人め、防弾ベストのど真ん中に攻撃してくるとは……詰めが、甘かったなぁ!?」
男の言う通り、テンが突き刺したのは分厚い防弾ベストの部分であり、肝心な刃先は敵に届いていなかったのだ。
形勢逆転とばかりに、テンの手首をガッシリと捕まえる兵士。素早い敵に対抗する一番の策は、拘束して動けなくすることである。
「もう、逃がさねぇぜ?お嬢ちゃんよ」
今度こそと、敵のバタフライナイフが目前の首を捉えようとした時、テンは冷静に、刺していた“スタン・アロー”の機能を作動させた。
バチバチバチッ
そう、テンが拾い上げた武器は自身の“暗器”ではなく、先ほどナギが外して地面に刺さっていた“矢”の方だった。
高圧電流が全身に流れ込み、男はバタリと気を失った。防弾ベスト越しでも、“スタン・アロー”の電撃は貫通することを事前にテンは知っていたのだ。
「飛び道具がダメなら、飛ばさなきゃいい……って、聞こえちゃいないか。ちーん」
テンは電気絶縁効果を持つ手袋を装着した両手を合わせて、気を失った敵へと合掌を送った。
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